Monday




「ボンゴレ式かくれんぼ大会を開催するぞ」

10代目ボンゴレファミリー次期ボスの教育係をつとめる最強の殺し屋リボーンがそんなことを言い出したのは、私がイタリアから日本へやってきて初めて迎える夏の、人生で初めて経験する夏休み真っ只中のある日のことだった。このうだるような暑さの中、正直なところ面倒に思わなかったわけではないけれど、直々に召集されてしまっては行かないわけにはいかない。なんでもボンゴレにおいてたいへん由緒ある伝統行事らしいので、尚更。(とは言ってもボンゴレを初代の頃から知ってる私はそんな行事聞いたことがないけれど。)

「あ、暑い…」

そうして言われた通りに並盛中に集合すると、綱吉くんや、獄寺くんや山本くんをはじめとした一部を除く守護者達、果ては同盟ファミリーのキャバッローネの面々をも巻き込んだ爆弾や弾丸が飛び交うスリリングな"かくれんぼ"が始まった。鳴り止まないセミの合唱をかき消すように銃声や爆音が轟き、時には悲鳴が木霊する。そんな中なんとか鬼に見つからないようにこっそり裏庭の校舎の陰に逃げ込んだ私は、さらに身を隠すためにしゃがみこんで体を小さく丸めた。こめかみを汗が伝い、顎のところにまで垂れてくる。用事はなんであれ学校に行くのには制服の方がいいかなと思って着てきたカッターシャツが、湿った肌にまとわりついて気持ちが悪い。日本の夏はイタリアに比べて蒸し暑いとは聞いていたけれど、こんなにも湿気が不快だとは思わなかった。周りの空気はむわむわと湿気をまとっているはずなのに、反対に口は水分が枯れて喉が少し痛い。心なしか体が気持ち悪く、頭がぐらぐらした。

(何か水でも…飲まないと…)

下手に出歩いて鬼に捕まることは避けたいけれど、そうも言ってられない。情けないけれど、熱中症の兆しがある。水分補給はしておいた方がいい。なんとか目立たないように歩いて、水道のある場所まで向かわなくちゃ。

そうと決まれば、善は急げと言うし。頭で近場の水道の位置を確認して、意を決して立ち上がろうとした。だけどその瞬間、ぐらりと体が大きく傾く。視界がちかちかとして、貧血にも似た感覚があった。まずい、と頭で思った時にはもう遅かったとしか言いようがない。兆しどころじゃなくて、すでに完全に熱中症を起こしていた。

「!? 黒崎…?」

白む視界。朦朧としていく意識の中で聞こえた声。誰かがこちらに駆け寄ってくる気配があった。だけどそれに反応を示す力さえ今の私には残されていなくて、そのまま重力に従って体は地面に崩れていく。

熱中症なんて、一体いつぶりだろう。人よりも丈夫な身体を持つはずの私がこんなにもあっさりと体調を崩してしまうなんて、日本の夏って恐ろしい。倒れる体とは別に、どこか他人事のようにそんなことを思う。

「百合」

地面に激突すると思われた頭は、けれど寸前のところで体を抱きとめられたのか予想していたような痛みはなかった。

意識を失う間際に見たのは、痛いぐらいの日射を遮るように立ったその人の、珍しく取り乱したような表情だった。



 ◇



「…ん……」

ゆっくりと瞼を開く。開いた先は眩しかった。合っていなかった焦点が、だんだんと定まって頭が周りの景色を認識していく。ジリジリと蝉の鳴く音がうるさく、そこに時折紛れる涼やかな音は…風鈴、だったっけ。イタリアから日本へやってきてまだ日が浅く、この国の文化についてはまだまだ知らないところが多いから、いまいち自信がない。

「……ここ、保健室…?」

聞こえた声にはっと驚く。たった今自分が発した声が、明らかに聞き慣れた自分の声ではなかったからだ。「え…」思わず漏れた小さな呟きも、やっぱり私が思った通りの声色をしていない。寝起きのせいで声が上手く出ていないのだろうか。そのわりに、掠れはまったく感じないけれど…。

