腐男子と不良
突然だが俺は同性愛者ではない。
世間一般では腐男子という部類になるのだろうが、ただ純粋に心身ともに未成熟なショタが性に目覚めてどっぷり開発されるというシチュエーションがこの上ないくらい好きなだけだ。自分でもなかなかストライクゾーンの狭いやつだと思う。地雷はショタ受け以外。男の娘は正直有り。
そう知り合いの腐女子に言えば「男前筋肉が受けてなんぼだろ」と取っ組み合いになることも屡々あるくらい、正直俺はここ最近腐男子ではなくただのショタコンではないのだろうかと薄々思い始めていた。
「はぁ……尊い、辛い、自分がゴミクズ過ぎて辛い……」
「高座、BL漫画読みながら泣くのやめてよ」
「うるせー!お前だってゲームでシコりながら号泣するのやめろよ!出すのはどっちかだけにしろ!」
「なっ、し、知ってたの?!」
「人が寝てる横で雄叫び上げられたらそりゃ誰でも起きるだろうが!」
言い返せば、ルームメイトであり俺の理解者である山下は「ぐぬぬ」と言葉に詰まっていた。
こいつは無類のエロゲーマニアで、普段は人畜無害そうな皮被って部屋に籠もってはナースから人妻、挙句の果に人外幼女まで食い散らかすレベルの雑食野郎だ。そして、普段はそんなことを口にせず、それを隠しては他校の女子と遊びに行くという小憎たらしい男でもある。
「そんなに面白いなら僕にも読ませてよ。男の娘でる?」
「でねーよ。お前の持ってる男の娘コレクション貸してくれたらいいぞ」
「出ないのか……まあいいや、交渉成立だね」
言いながら俺は読み終えたばかりの漫画を山下に手渡した。
性癖に響きそうなものはシェアして楽しむということで俺達はいわば協力関係にあった。
全寮制男子校であるこの学園には娯楽が少ない。
最初は男と同室になるなんてどうなるかと思ったが実家にBL本を放置してるわけにもいかず、丸ごと箱に詰めて寮へと運んできたのだがそこで同じようにえげつないパッケージのエロゲーを運んでいた山下と「あ、ども」「よろしくね」なんて他人行儀な会話を交わしてそれから見事お互いのダンボールを間違えて開けてしまったことから俺達は赤の他人からお互いの秘密を保持し合うという謎の関係になったわけだが、この生活は中々悪くない。寧ろ身近に語る相手もいて俺はこの高校生活を満喫していた。
ただ、この生活に不満があるとするならば……。
「……」
翌日、授業を終え、部屋に戻ってきた俺はまず玄関口で履きつぶされたスニーカーを見てヒヤリとした。
山下は小奇麗なローファーを履いている、ということは、山下ではない誰かがこの部屋に来てるということだ。
部屋の奥、ちらりと目を向ければまるで我が家か何かのように山下のベッドの上で横になった人影を見つけた。
派手な赤茶髪の下から覗く耳についたピアス。
漫画を読んでるらしい。ボリボリとスナック菓子を摘みながら漫画を読んでるそいつはどっからどう見ても俺の苦手な人種だった。
山下は友達が多い。
隔てなく、愛想がいいからだろう。顔も悪くないしアナルを使わなければ興奮しないという性的嗜好を除けば、品行方正の爽やか好青年で老若男女大人気だ。
それは、不良も同じだった。
柄の悪いやつらと親しげに話してる姿は校内で何度か見掛けたが、こうして部屋に上がり込んでくるのは初めてではないだろうか。
