05.「僕となら幸せになれるから」
彼は、そっと足を止めた。
自分のモノの声がしたし、どっちにしろ入り口に誰かがいるなら今此処には入れない。

「ねぇマートル、またオリーブにからかわれたからってここでずっと泣いてても、どうにも…」
「あんたは良いわよ…あのトム・リドルに選ばれたってみんなが言ってる!ちやほやされてるあんたに、わたしの気持ちなんてわかりっこないのよ!」

マートルと呼ばれた女子生徒はウワァン、と声を上げてトイレのドアをバタンと勢いよく閉めた。

この調子じゃ今日は無理だと諦め、真っ直ぐ図書室に向かおうとすると彼女がため息をつきながらトイレから出てきた。

「あぁメロ、こんな所にいたのかい?ずっと探してたんだよ!」
「トム…」

彼女は自分の傍に寄るともたれ掛かるようにくっついた。
「ゆっくりしようか」と言うと、彼女は小さく頷いた。


図書室の一番奥に、絵本ばかり並べられた本棚があった。
それはカモフラージュで、とある絵本を抜くと扉が表れて、隠された部屋に入る事ができる。
秘密の部屋のように広くて不気味で冷たくなく、まるでアパートの一室のような、こじんまりとして暖かみのある部屋だった。

メロが二年生の時に見つけたというそこは、二人の隠れ場所だった。

ホグワーツにはまだまだ秘められた場所が沢山ある。
自分の”特別”である彼女に、そろそろ必要の部屋を教えてもいいかもしれない──ココアをいれながら、そんな事を思った。


ソファーに腰かけて、湯気の立ったココアを一口飲んだメロは話しだした。

「トムは知らないわよね?さっきの女の子のこと」
「ああ、トイレで喚いていた?」
「…ほとんど悪夢だわ。レイブンクローだと、もうわたししか宥める人がいなくて。放っておくのもかわいそうだし…でも、最近はあんまり」
彼女は首を振り「ごめんなさい、こんな話するものじゃないわね」と言って再びココアを飲んだ。

「メロも大変だったね…いつもあんな感じなのかい?」
「そうね、ずっとあんな感じ…ご両親がマグルだから余り学校のこと話せないのもあるみたいだけど」
「ふぅん…メロ、面倒な事は忘れていいんだよ。僕となら幸せになれるから

メロの持っているマグカップをテーブルに置いて額にキスをすると彼女は、フフっと笑った。



「君を悩ませるのは僕だけでいいんだ」

隣でうたた寝している彼女にブランケットをかけて、トム・リドルはまっすぐ三階の女子トイレへ向かった。
予定より少し早いが、彼女のお陰でちょうどいい穢れた血を見つけることができた。

その手には日記帳を携え、これから初めて行う行為に気分が高まるのを感じていた。







20110412



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