無意識に喉元に手を伸ばし、その時目に入った少し色素の薄い黒髪にぎょっとする。自分の頭から伸び、そして胸元にかかったそれは、いつもなら世間では珍しいパープルブルーであるはずだった。当然、染めた覚えなんてあるはずがない。

いよいよ感じていた違和感が明確になってくる。固いベッドに横たわっていた体を素早く起こし、素足であることにも構わずそこから飛び降りた。そして目的のものを探すために辺りに視線を巡らす。

「…!」

そうしてあるものを目にした私は、思わず呆然と目を見開いてしまった。

鏡の向こうに映るのは、見慣れない制服に身を包んだ知らない黒髪の女の子。驚きに目を丸くさせるその子は、私とは似ても似つかない容姿をしていた。おそるおそる自分の右手を上げて顔の横まで持ってくる。すると鏡の中の彼女も案の定同じように片手を上げて、驚きの表情をさらに濃くした。つまり彼女は、私なのだ。

(…本当に、これ…夢……)

目を覚ます間際、感じたことに間違いはなかったようである。やっぱり今目の前に広がるこの世界は夢の中の世界で、私はそれが夢だと自覚を持っていた。そしてどうやらこの夢の中では、私は見知らぬ女の子の姿かたちをしていて、まったく別の人間として生きているらしい。妙にすとんと胸に落ちるものがあり、強ばった肩から力が抜けた。この摩訶不思議な状況も、夢だと納得してしまえば案外あっさりと受け入れることができそうだった。

「…君は寝起きまで騒がしいな」
「!?」

突如背後から聞こえたのは、知っている声だった。かつて愛したあの人と似た、けれどそれよりも少し高いどこかあどけなさを残す声。ばっと振り返った先には、思った通りの人の姿があった。さっきまで私が寝ていたベッドの隣、仕切り用のカーテンで隔てたもう一つのベッドの上にゆったりと腰掛けた彼は文庫本を手に読書に勤しんでいた。動揺していたとはいえ、気配にはそれなりに敏感な方なのに、今の今までまったく気付くことができなかったなんて…。

「さすが、気配を消すのが上手ですね。恭弥くん」
「…?」

それまで素知らぬ顔で文庫本に目を落としていた恭弥くんだけど、私の声を聞くやいなや怪訝そうに顔をしかめてこちらを見てきた。なんだろう、と思ったけれどすぐに気付いてはっとする。つい現実での黒崎百合として恭弥くんに接してしまったけれど、私は今黒崎百合ではない別の誰かだ。さっきの恭弥くんの発言の様子からすると、まったく面識のない間柄ではなさそうだけど、もしかしたら少し馴れ馴れしく接してしまったかもしれない。

「………」
「あ…えっと…」
「…君、熱中症で頭までやられたんじゃない」
「えっ」

鋭い瞳でじっと見つめられてドギマギしてしまうけれど、次に恭弥くんが口にした言葉に思わず少し間の抜けた声が出た。ねっちゅうしょう。…熱中症?慌てて自分の記憶をたどって、眠りにつく前のことを思い出す。そうだ、私、眠ったんじゃない。熱中症で倒れて気絶してしまったんだ。そしてその時に倒れる私を支えてくれたのは、恭弥くんだった。つまり気を失った私を保健室まで連れてきてくれたのも恭弥くんなんじゃないだろうか。

(あれ…。でも、倒れたのは現実での出来事だよね…?)