他にも何度か普通の友達を連れてこられたときは俺の本棚の奥の奥に隠したショタ受け同人誌を見られないかとヒヤヒヤしていたが、大抵健全な家庭用ゲーム機でわいわいしてたのでよかったが、なんだこれは。
というか、あいつが読んでるの俺の漫画じゃねーかよ。
「あっ、おかえり高座」
椅子に腰を掛けてた山下が、あっけらかんとした調子でこちらに手を振る。俺は慌てて山下を椅子から引きずり下ろし、部屋の奥まで引っ張った。
「おい……誰だよあいつ。ってか、なんで俺の勝手に読んでるんだよ」
「ああ、えーと、あいつは鹿波っていうだ。僕の友達。顔は怖いけどちょっと恥ずかしがり屋でいいやつだから」
「そういうの聞いてないんだよ、俺ああいうタイプ嫌いって知ってるだろ!」
「えへへ……」
「可愛くねえよ!」
全く反省していない、おまけに「まあまあ」と宥めてくる山下に俺の怒りやら焦りやらでどうにかなりそうだった。
「他に遊びあるだろ」と小声で怒鳴れば、「鹿波があの漫画の続きが気になってたから読みたいって言ってたからさ」とか言い出す。まじか、あいつ俺のお気に入りの漫画を読んでたのか。なかなか分かるやつだな……じゃなくてだ。
「分かった、分かったって、止めるから。ね、落ち着いて高座君……。おーい鹿波、喉渇かない?漫画やめてそろそろ下行こうよ」
「……はぁ?別に渇いてねえし。つーか俺読んでんだけど」
山下の言葉に、鹿波は短い眉根を寄せる。そしてすぐに山下から漫画へと視線を移した。
これのどこが恥ずかしがり屋のいいやつなんだよ。
つーか何様だよお前は、俺に挨拶もねーのかよ!とか色々言いたいことはあったが俺も俺で声掛けてないのでまだ許す。けど、それは俺の漫画だ。
ぐんぐんボルテージが上がっていく。それを必死に抑えつけた。
落ち着け、俺。ここで切れたらただの気持ち悪い漫画ヲタクになってしまう。
「なあ、……一応それ俺のなんだけど。なに?お前もその漫画好きなの?」
腸煮えくり返りそうなのを必死に堪えながらも、俺はあくまでフレンドリーに声を掛けることにした。
「チッ、うぜ……なんだっていいだろ、引っ込んでろキモオタ」
山下が「どうどう」と視線で宥めてくる。山下の友達じゃなければ殴り掛かっていたところだ。
百歩譲って、眼鏡は許す。許そう。けどキモオタってなんだよ、お前に俺のなにが分かるんだ。
「てか誰だよこいつ、まじ邪魔なんだけど。うぜー」
「まあまあ。そんなこと言わないの」
母親かお前は。
俺はぶちぶちと血管がキレる音を聞きながら、山下を掴ませえて再び部屋の奥へと引っ込んだ。
「なんだよあいつ。まじうざいんだけど、さっさと帰せよ」
「まあまあ……」
「おい山下」
「あっ……そういや、ちょうど飲み物切れてるんだった。鹿波、コーラでいい?」
「おー」
「おい山下何話を……」
「山下はグレープソーダだね、了解ー」
「おいこら山下!」
言うなり、そそくさと部屋から出ていこうとする山下。
こいつ、逃げようとしてやがる。逃がすものかと手を伸ばすが、山下の逃げ足の速さは以上だった。
「く……っ、あ、あいつめ……」
許さん、絶対許さんぞあいつ。
すぐさま追いかけようとしたときだ、ばさりと何かが落ちる音がした。
「あーあ、つまんねえ。なあ、なんかおもしれーのねえの?」
漫画を床に投げ出した鹿波は、ぐっと伸びをしながら上半身を起こす。
こ、こいつ……許せん!!
