01「決めた、今日から僕のガールフレンドね」
「決めた、今日から僕のガールフレンドね」
「はい?」

メロ・アヴィレは泣きたくなった。教室中の女生徒の視線がとても痛い。
きっと授業が終われば友人以外の女生徒から取り囲まれることだろう──それなのに、隣にいる男は知ってか知らずか嬉しそうに魔法薬の調合に取り掛かっている。

事は5分程前に起こった。
スリザリンとレイブンクローとの魔法薬の合同授業で、何故かレイブンクローのメロはホグワーツ一の秀才と絶賛されている、トム・リドルと組むことになってしまった。
そして顔を合わせた途端に冒頭の台詞を言われてしまったので、メロからすればたまったもんじゃない。
元凶のスラグホーンはメロの気持ちを知らずに生徒達の出来を見ていた。
まあ、あの教師はトム・リドルが大のお気に入りであるからきっとメロの為になることはしてくれないだろう。

「ああメロ、君は何もしなくていいよ、君の綺麗な手が怪我しちゃったら大変だから。僕がやってしまうよ」
「それじゃ私の為にならないわ!蛇の牙を砕くくらい出来るわよ!」
「メロは優しいね…じゃあそれだけはやってもらおうかな」

メロが抵抗したにも関わらず、トム・リドルはおめでたかった。
彼の耳はメロの言葉を都合よく変換しているに違いない。

「……訳わかんない」

メロの呟きはグツグツ煮えたぎる大鍋の音にかき消された。

魔法薬学が今日最後の授業だったので、夕食まで友達とおしゃべりしようと思っていたのにメロはトム・リドルに引っ張られてしまった。
慌てて友達に助けを求めると、「また寮で話聞かせてね〜」と気楽に見送ってくれた。(メロはこの時程、友達に絶望を感じた事は無かった)

リドルはメロの手を恋人繋ぎで握り、まるで全校生徒に見せ付けるかのように校内中を歩き回っては、「やあ、彼女は僕のガールフレンドなんだ」と、とっても嬉しそうに言いふらした。
9割の女生徒がショックを受けた表情で、持っているものを落としていくのを見るのは不思議な優越感があり楽しかったが、同時にこれから無事にホグワーツ生活を送れるのかどうかがメロはとっても心配だった。

スキップしそうな位に軽い足取りで歩くリドルに手を引かれ、最後に辿り着いたのは天文学で利用する天文台の塔だった。
太陽は沈み、オレンジからパープルにグラデーションになっている空が一面に広がっていて、星たちが輝き始めようとしている。

リドルが寝転んだので、メロも必然的に寝転ぶ形になった。彼は気づかないうちに魔法で柔らかいマットを引いてくれていた。


「綺麗だろう?秋の夕暮れは僕のお気に入りなんだ」
「えぇ、とっても綺麗だわ…」

リドルは空に負けない位綺麗に微笑んだ。

「これから宜しくね、メロ」
「でもあなたと付き合うなんて言ってないわ!」


わたしは、トム・リドルが微かに舌打したのを聞き逃さなかった。
本当にこの男、何考えてるのよ!




2011.02.22


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