馬鹿ばっか


 13

ちょっとやそっとのことじゃ動じない自信があったがどうやらそれは過信だったようだ。
全身の血が煮えたぎり、いますぐこの目の前で余計なことをベラベラ喋る馬鹿どもを黙らせたいという衝動に駆られると同時に消えて塵になってしまいたいというジレンマで頭は真っ白になりただ顔に集まる熱だけを感じる。

怒りで震える、というのはまさにこのことだろう。


「尾張君、あの……」


押し黙り、硬直する俺を見兼ねたのか恐る恐る岡部が声を掛けてくる。
なにごともなかったように笑みを返そうとするがガチガチに強張った顔面は引きつり、俺の顔を見た岡部は「ひっ」と息を飲んだ。
酷いことになってたのだろう。
なってたたのだろうが、そのリアクションは傷付く。

そんな騒がしい生徒会室の中。
ガシャン、と陶器が叩き付けられるような音が響き、喧騒はぴたりと止んだ。
そして連中の視線は音源である一人の生徒に向けられる。
生徒、もとい岩片凪沙は持っていたティーカップを机の上に置き、この学園の馬鹿ツートップに目を向けた。


「ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃうるせえな、こいつのケツくらいで騒ぐんじゃねえよ」


静まり返った生徒会室内に岩片の声が響く。


「言っとくけど、種付けしてねえならなに挿れたところでなんにもかわんねえからな。あんまでけー声ではしゃいでやんなよ、ハジメが泣いちゃったらどうすんだよ」


耳を塞ぎたくなるような品の欠片もない単語や上から目線なその物言いは相変わらずで。
どうやら岩片は俺を庇ってくれているようだ。
その事実に驚く反面、やつがなにを企んでいるのかわからず岩片に目を向ければ丁度こちらに顔を向けた岩片は口許に薄い笑みを浮かべ、そして五条椅子から立ち上がる。


「岡部」


言いながら、俺の側までやってきた岩片は俺の腕を引っ張り側にいた岡部に声を掛ける。
どうやらこの場を一旦退避するつもりなのだろう。


「え、あ……はい」


慌てて立ち上がる岡部につられるようにして立ち上がった俺は、床のに散乱する書類に構わずさっさと扉まで歩いていく岩片の後をついていく。
同様、縛った五条を拾う岡部はそれを引き摺りながらついてきた。
段々五条に対する扱いが雑になっている感が否めない。

そんでそのまま出ていこうとする俺たちだったが、もちろん他の連中が大人しく解放してくれるわけがなく。


「ちょっと待て、どこに連れて行くつもりだ」


案の定生徒会長さんがつっかかってきた。


「帰んの。今用事思い出したから。……なに?なんかまだ用あんの?そこの風紀のやつらは好きにして良いって言ったけど」

「じゃあひとりで帰れよ。そいつは置いていけ」

「今ならおまけで俺もついてくるけど?」

「じゃあな、気を付けて帰れよ」


諦めるの早っ。

もう少し粘れよこれだから最近の若者はとか言われるんだよとか心の中で突っ込まずにはいられなかったが俺としては有り難い。
というか岩片はどんだけ政岡に忌み嫌われてるんだよ。
「えー帰しちゃうの?会長」「会長のヘタレー」と面白くなさそうな双子補佐に「俺は俺のケツが大切なんだ」と真顔で説得始める政岡。
いやまあ気持ちはわかるが。


「さて、部外者もいなくなったところだし生徒会役員!貴様ら全員指導室にぶち込んでやる!!」


そしてお前はまだ諦めてなかったのか。
痺れを切らした風紀委員長の宣言により再び騒ぎ始める生徒会室の中、俺たちは巻き込まれない内にその場を後にする。

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