のそのそと本棚の前へと移動し、まじまじと物色し始める鹿波に正直我慢の限界だった。
「つまんねえなら部屋から出ていけよ」
とか言いながら、本棚に手を伸ばそうとする鹿波の手を掴んだ瞬間だった。俺が掴んだ拍子に、丁度本を取ろうとしていた鹿波の指が引っかかり、一気に数冊の本が本棚から抜ける。まだそれなら良かった。問題は。
「……何これ、『美少年ナマ絞り牧場上からも下からも新鮮ミルク汁大噴出編』……?」
漫画の奥に隠されていた俺のコレクションの一部を読み上げる鹿波に、俺は、血の気が引くという言葉を理解した。本当に全身の血が一気に抜けたみたいにさっきまで血が昇っていた頭が冷え切るのだ。
「っ、これは……ぁ……」
やべえ、やべえしか頭に浮かばないくらい俺の語彙力は今世紀最低値を更に下回っていた。
ナマ牧は男性向けで活躍するエロ漫画家の人が出したBL商業コミックでエロを全面に出しながら深いテーマと容赦ない汁だくで俺のような愛好家からは絶大な支持を受けている人気シリーズだ。そして俺の一番のオカズだった。
言い訳すら考えられない。頭が真っ白になって塩を掛けられたナメクジが如く勢いを無くした俺に構わず、鹿波は残酷なことにナマ牧を引き抜く。
表紙には牛のコスプレをした少年が顔や体に大量の白濁を浴びながらも切なげにかつ聖母のような慈愛に満ちた表情を浮かれていた。
「……」
「……」
「……」
沈黙。ひたすら沈黙。
パラ……と漫画を捲った鹿波は、やがてゆっくりとこちらを見上げた。
「さっきからやけに本を読むなとか出ていけとかピーチクうるせぇと思ったら……ふんッ、そういうことかよ」
ニヒルな笑みを浮かべた鹿波は、俺を鼻で笑った。
「やっぱお前キモオタじゃねえか、しかもホモ野郎。……童貞だろ?お前」
「モテねえからってホモ漫画で現実逃避か?可哀想になぁ、気持ち悪いんだよ、ホ・モ・野・郎!」額を漫画の背表紙でこんこんと叩かれ、俺は、居た堪れなさとか焦りとかそんなもの全部吹っ飛んだ。
別に、百歩譲って童貞は許す。許そう。俺は童貞だ。
けど、けどだ。
「……二次元と三次元は別物だって言ってんだろうが……ッ!」
鹿波の腕を掴み、引き剥がす。思っていたよりも骨っぽく、細いその手首に驚いたが、今はそんなことどうでもいい。
「は?……なにキレてんだよ。つか手ぇ離せ、精子で汚れんだろーが!」
「俺は同性愛者じゃないし大体、現実の同性愛者と創作物であるBLは別物だ。なにも知らないニワカが口を出すんじゃねえよ!」
「意味わかんねえ……どうでもいいんだよ、んなもん。この手を離せ、ホモ野郎」
「……んだと?」
鹿波の胸倉を掴み、無理矢理立たせた。並ぶと鹿波の方が背が低いことが分かる。至近距離、眼鏡のフチが当たるくらい顔を寄せれば、一瞬、鹿波の目に動揺が滲んだのが見えた。
ああ、こいつは。山下のエロゲーで見たことがある。
普段は強気だが、いざ相手に強気で来られると弱いやつだな、こいつ。
そうと分かれば、こいつへの対応は一つだ。俺は、鹿波の体を思いっきり壁に落ち着けた。近くの本棚が揺れる。
「いってえ……なにしやがんだ、てめえ!!」
「お前に『ホモ』とBLの違いを教えてやるよ」
ネクタイを引き抜き、俺は、暴れる鹿波の両手首を束ね、頭上で縛り上げた。
「やっぱりホモじゃねえかよ!くそ、離せ!気持ち悪いんだよ!」
喚く口が煩くて、唇を重ねて塞ぐ。これをやればBL漫画の受けは大抵大人しくなっていた気がするがやはり教科書通りにはいかないようだ。目を見開いた鹿波は、躊躇いなく俺の唇を噛んでくる。痛みが走り、血の味が広がる。それでも無視して、俺は壁に押し付けたまま角度を変え、更に鹿波の唇を貪った。
「っ、ふ、ん、んん……ッ」
やべぇ、キスってどうやって息すんだよ。
鼻で息しとけばいいのかな。鼻ってどうやって息するんだ。取り敢えず舌挿れといた方がいいのか?
