3.言えないかなしみ
目で追ってしまう、愛する人
綺麗な黒髪にグレーの瞳…

「メロ!」

毎日のように私の名前を呼んでくれる彼
朝から鼓動がおかしくなりそう
もっと、
その声で私の名前を呼んで欲しい


「314回目だけど、本当に校内イチ、いやイギリス中でもダントツにメロは美人だ…おはよう、よく眠れた?」
「あなたのお陰で、目覚めが良くないわ」

目も合わせずにそう言ったら、シリウス・ブラックの背後にはショック!という文字が見えそうになった。
でもすぐ笑顔に戻る。
今日は私がすぐ返事をしたから嬉しいみたい。

「寒いから気をつけろよ。じゃあ、またな!」
プイッと顔を背けても彼は快活に笑っている。こんな扱いをされてるのに、それでも私を毎日気遣う。
去り際に、彼に……
考えるだけ虚しい。

「メロも大変ね、裏切り者なんかに付き纏われて」
「せめてグリフィンドールじゃなければ、わたし頑張るのになぁ〜。ブラック家の長男で、あんなにハンサムなんだもの」

とりあえずの友人達が──私がブラック家の人間じゃなければ寄ってもこないだろう──毎朝お決まりの文句を並べる。

せめてグリフィンドールじゃなければ…
何言ってんのよ。
ダメなのよ、スリザリンじゃなきゃ。
ブラック家なんだから。
でもシリウスにはあわないの、こんなところ。

「マグル好きと仲良くしてるなんて、ブラック家の恥晒しもいいところよ」

わたしもお決まりの言葉を言う。
これを言っておけばスリザリンで困る事は無いと、ナルシッサ姉様に言われた。その通りに五年間過ごせている。

「そうよね〜、なんでシリウス・ブラック一人だけあぁなのかしら〜」
「弟クンはちょっとね〜」

学校内のどうでもいいゴシップネタを嬉しそうに話す友人達に、適当に、でもそうは見えないように相槌を打つ。
こんな話よりも、シリウスの話を聞いてみたい。
毎日何かやらかしては、生き生きと楽しそうにしている、彼の話を、ただ笑って──

大広間へ向かう階段の合流地点で、リリー・エヴァンズとその友人達一行と遭遇する。
リリー、本当に楽しそうに話してる…心許せる友達と。

相手に気づいた友人が、クスクス笑い出した。
「ヤダ、ポッターからモテモテのエヴァンズじゃない」
「あなたの魔法で、あの髪の毛なんとかしてあげたらいいのに」

美人で首席間違いなし・スラグホーンにも一目置かれているリリーを妬み、この人達はしょうもない嫌がらせを飛ばす。
ただマグル出身だから、と。

彼女はニッコリ笑って戦う。
「心配してくれてるのに悪いけれど、私ポッターなんてどうでもいいの。ごめんなさいね」

さ、行きましょ。と声を掛けて私たちのそばを離れて行った。
その時、リリーのサインを見逃さなかった。
周りは早速の陰口で気付かない。

「マグル生まれじゃなかったら、もう少し優しくしてあげたのにね」
「ねぇ〜」
スリザリンの女子は、決まってリリーをこう侮辱する。

だけど私も、リリーに出会うまでは親に言われていた通りに、本当にそう思っていた。
マグル生まれは出来損ない、クズだ、穢れた血。私達を脅かす。
ハウスエルフですらそう言っていた。

だけどホグワーツに来て、初めて外の世界を見た。
リリーに出会って、そんな事間違っていたと分かった。
シリウスは、異質なあの家でわたしの本質を見てくれてた事に気付いた。

でも
今はまだ、言えない。
ブラック家に逆らったら、ホグワーツに通うなんてできなくなる。
リリーと仲良しなのも、内緒
シリウスを好きな事も、内緒

彼女達のどうでも良い話しを聞き流しながら、今日も朝食を取る。


リリーのあのサインは、
『授業が終わったら部屋に集合ね』

授業なんて、早く過ぎ去ればいいのに。
それに、お昼休みにシリウスが来てくれないかな。

言えないかなしみを誤魔化すように、私はそんな事しか考えていない。





2019.02.18

(title by 朝の病)


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