「いってらっしゃい!」
「ああいってくるよい。知らねぇやつが来てもドア開けんなよい」
「了解でーす」
朝、仕事に向かう夫に笑顔で手を振りながら見送るのは結婚してから今日まで毎日欠かさずしている。もはや日課だ。
結婚して3年。同棲や付き合っていた頃から数えるとかなり長い年月を共にしているが、未だに倦怠期や飽きというものがない。こうして自分たちの生活のために毎日汗をかきながら仕事をしてくれるマルコには感謝してもし足りない。私がこうして家事のみに専念できるのは全部マルコのおかげなのだから。
「素敵な人と結婚したなぁ」
こうしてしみじみ噛み締めるのもよくあることで、今の私の楽しみといえば仕事から帰ってきたマルコに温かい料理を出すこと。いつもおいしいと言って食べてくれるから作りがいもある。
「今日は何にしようかな〜」
洗濯も掃除もおつかいも、頭の中にあるのはマルコのことばかり。そうやって私の1日は回る。
「ただいま。帰ったよい」
「おかえりなさい!今日もご苦労さまー」
帰ってきた夫に労いの言葉をかけ着ていたスーツの上着を受け取る。そしてハンガーにかけるのだが、今だから慣れたこの一連の動作も新婚当初は気恥ずかしくてよく顔を赤くしていた。そのたびに「かわいい」と言ってくれたのだけど、最近は免疫がついてきたのか言われない。なんか寂しいなぁ…。
「いただきます」
「どうぞ召し上がれ!」
基本的にご飯のときはテレビは消すから食べてる最中は無言になる。でもそんな無言の空間でさえも心地いいと感じる私は末期だよきっと。
「今日もうまいなぁみさきが作ったメシは」
「えへへ、ありがとう。マルコがそう言ってくれるから作りがいがあるよ」
今日も自分が作った料理を褒めてくれた。それがすごく嬉しい。きっとマルコは私がどんなに喜んでるかわからないんだろうなぁ。
ご飯を食べたら二人で仲良く食器を洗って、終わったらソファに座ってテレビをみる。その間にホカホカのお風呂を入れる。先にマルコが入って次に私。やっぱりがんばって働いてくれてる旦那さまが先だよね!
二人ともお風呂に入ったらまたソファに座って今度は雑談。お互いに今日はこんなことがあったとか、今度の休みはどこに行きたいとか、明日のご飯は何がいいとか。他愛ない会話だけど、この瞬間がたまらなく愛しい。マルコの纏うやわらかなオーラに癒されて明日もがんばろうって思えるんだ。
だから私もマルコに何かしてあげたい……そうだ!
「マルコ!寝室いこ!」
「もう寝るのかい?」
「ううん、まだ寝ないよ」
よくわかっていないマルコを寝室に連れていきうつ伏せで寝かせる。
「えいっ」
「みさき?」
うつ伏せで寝ているマルコの上に乗る私に困惑するマルコ。今からは私のターン!私だって少しでもマルコの役に立ちたいんだよ。
「というわけでマッサージでーす」
「いいって。みさきだって疲れてんだろい?」
「私は全然大丈夫!マルコは私に任せてくれればいいの」
今にも起き上がりそうなマルコの肩を少しだけ押すと、了承してくれたのか再びうつ伏せになった。
「痛くないですかー?」
「ああ。気持ちいいよい」
「やった!痛かったら言ってね」
会話も途切れ、マッサージに集中する。わぁ…、やっぱりマルコの背中って大きいなぁ。肩もしっかりしてて…。この男としても恥ずかしくない身体にいつも守られてるかと思うと胸の奥がくすぐったくなる。
「みさき」
「ん?なあに?」
「いや、なんつーか」
「マルコ?」
付き合い始めたとき、お互い隠し事だけはしないようにとルールを作ったので、たぶん私たちの間に隠し事はない。そもそも隠すこともないし。
じゃあ今マルコは何を言おうとしてるんだろう?
隠すことのない言葉を、私は黙って待つこととする。
「…言わなきゃダメかい?」
「私たちの間に隠し事はない、でしょ?」
「そうだな…。いや、なんつーか、幸せだなぁと思ってよ」
「え?」
「自分も疲れてるだろうに、いろいろしてくれてよ。いい女を嫁にもらったよい、おれは」
「マルコ…!」
マルコ、私も幸せだよ…!素敵すぎる。私、結婚して本当によかった。
「私も、怖いくらい幸せ」
「そうかい」
「ね、マルコ。これからもずっとこうやって一緒にいようね」
「ああ、もちろんだよい」
私はマルコに出会えて、結婚できてすごく幸せ。だからマルコにもそう思ってもらえるようにがんばるから。だからこれからもずっと一緒にいようね。