長年の片思いがつらくなってしまった。今年こそ兵長に告白しようと思った。長年と言っても正確には一年と三十四日で去年のバレンタインも私同じこと言ってた気がする。
「なんだそのクソでも我慢したような顔は。紅茶がまずくなる」
『…ごめんなさい』
「謝るならそんな顔するな」
『ちょっと考え事してました。兵長、ちなみになんですが去年のバレンタイン、チョコレート何個もらいました?いや、兵長モテるからどれくらい貰ったのか気になりまして』
「そういや今年もそんな時期か…クソッ」
『で、何個なんです?』
「数えちゃいねぇし、ほとんどハンジにやった」
『あーそういやハンジさんすごい食べてましたね』
「チョコなんか渡されても困るだけだ」
…詰んだ。これ、完全に詰みましたよ。
チョコレートと共に想いを伝えようと思った通り矢先これです。私どうしたらいいんですか。
部下という立場を抜け出すなという遠回しに言ってるのですか兵長。
もう、どうしたらいいんでしょうかエルヴィン団長。いや、団長にこんな風に相談しても困らせるだけだし、どうせ「私にはないのかい?」と聞かれて終わりだ。
「…まあ、本当に欲しいやつからの、なら別だが」
……あの、その、兵長、今なんておっしゃいました?
欲しいやつから、の?
…つまり、兵長は想い人が存在すると言うわけでしょうか。ああもう駄目だ。今年も想いを伝える事はできない。むしろこれから先も不可能という結果におちつきました。
今年のバレンタイン終わりましたー!
はじまる前に終わりましたー!
と、言いつつも私は今シーナ内のチョコレート専門店にきてます。
兵長には渡しません。ていうか渡せません。自分用とエルヴィン団長用です。昨日遠回しにチョコレートを要求されました。どうせ私があげなくてもエルヴィン団長はチョコレート貰うはずなのになぜですか。そんなにもチョコレート欲しいのですかエルヴィン団長。
チョコレートの甘いかおり。それと、可愛らしく包まれた外装に私の心はうきうきしてきました。
…あ、これ、兵長にあげたい。日頃のお礼と言って渡せばいいのだろうか。いやでも兵長は欲しやつから以外はいらないと言ったからつまり私があげてもいらない物でハンジさんが食べてくれることになるわけでやはり無意味です。
手に取ったチョコレートを棚に戻し、エルヴィン団長用に適当に選んで、自分には少し高いチョコレートを選んだ。
バレンタイン当日。
私は朝イチで適当に選んだチョコレートをエルヴィン団長に渡し、兵長の元へと向かう。
兵長の補佐職についている私は今日も兵長の元へと行かなくては行けないのだ。
『おはようございますー』
ノックをして、返事がくる前に扉をあける。
開けると、兵長が不機嫌そうな顔をしてた。と、美人でモッテモテな先輩兵士がいらして私は気まずくなる。やはり返事が返ってきてかは扉を開けるとようにした方がいい気がする。兵長がめんどくさいからと言って特別に許可をくれたけれど、こういう場面に出会ってしまうとすごく気まずいのだ。
顔を少し歪めながら執務室を去っていく先輩。
私は軽く会釈をすることしかできなかった。
「…なんだ」
『いえ、別に。さすが兵長だなって思って』
「朝からやってきてめんどくせぇ…お陰でなにもまだできてない」
あら珍しい。兵長はいつも私がやってくる前から執務をはじめているのに。…それほど兵長の元へと人がやっきてるというわけか。
「食うか?」
『…たべたら呪われそうな気がするので、大丈夫です』
兵長の舌打ちは無視する。
食べたら呪われそうというより、申し訳なくなる。兵長の為に、今日の為に折角用意をしたチョコレートを私が食べるのはその人の気持ちを踏み躙るような気がして。
『いくつもらったんですか?』
「しらん」
『数えれないほどとはさすがです』
「…馬鹿にしてんのか?」
『いえ』
「ナマエは誰かにやらねぇのか」
『…あははは、生憎相手がおりませんので誰にもあげません』
自らあげるのチョコレートはひとつもない。
だって兵長は想い人から以外はいらないんでしょ?
昼食後、執務室で一息をついていると扉がノックされる。
兵長が不在の為に私が扉の前まで行き開けるとそこにはあどけさの残る新兵の女の子がいる。
「…あ、あのっ!リヴァイ兵長はいらっしゃいますか!」
『兵長今留守なんだ。多分エルヴィン団長のとこかな?』
「…じゃあ、これ、兵長に渡して貰えますか?」
可愛く包まれた四角い箱を受けとる。
なんだろう、この初々しさ…可愛いなあ。私にはもうないよ、この初々しさ。
「あと、これは、ナマエさんにです…!」
色違いの同じ四角い箱を渡される。
『え、いいの…?』
「はい。兵長の事も、ナマエさんの事も尊敬しております!」
『本当に?ありがとう、嬉しいよ』
素直な嬉しいと思った。
こんな風に照れながら一生懸命に渡しに来てくれて、尊敬していると言ってくれるのだから。
「では、失礼します!」
『兵長にちゃんと渡すね』
ほころんだ顔を見せる新兵が可愛くて可愛くて仕方がないと思った。
ソファーに座り直し、私の分と可愛く包まれたそれを開けると中も可愛らしくてうれしくなる。それをひとつ口に運ぶと甘くてとろけて美味しくてもうひとつと手が進んだ。
三つ目を口に運んだ瞬間扉が乱暴に開いて一瞬身構えると兵長だった。
『兵長、これ。兵長がいない間に新兵の子がくれました』
「おい、ナマエ」
『はい?』
「てめぇ誰にもチョコレートやらねぇって言ったよな」
『はい。』
「ほう…。エルヴィンがナマエから貰ったと言っていたが」
『ああ、団長が欲しいとリクエストしてきたので』
「チッ、」
え、なんで舌打ちされなくちゃいけないの。
ていうか兵長完全に怒ってるじゃないですか。私ピンチじゃないですか。ていうかなんでそんなに怒っているのです兵長…!
「俺にはないのかよ、」
『…いやだって兵長はハンジさんにあげちゃうから必要ないのかなって』
「あ?俺がいつそんなこと言った」
『いや、言いましたよ!』
「……っくそ、てめぇは頭は鈍すぎる」
『…ちょっとよくわからないんですが兵長』
兵長の眉間にシワがよる。
あ、やばい。
「遠回しに欲しいと言ったのに気づかないとかお前の頭は飾りか?」
『……いつ言いました?』
「お前がこの前聞いてきた時だ」
『えー、分からないですよ…』
…ん。まって?
兵長は私からチョコレートほしかったの?
つまり兵長、それは私の都合よく解釈しかできないのですけど…いや、気のせいだよね。うん。
「なんだその顔は」
『あの、兵長…私の勘違いだと思うのですが、兵長は私からチョコレートを欲しいと言うことでよろしいのですか』
「…チッ、そのくらい分かれ馬鹿」
その瞬間、私の顔が赤くなってくのが分かった。
欲しいのはひとつだけ
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