予想以上に鹿波が暴れるものだから、もっと激しくすればいいのかと自己解決した俺は唾液を絡めた舌を鹿波の唇に押し付けた。硬く唇を結んでいた鹿波だが、唇の周りを舐めれば嫌がるように薄く唇を開き、その瞬間、一気に舌を突っ込んだ。
「ん゛ッ、んぐ、ぅ」
それからはもう無我夢中で何がなんだか覚えてなかった。なんで俺がこいつにキスしてんのか自分でも分からなくなっていたが、腕を動かして逃げようとしていた鹿波の力が徐々に弱々しくなっていくのが分かって、それが嬉しくて楽しくて舌でぐちゃぐちゃに相手の口の中を舐め回す。
「っ、ぁ、む、ふ……ッ」
開いた口から、さつまきまで罵詈雑言を投げ掛けていた鹿波だとは思えないほど、湿っぽい吐息が漏れる。
喉の奥、舌の付け根の裏側を舌先でこちょこちょと擽れば、壁に凭れていた鹿波の体がずるりと落ちる。
ああ、こいつ、ここが好きなのか。テンパった頭の中でも、そういった部分は嫌に目がついた。
お望み通り唾液をたっぷりと絡めた舌先で舌の裏側、その筋をなぞれば、鹿波の耳が、赤くなる。
「っ、ぅ、あ」
舌を噛み切ろうとしてるのか、俺の舌に歯を立ててくる鹿波だが舌の弾力と厚さに思うように顎が閉じれず苦戦してるようだ。俺からしてみれば甘噛みも同然だ。
これは……なんか、イケそうな気がしてきたぞ……。
思ってたよりもいい反応ににやけそうになりつつも、キスに気を取られてる間に俺はやつの着ていた制服のシャツのボタンを外す。
俺の行動に流石の鹿波も気付いたらしい。上半身をばたつかせていたが、やつの舌先を思いっきり吸い上げればそれもなくなる。
シャツの下、傷一つないその上半身を見て息を飲む。
程よく付いた筋肉、その筋がうっすら浮かんだ体は無駄な筋肉もなく、引き締まっていた。
「……ふぅん……」
筋肉とかそうものに興味はなかったが、いざ前にすると悪くないかもしれない。
そっと脇腹に指を滑らせれば、ぴくりと鹿波の体が跳ねる。感度もいいらしい。そのまますーっと脇の下まで撫でれば、「やめろっ」と鹿波は声を上げた。
「気持ち悪いんだよ、いい加減にしろ、まじ、訴えるからな!」
「訴えろよ」
「……ッ」
「その代わり、俺はお前にしたこと、これからすること、ここであったことも全部話すからな」
「何、言って」
「『服を脱がせた後、体を撫でました』」
「……ッ!」
「『そうしたら急におとなしくなって、ビクビク震えながら濡れた目でこっちを見てきます。俺は無視して胸、普通の男子高校生にしては色素の薄い乳輪をなぞりました』」
「ッ、や、めろ、馬鹿……クソッ、触るな……ッ」
「『鹿波君の乳首ははち切れんばかりに勃起して、まるで俺に触ってもらいたいとでもいうかのように胸を逸らして、俺の方へと体を寄せてきます』」
「嘘こくな、馬鹿ッ!!」
ぎゅっと乳首を抓めば、鹿波の声が途切れる。
ツンと尖ったそこは非常に弄りやすい。両胸の乳首を指の腹に挟め、こりこりとその感触を楽しんでいたら鹿波の声が、息が、上擦る。次第に浅くなっていくのがわかった。
「嘘かどうか試してみるか?」
粒を円を描くようにゆっくりと転がせば、ぴくりと鹿波の体が震えた。「やめろ」というその声が震えていて、それを無視して俺は執拗に潰しては勃起するそこを愛撫した。ムズムズして気持ち悪いのだろう、手が動かさせない分、身を捩って逃れようとする姿は滑稽だった。
「き、もちよくなんかねえ……こんなの、最悪なだけだ……」
まだ虚勢を張るつもりか。そろそろアヘ顔晒して完堕ちの流れではないのか。それともまじで気持ち良くないのだろうか。ちょっと不安になってきて、「嘘だな」とか言いながらぎゅっと思いっきり乳首を引っ張った瞬間だった。
「ひ、ぃ」と聞いたこともないような甲高い声を漏らし、大きく上半身を震わせる鹿波に俺はぎょっとした。
