悪魔な姉どくり、どくり、
「っ、た…」
溢れ出る腹部からの生温い血液。逃げて来た道にはその跡が続いていた。もう大分痛みにも慣れたが、それはイコール自分の死が間近だと言うことに私は気付いていた。
悪魔な姉-Prologue-
仕事からの帰り道、今日は月が赤くて不気味だと後輩の女の子が騒いでいた。そんな中、私も不気味な程の嫌な予感がしていたが家に帰らないわけにはいかなくて、だから、出来るだけ急いで帰っていた。すると自分の影に被さるように影が形を変えた。
はっとした時にはもうそれは目の前だった。
「きしっ、あんたに決まりだ」
ずぶり
影になって見えないが、人だと思った。だけど、その瞬間には何かがお腹に突き刺さるのを感じ、喉が引き攣った。
「ひっ…!?」
通り魔だ。気付いた時は既に遅かった。あまりの急な展開に、ついていける筈もなく私は固まって動けない。
ぐちっ
嫌な音が耳に入った瞬間、渾身の力で相手を殴り飛ばした。
「がっ」
べきり
嫌な音と感触に、思わず手を引っ込め目を見開く。
「やはり、強いな」
完全に窪んだ頬と変に曲がった首。それなのに、痛がる様子もなく喋る声に私はそれが人でない事を悟った。
にげろ、にげろ、にげろ
頭の中で警鐘が鳴っているのを本能のまま逃げ出した。
それからどれ程遠くまで来れたかわからないけど、それももう限界だと霞む視界と感覚の無くなってきた指先に、命の終わりを感じた。
「ああ、やはりダメか?」
さっきの声。立っている事もままならず、遂に倒れ込んでしまった私は、その声の主を何とか見上げた。
「こちらの世界なら丈夫だと思ったが、子は望めないか。仕方ない」
醜悪な顔、まるで悪魔の様な、いや、悪魔なのだと何となく直感した。私は、そのまま立ち去ろうとするそれに、これで最後なのだからと力を振り絞って言った。
「もう二度と来るな、魔神」
すると、急にその悪魔は苦しみ出し、私を振り返る。
「うっ、くく…まさか、正体が分かる奴だとはな…やはり、な」
うがあ゙ああぁっ
何と悪魔が言ったのか、上手く聞き取れないでいたら、悪魔は呻き声をあげてその気配を消していた。それを見届けて、私も遂に起きてはいられず目を閉じた。
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