それだったら、この夢の中でも恭弥くんが助けてくれたとは限らないのかもしれない。ああ、なんだか夢と現実でごちゃごちゃになってしまう。

「寝ぼけてないで、起きたならさっさと家に帰りなよ。ただでさえ馬鹿なのに、病み上がりの君じゃ役に立たない」
「えっ!?」

突然の馬鹿呼ばわりに思わず目を白黒させてしまう。さっきから薄々思っていたけれど、この夢の中の恭弥くんはどことなく私に対して扱いがひどい。いや、"'私"に対してではなく"彼女"に対しての扱いがひどいのだろう。ちらりと鏡の方に目を向ければ、黒髪の女の子もまたこちらを見る。彼女と恭弥くんは、一体どんな関係なんだろう。

「ちょっとあんた、熱中症で倒れたってほんとなの?」

がらり。突然派手な音をたてて開いた扉とそこから聞こえた声に我に返る。恭弥くんが文庫本を持ったままおもむろにベッドから立ち上がった。

「うわっ、雲雀さんもいる…」

遠慮なく保健室の中に入ってきた彼女は、恭弥くんの顔を見るやいなや露骨に嫌そうな顔をする。人のことはあまり言えないけれど、いろんな人に恐れられているらしい恭弥くんに対してそんな態度をとれるだなんて、結構大物かもしれない。けれど恭弥くんもまたまったく意に介していない様子で、その子の横を通り過ぎて開いたままの扉から保健室を出ていこうとする。それを見て、私は咄嗟に恭弥くんを呼び止めた。

「あ、あのっ!恭弥くん」
「……何」

恭弥くんが少し鬱陶しそうな表情でこちらを振り返る。それに若干気後れしつつ、私は少し勇気を出して口を開いた。

「私の名前を…呼んでもらえませんか?」

私のその言葉に、恭弥くんは束の間わずかに目を見開いた。次いで真意を探るようにその鋭い目が細められ、そしてややあって、小さく溜息をつくと恭弥くんは沈黙を破った。

「今日寝こけていた分、明日は働いてよね。10時に応接室だよ。…天宮ミナ」

恭弥くんは今度こそ保健室を出て行った。相変わらず扉は開け放したままで、恭弥くんの遠ざかる足音がよく聞こえた。

――この夢の世界での私は、天宮ミナというらしい。



「それにしても、あんたでも熱中症になんかなるのねぇ」

そう言って私の隣を歩くその子は、肩にかけた大きな鞄を持ち直した。普通の形状の鞄ではないその中には、見たところ、楽器でも入っているような感じだった。どこかサバサバとしていて大人っぽい雰囲気の彼女は、"咲ちゃん"といって、天宮ミナの友達であるようだった。私が熱中症で倒れたと連絡を受けて、部活動で学校に来ていた彼女は保健室まで迎えにきてくれたらしい。「な〜んかやっぱりいつもより元気なさそうだし、仕方ないから家まで送ったげる」そう言って家まで着いてきてくれることになったのでありがたかった。家に帰るって言ったって、私は黒崎百合が住んでいるマンションは知っていても天宮ミナの家の場所は知らないのだ。

「っていうかさ、ミナっていつの間に雲雀さんのこと名前で呼ぶようになったわけ?」
「え?」
「前はそんな呼び方してなかったじゃん」

ここで、咲ちゃんが前は〇〇って呼んでたじゃない、なんて言ってくれたなら、今度恭弥くんを呼ぶ時はその呼び方にしたのだけど。残念ながら咲ちゃんが続けた言葉はそういったものではなかった。

「やっぱりさ、あんたらちょ〜っと良い感じなんじゃない?あの雲雀さんを名前呼びできる奴なんてそうそういないよ」
「ええ?そ、そんなことは…」

恭弥くんを名前呼びしてしまったのは、天宮ミナではなく、黒崎百合である私だった。それでも恭弥くんと天宮ミナの関係を私は知らないし、はっきりと"良い感じ"の仲なのかそうじゃないのかなんてことは言えない。そう思うと、どこか胸のあたりにもやもやとしたものが溜まっていくような、そんな感覚がした。

それからも、慎重に言葉を選びつつ咲ちゃんと会話をしながら歩いて、学校からさほど歩かずに自分の家だという一軒家の前にたどり着いた。住宅街の中に佇む、辺りの家々と何ら変わりのない平凡な家のようだった。ボンゴレ雲の守護者たる恭弥くんの知り合いだからもしかすると裏社会に何か関係のある子ではと思っていたけれど、家を見る限りそんな雰囲気は感じない。ごくごく一般の家庭の出身なのかもしれなかった。