それは鹿波も同じだったようだ。自分でも信じられないといった顔をしてこちらを見た鹿波だったが、俺としては正に願ったり叶ったりというやつで。
当社比不敵な笑みを浮かべて見せた俺は、そのまま鹿波の乳首を更に引っ張った。
「っ、や、め、ろ……ぉ……ッ」
「本当にやめていいのか?」
「……ッ!」
鹿波の下腹部、そこが不自然に盛り上がってるのを見て、俺は舌なめずりをした。
きた、この展開を待ってた。
俺は内心安堵しながらも、鹿波の股間、スラックスごと下着を脱がせる。瞬間、ガチガチに勃起した性器が飛び出す。先端にぷっくりと滲んだ透明な先走りに触れれば、濡れた音を立て透明な糸が伸びる。
「……ホモホモ言ってるけど、お前の方がホモなんじゃねえの?」
「んなわけねえだろ……っ、気持ち悪いんだよ」
「男に攻められて勃起してるお前のが一番キモいよ」
「……ッ、……ッ!」
鹿波はもう、言葉も見当たらないといった様子だった。
別にそんな趣味はなかったつもりなのに、涙目になって抵抗をする鹿波を見ていると、妙にムラムラしてくる。ムカつくやつを降服させる。これ以上に気持ちがいいことがあるだろうか。
「変態……ッ」
顔を真っ赤に染めた鹿波が、涙で濡れた目でこちらを睨み付けてくる。
俺は、勃起したそれを思いっきり指で弾いた。
「変態」
そう、放った言葉は鹿波に向けてなのかそれとも自分なのか最早判断付かなかった。
鹿波の前に膝をつき、窮屈そうに先走り滲ませるそれに唇を寄せる。男のもの、しかもいけ好かない野郎のものを俺が口でしゃぶるのは気に入らないが、それよりも、俺の手でイカせて泣かせたいという気持ちの方が勝ったのだ。
「ふざけんな!クソッ!絶対に、ぜったいに、訴えてやるからな……っ」
鹿波はというと相変わらずだが、先端の輪郭をなぞるように舌先を這わせればその罵声も止む。
裏筋に浮かぶ血管をなぞる。玉を軽く揉みながら根本から先端まで舌を這わせれば、鹿波の声は吐息に変わる。必死に声を殺してるのだろう。唇を硬く結ぶ鹿波。
「っ、ん、ぅ、ふ……っ」
先程まで生意気ばかり言っていた口からは、熱っぽい声が漏れる。静かになったことが何よりも答えになってるとわかってないのだろうか。
亀頭部分を咥え、窪みに舌先を押し当てる。そのまま抉るように舌をグリグリと押し付ければ、鹿波の腰が痙攣する。
「……ぁっ、や、め、ろ……ッ!」
口の中のブツが更に脈を早めた。膨れるのが分かって、俺はそのまま執拗に亀頭を責める。カリの輪郭を確かめるように舌を這わせ、亀頭ごと吸い上げる。するとあら不思議、鹿波の口からは次第に蕩けたような声が漏れ始めた。
「やめっ、ほんと、無理、やばい……から……っ、頼むから、やめ……ッ」
「嫌だ」
「ッ、あ、あッ、ひッ、ぅあ」
逃げる腰を捕まえ、喉の奥まで性器を飲み込んだ。
中々息苦しく、男臭かったがそれでも、苦悶の色を浮かべた鹿波を見上げるのは中々楽しい。
喉全体を使って性器を締め付けた瞬間、口の中で大きく跳ねたそれは俺の喉へ精を吐き出した。
まさかこんなに早く出されるとは思ってなくて、俺はうっかりそれを飲み込んでしまう。
ねばねばとした液体が喉に絡み付き、慌てて性器から口を離す。と、同時に咽る。
「……ッ、早すぎんだよ、早漏野郎……ッ」
「うるせえ……ッ!」
まだ減らず口を叩ける余裕があるようだ。
可愛くない反応にムッとしつつ、俺は鹿波の腿を掴み上げた。
「は……離せ、変態っ」
尻の穴が見えるくらい足を持ち上げれば、鹿波が顔を引き攣らせる。それを無視して、俺は無防備に晒されたそこに、唾液を絡めた指を一本押し当てた。
引き締まったそこは、硬く閉ざされてる。そんなの想定内だ。
