junk
「ねえ、雲雀君!豆まきしよーよ!」
「…いやだ」
「えぇーっ…」
そう言って、がっくりと肩を落とす少女。少女は僕の彼女で、授業中でも構わず応接室にやってくる。こっちは仕事中だというのに、まったく良い迷惑だ。
「もう教室に戻りなよ。いつも言うけど、授業はサボらないでよね」
「だって面倒くさいもーん!私は雲雀君とお喋りしてた方が楽しいから良いの!」
ぷくぷくと頬を膨らませて言う姿が、なんとも愛らしい。そっと手を伸ばして膨らんだ頬を撫でれば、柔らかな感触が指先から感じられた。
「ちょっと、何よーっ!」
「柔らかい」
「やーっ!突付かないでー!」
ブンブンと顔を振りながら、彼女が何かを懐から取り出そうとしている。何を出すつもりだい…?取り出そうとしているものを覗き込もうと彼女に顔を近づけた。
バラッ
「…」
「鬼はー外っ!」
バララッ
「福はー内ぃ!」
体中に、ぴちぴちと何かが当たった。ほとんど痛みなど無いのだが、なんだかくすぐったい。
「…で?なんで僕に当てるわけ?」
「いっ、意地悪する雲雀君だって鬼だもんねー!」
「へぇ…言うようになったね」
声をいつもより低くして、少しだけ遠くに逃げてしまった彼女に近づく。小さく「ひぃっ」と声が聞こえた。
「っ、暴力反対なんだから!」
「暴力なんてしないよ。ただ…」
彼女の手から大豆を取り上げる。彼女はぽかんと、馬鹿みたいな表情をしていた。
「へ、何するの?…雲雀君も豆まき?」
「まぁ、そうだね。悪い鬼に豆をまいてやるんだ」
手に持った豆の山を、がさりと鷲掴みにする。覚悟しておきなよ。僕を鬼呼ばわりした君が悪いんだから。
「鬼は外」
バチッ
「ぎゃっ!」
「福は内」
バチチッ
「痛いっ!な、なんで私に投げるのさ!」
「クスクス…ほら、まだまだだよ」
「いやっ!痛い!痛いってば!」
狭い応接室で彼女が逃げ切れるはずもなく、豆が当たる音と彼女の叫び声が大きく響いていた。豆はたくさんある。こんなものじゃ済まさないよ。
「ひっ!雲雀君の鬼ぃいいいい!!!!」
そんな、2月の出来事だった。
節分の話
2011.2
≪|≫