「と、とうとう追い詰めたわッ!」
私は今、とある海賊を路地裏まで追いつめている。相手の後ろはベタにも壁があって行き止まり状態。とてもラッキーである。しかし私は超がつくほどの怖がりで、正直今もビビりまくっている。海軍に入ったのだってこの怖がりというか、気の弱さを克服する為だったし…。だがまったく効果はなかった。むしろ怖い上司や恐ろしい敵ばかりで寿命が縮まりそうだ。
「い、痛い目に遭いたくなければ武器を捨てなさい!」
「…ふーん。お姉さんめちゃくちゃ手ェ震えてるけど?」
「これは武者震いなの!べつに怖くなんかないん」
「ドカーン!」
「ヒィッ!」
い、いきなり大声出さないでよ!自慢できるくらい怖がりなんだから!って敵があくびしてる…!完全に見下されてしまった…。
「ところでお姉さん。おれの仲間が後ろに集まってきてるけど」
「エェーッ!?」
まさかそんな…!
ビビりながら振り向くと相当悪そうな顔をした彼らがニタニタと笑っていた。ヤ、ヤバい!ていうか私の仲間は何で来てくれないの!?と思ったら、そう言えばみんなご飯食べてくるー、とか言ってお店に入って行っちゃったんだっけ。ワーッ!私めちゃくちゃピンチ!
「わ、私下っ端なのに!か弱いのに!」
「見ればわかるよ」
「貧相な身体してるし」
「脱いだらすごいんだから…!」
勇気を振り絞って叫んだらフンッと鼻で笑われた。ほんとなのに…!ってアー!奴らが迫ってきた。怖い怖い!ヒィー!
「ヒィー!」
どうせ私は海兵のくせに腕っぷしは弱いし気も小さいわよ…!無理して海軍になんか入るんじゃなかった…!
しゃがんで頭を抱えるとサラッとした風が吹いて気がつけばあの海賊たちは全員、地に伏せている。え…いったい何が…。
「あ、あなたは…!」
「相変わらずだな、へなちょこ」
顔を上げると、そこには最近見過ぎるほど見てきたクロコダイル氏が立っていた。ということは、コイツらをのしたのはクロコダイル氏?
「なんであなたが…!」
「偶然だ」
嘘だ。そんなバカな。だって一週間前、別に軍事会議があるわけでもないのに七武海の彼は海軍の土地に、いやむしろ私の部屋に来ていた。理由を聞けば「暇だったから」だそうだ。その時の私と言えば過酷な訓練を終え、食堂で食事を摂り、大浴場で汗を流し、ようやく部屋についたところだった。
百歩譲ってそれはよしにしよう。だがそれ以前からクロコダイル氏と私は、私が任務で向かう先々でバッタリ出くわしていた。それも名も知らぬような場所!これは本当に偶然といえるのだろうか。今だってこんな路地裏で再会している。
「本当に偶然なんですか?」
「他に何がある。言ってみろ」
「う…。わ、私を追い掛けているとか…?」
「てめェ…」
「ヒィ…!怖い!」
とんでもない眼力で睨まれている。その目力は本物の鰐なんか目ではない。ていうか自分の言動を振り返ればなんという自意識過剰なのだろうか。怖いもの知らずもいいとこである。私ってば人一倍怖がりのくせに何言ってんの…!
「ご、ごめんなさ…!」
「よくわかってるじゃねェか」
「は?」
い、いま褒められた…?
「てめェのことだから一生気付かねェと思ったぜ。似合わねェな」
「…に、似合うとかの問題なんですか」
だがしかしよく考えれば意味がわからない。つまり彼は故意で私を追い掛けていることになるが、いったいなんのために?
私は海軍将校でもなければ軍曹や曹長でもない。完全なる下っ端だ。もう最近は下っ端というよりパシリだ。なぜか食糧調達なんかもやっちゃっている。そんな私にクロコダイル氏はなんの用なのだろうか。
「私になにかご用で…?」
「……」
「見ての通り気の弱い一海兵です」
ビクビクしながら言ってみる。まさか口答えしただなんて思われていないだろうか。
「…ハァ」
「ドキーッ!」
「お前は気も弱いが頭も弱いらしいな」
「え…それはショック…」
「まあいい。それならそれで楽しむだけだ」
た、楽しむ…?もうわけがわからない。私の頭は爆発寸前である。きっと今の私ではクロコダイル氏の言うことなど一割も理解できないだろう。
「いいかみさき」
「え、わ、私の名前を…!」
「おれはお前がおれの真意を理解するまで追い続ける。いいな」
「え〜!な、なんという難問…!」
「覚悟しておけ」
それだけ言い残すと彼はサラサラとした砂に変化し、目の前から消えていった。消える直前に私の頬を撫でたのは、私の気のせいだろうか。
なんというハードルの高い追っかけだろうか―――――
甘さがみえません…。本当にすみません。リベンジ…といってはなんですが、もう1つ別に話を考えていますので、後日短編にてあげようと思っています。よろしければ、そちらもごらんください><