「お、い、どこ触って……っ、痛ッ」
「はぁ……?どこって……?わかんねえーのかよ、自分のケツの穴の位置も」
「なっ、に、言って」
ずっ、と唾液の滑りを頼りに一本の指を挿入する。分かっていたが、かなりキツイ。こりゃチンポ入りそうにないな。
思いながら俺は出来る限りそこをほぐそうと、まずは入り口付近を指の腹で揉みほぐす。
「っ、ふ、ぅ」
痛いのか、涙を滲ませる鹿波。こいつのことだからまじで辛いとかそんなんじゃなく生理的なものだろうと思うけど、どうしてか赤くなった濡れた目を見ると酷く胸の奥がざわつく。
唾液を塗り込むように指を動かせば濡れた音が響く。そしてその都度鹿波の腰が揺れた。
「っひ、ぅ、く……ぅ……ッ」
苦しそうな声。
痛いのだろう。思いっきり痛め付けるのも悪くない。けれど、それよりも。
内壁を摩擦し、筋肉を解していく。一本から二本へと指を増やせば鹿波の腰が落ちそうになり、俺はそれを捕まえた。剥き出しになった下腹部に自分の指が入る図というのはなかなか壮観だ。濡れた内壁をしっかり解し、引き抜けば、その反動で鹿波はずるりと壁に凭れた。
息も絶え絶えといった様子だが、まだ大丈夫そうだ。でなければ困る。俺はベルトのバックルを掴み、緩めた。
「っ、ぁ、やめ……ろ……っ」
ここまできてやめれるわけがなかった。
勃起した性器を握り、俺は、解したそこに押し当てた。まだ硬いが、最初はそんなものだろうということにしておく。
思いっきり腰を進めれば、ずっと沈んだその感触に、つられて息を漏らす。
「……ひっ、ぎ……!」
きつい、つか、熱い。あとめっちゃきつい。
チンポごと引きちぎられそうなそんな狭さに気持ちいいとか思う余裕はなかった。鹿波の苦しむ顔を見たいが一心で腰をゆっくりと進めていけば、唾液でぬるぬるしたそこは確実に俺のものを飲み込んでいく。亀頭まで飲み込んだところで、息を吐いた。汗が止まらない。それは鹿波も同じだった。顔を真っ赤にし、涙なのか汗なのかよくわからないものを流しながらこちらを睨みつける鹿波に、俺は再び腰を動かした。
「動くなッ、ぁ、や、動くな……ッ!」
それは最早悲鳴に近かった。
そんなこと言われても、腰を動かすこと以外能がない俺は鹿波の腿を掴み、腰をゆっくり沈める。
最初は焦ったが、次第にこの窮屈さ、締付けが心地よくなり始めた。
何よりもオナホとは違う、人の体温。
包み込まれるような肉感に腰が自然に動いてしまうのだ。もっと、もっと締め付けてくれと言わんばかりに。
「ひっ、ぎ……ぃ……ッ」
ぼろぼろと鹿波の目頭から大粒の涙が溢れる。それを舐め取り、俺はゆっくりと鹿波の体を抱き寄せた。鹿波はもう暴れることはなかった。その代わり、親の仇でも見るかのような恨めしそうな目でこちらを睨む。
それもすぐ、痛みに引きつった。
「はっ、あ……うあっ」
「……可愛い声出すんじゃねえよ……ッ」
半分以上鹿波の中に入ったが、根本まで挿れたら本当に壊れてしまいそうなそんな気すらした。
一回抜き、再びゆっくりと腰を進める。そうピストンを繰り返し徐々に内壁を押し広げていけば、次第に鹿波の声も甘いものになっていく。気持ちよくなってきたのだろうか、勃ち上がり始めてる鹿波の性器を見て、内心ほっとする。
「も……っ許して……っ」
それは酷く弱々しい、鹿波の声だった。
あのクソ生意気な鹿波から吐き出されたとは思えないその声に一瞬、思考がフリーズする。次の瞬間、大きく脈打つ心臓。気がついたときにはやばかった。
浅くなる呼吸、手加減する余裕もなく、ただ目の前のこいつを自分のものにしたい。そんな浅ましい欲が芽生えては何も考えられなくなる。
「てめ、やッ、あ、ひ、ィッ!」
優しくがなんだ、初めてだからなんだ、知るか!俺だって初めてだ!