(吸血鬼として、長いことずっと一人で…普通の家庭で暮らすことなんてなかった…。私、大丈夫かな)

「ねぇ、本当に大丈夫?ゆっくり休みなさいよ」
「…はい。咲ちゃん、ありがとうございます。送ってくれて」

不安が顔に出ていたのかもしれない。心配そうに声をかけてくれたけれど、お礼を言うと、何故か咲ちゃんはぶるっと体を震わせて自分の体に腕を回し凍えるような仕草をした。

「……ええっと、どうしたんですか?咲ちゃん」
「どうしたはこっちのセリフ!ずっと思ってたけど、何その喋り方!?何その雰囲気!?鳥肌立つんだけど!」
「ええ!?へ、変ですか…?」
「変ってどころじゃないわよ!同じ敬語なのに…なんっていうかこう…馬鹿うるささを感じないっていうか、むしろ内面の美しさをひしひしと感じるというか…ともかく変!あんた熱中症で倒れた時頭でも打ったんじゃないの!?」

なんだかひどい言われようだった。恭弥くんからも似たようなことを言われたけれど、天宮ミナさんってどんな人なんだろうか。

なんとか咲ちゃんをごまかすことに成功した私は、帰る彼女を見送ると、意を決して自宅だという家に入ることにした。チャイムを鳴らしても応答は無く、鍵もかかっていたので留守だったんだろう。少し拍子抜けしつつも、持っていた鞄の中から見つけ出した鍵を使っておずおずと扉を開ける。自分の家だと分かってはいても、どうにも空き巣に入っているような気がしてならなくて罪悪感が拭えない。

「…お邪魔します……」

扉を開けてすぐに目に入ったのは、並べられた靴だった。女物、男物、スニーカー、サンダル。特に分けられるわけでもなく無造作に並んだそれらは、私が知る生活感とはまた違った種類のものを多く含んでいた。それは、家族のにおいだった。私が寝食を繰り返す家の玄関には、もうずっと昔から、いつだって一人分の靴しか置かれていない。

「………」

履いていた靴を脱いで、そっとフローリングの床に足を踏み入れる。振り返って、揃えようとした茶色い革の靴は、見慣れない生活感に溢れるその空間にとてもよく馴染んで見えた。

「!」

タタタタタタッ。突如聞こえてきた小さな小石がばらまかれるような音にはっと顔をあげる。向かって正面のリビングの方から現れたのは、一匹のゴールデンレトリバーだった。爪を鳴らし、尻尾を振りながらこちらに向かって駆けてくる。

「っわ!」

ワンッと元気にひと吠えしたそのゴールデンレトリバーが足元に擦り寄ってきた。桃色の舌を出して一生懸命に甘えてくるような仕草が可愛くて、ゆっくりと頭を撫でてやる。この家の飼い犬だろうか。

飼い犬の彼(もしかしたら彼女かもしれない)を連れて廊下を進み、リビングへと入る。そこはダイニングとも繋がっていて、少しばかりの物が置かれた食卓とイスが目に入った。ソファに置かれた少しよれたクッションに、フローリングの片隅に並ぶ可愛らしいくまをかたどったスリッパ。首振りの途中で止められたのだろう真横を向いた扇風機は、入口に立つ私を出迎えるように立っていた。どこにでもありそうな、だけど自分の家にはない風景。この夢の中では、ここが私の家だという。けれど私の心は天宮ミナではなくて、黒崎百合だった。あたたかいこの空間の中で、自分だけがどこか馴染めていないような、置いてけぼりにされているような、そんな心地がした。

「お兄さんが、大学のゼミの合宿で、帰ってくるのは明日の夕方…お父さんが仕事で今日は帰りが遅い…」

リビングの壁には、一週間の予定と思しきものが書かれた小さなホワイトボードが掛けてあった。ポップに飾り付けられたそれは自分の予定をそれぞれ書き込むルールなのか、字体がものによって違っている。今日は、現実そのままなら月曜日だった。この日は天宮ミナの家族なのだろうお兄さんもお父さんも夜遅くまでいないらしい。ホワイトボードに予定の書かれていないお母さんは、ここにはいないのだろうか。月曜日と水曜日と金曜日の欄の端っこには、予定の内容などは書かれずに、「ミナ」とだけ書かれている。別の曜日の欄には、同じように「お兄ちゃん」「お父さん」の文字。これは一体なんだろう。はて、と少し考えたけれど、結局はよく分からずにボードから目を外す。

「あっ、もしかして…晩ごはんの当番…かな?」

食卓の上にあったメモ書きが目にとまり、ぴこん、と頭の中で電球が灯る。「だいたい十時頃に帰るから、先に作って食べておいてね。父より」このメモとさっきのホワイトボードを見る限り、今日は、夕方この家に一人でいる"私"が晩ごはんを作らなければいけないようだった。お兄さんは今日は帰らなくて、お父さんは遅くに帰ってくる。つまり二人分の食事を作っておけばいいんだ。たとえ心が黒崎百合のままでも、今の私は天宮ミナだ。彼女がやるべきことは私もやらなくちゃならない。幸い一人暮らしが長い私はそれなりに料理は得意だった。

人の家の冷蔵庫を開くことにやっぱり少し罪悪感を覚えつつ、何故かやたらと卵のパックがたくさん入っていたそこから食材を拝借して作ったのはパスタだった。普段どんなものを作っているのか、お父さんに好き嫌いがあるのかが分からなかったから何を作ろうかとても迷ったけれど、戸棚の中に市販のパスタの袋を見つけてこれならいいかなと思ってそれに決めた。パスタはイタリア時代にもよく作った得意料理の一つで、失敗することはないだろうと思ったから。けれど知らない家で食事を作って食べるというのはなんだか少し落ち着かなくて、そそくさと夕食を済ませた私は食器を洗ってお父さんの分のパスタにラップをかける。

「あなたも、お腹が空いていますよね」

調理中、リビングのソファの上で大人しく伏せていたゴールデンレトリバーの彼に、さっき見つけたドッグフードと水をお皿についであげる。途端嬉しそうにやってきた彼は早速口をつけ始めた。勝手にあげても良かったのかな?と思わないではなかったけれど、毎日使われているような痕跡のあるドッグフードだったしきっと大丈夫だろう。お父さんが帰ってくるまで夕飯をお預けにしておくのはかわいそうだったし。

彼が無事に食べ終えたのを確認して、私は二階へと上がった。二階には、"私"の部屋があった。

「わぁ…」

「ミナ」と書かれたプレートがかかったドアを開けると、まず真っ先に目に入ったのは薄いピンク色のファンシーな柄のラグだった。布団も、ミニテーブルも、そこかしこにある雑貨も、しつこすぎない程度に同じ系統でまとめられたそれらからは、部屋の持ち主の少女趣味が感じられる。可愛らしいものが好きなんだろうな、と一目で分かる部屋だった。これが、この夢の中での"私"の部屋なんだ。当たり前だけど、やっぱり現実での自分の部屋とは全く違う。

「…はぁ」

だらしないと思いながらも、ぼすん、と制服のままベッドの上に飛び込んだ。これまた可愛らしい犬の頭と手足がついたふわふわの枕に顔が沈み込む。なんだかとても、疲れてしまった。部屋に入ってすぐに開けた窓から吹いた風は、冷たくはないけれど、体に当たると少し気持ちいい。

「………」

慣れない部屋では眠れなくたっておかしくないはずなのに、体を包む疲労感はあっさりと私を眠りの世界に誘ってくれた。まどろみの中で思い出したのは、もうずっと昔にお別れした家族や、ジョットやGといった大切な仲間達、それから大好きだったアラウディの顔。

(…なんだかとても、寂しい)

next day ?

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