腰を思いっきり掴み、中まで深く挿入する。奥を突く度に性器全体を締め付けられ、その感覚を求めて更に腰を打ち付ける。ぐちゅぐちゅと音を立て擦れる内壁は出し入れ繰り返す度に捲れ上がれ、吸い付いてきた。
動く度に鹿波の口からは断続的な喘ぎ声が漏れ、自分に反応してくれるのが嬉しくてわけわかんなくなった俺は何度目かのキスをした。
唇を吸いながら腰を進める。汗も唾液も混ざり合って、なんだかもうぐちゃぐちゃだった。
このまま溶けてしまいそうだ。思いながら、俺は、鹿波を思いっきり抱き締めた。奥深く根本まで挿入した途端、糸が切れたように射精する。
「──この、早漏野郎ッ」
鹿波の腿へと垂れる白濁。こちらを睨む鹿波に、俺はきゅっと唇を結ぶ。
ごもっともです。
「人のケツで童貞卒業すんじゃねえよ!」
「うるせえ、人に汚い精液飲ませやがって!」
「そ、それお前が勝手に飲んだんじゃねえか!変態!ホモ野郎!信じらんねえ!」
「ぎゃーぎゃーうっせえんだよお前!さっさとケツ出しやがれ!」
「やめろ、触んじゃねえ!……やっ」
ベッドの上、俺は鹿波の腿を掴み、足を開かせた。ぐっぽりと開いたそこから溢れる白濁に、我ながらえげつないことをしてしまったと今更怖気づく。
それも、鹿波のような暴力の権化を相手に。
殺されるか?死ぬか?殺される前に本棚の奥のBL本を始末しないと、なんて思いながら精液を掻き出しながら俺は恐る恐る鹿波の反応を伺う。
同時に、声を出さないよう必死に唇を一の字に結んでいた鹿波と視線がぶつかった。
心臓の奥がどくりと脈打ち、俺は咄嗟に鹿波から目を逸らす。
「……こりゃ、風呂に入った方が早いかも知れない」
「も、元々はお前が……なっ中に、……出すから悪いんだろうが……!ホモ野郎……ッ!」
「だから悪かったっていってるだろ。……それに、俺はホモじゃ……」
ない、と言いかけて、俺は口を閉じた。
いや俺、完璧ホモじゃん。
数分前の自分の行動を思い出し、俺は改めて鹿波を見つめた。
「なっ、なんだよ……っ」
「……鹿波」
「名前呼ぶんじゃねえよ、ホモ野郎……っ」
動揺したのか、急にしおらしくなる鹿波。
頬が赤いのは、先程の余韻が残っているせいだろうか。
よくみると、中々可愛らしい顔をしている。つり目がちのキツい目は、潤み、揺らいでいた。
痕の残った手首を掴めば、鹿波はびくりと肩を揺らす。
そのまま顔を近付ければ、「おい」と鹿波はたじろいだ。それでも構わず更に顔を寄せれば、なんということか、観念したかのように鹿波はおずおずと顔を逸し、それからまたちらりとこちらを見る。
「っ……」
てっきり殴られるのではと思っていただけに、伏せ目がちにこちらを見る鹿波に俺はなかなかの衝撃を覚えていた。
まさかこいつ、俺に惚れたのだろうか。
無抵抗の鹿波に、こっちまで緊張してくる。据え膳食わぬはなんとやら。思い切って俺は、唇を突き出そうとした。
そのときだった。
「……あのー、そろそろ入っていいかな」
恐る恐る扉から顔を出す山下。
こいつ、なんてタイミングで。
青褪めたとき、真っ赤になった鹿波のグーパンが俺の頬にめり込んだ。
腐敗系男子 ep.1『腐男子と不良』
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