馬鹿ばっか


 7

まさかこんなところでクスコをお目にかかることができるとは。
しかも体験までさせていただけるなんて。

ほんとふざけんな。


「へえ、委員長準備いいね。じゃあこの子の中をもっとよく見るために貸してもらおうかな」


『そんな金属を僕の可愛い仔兎に入れて中を傷付けたらどうするんだい?』とかなんとかかんとか言ってもしかしたら、万が一寒椿が野辺に言い返してくれるかもしれない。そう淡い期待を抱いた俺だったが淡すぎたようだ。
テーブルの上のそれを手に取り、ふわりと微笑む寒椿になんだか生きた心地がしない。
いや、冗談抜きにこの展開はやばい。
いくら自分に自信がある俺でも体内を覗いて平気なほどタフな精神はしていない。


「っやめろって、言ってんだろ……っ!」

「ふふ、そんなに照れないでくれ。なにも入れられていない綺麗な君の体をよく見てたいんだ」


クスコを手にした寒椿の引き締まった腕を掴み、奪おうとするがなかなか手強い。
近くにいた風紀委員に両肩をテーブルに押し付けられ、突っ伏した俺は「なにも入ってねえなら見る必要ねえだろっ」と声を上げた。
その一言に一瞬風紀室が静まり返る。


「………………」


少し考え込むように顔を見合わせる野辺と寒椿。

そして、こちらに視線を落とした寒椿は可憐に微笑んだ。


「今日の仔兎は元気だね。ちょっとひやってするかもしれないけど堪えられなくなったら僕の手を握って我慢してくれても構わないからね」


おいなにこいつ流してんだ。
まさか今自分が掘った墓穴なかったことにするつもりか。


「ふざけ、んん……っ」


抵抗しようと体を起こそうとするが背後から体を押さえ付ける手が増え、後頭部を押されテーブルに強制頬擦りされる俺は歯を食い縛り、背後に立つ王子の皮を被った強姦魔を睨み付ける。
目が合って、寒椿は目を細め微笑んだ。

丁度、そのときだった。
コンコンと風紀室の扉が叩かれる。

室内に響くノック音。
まさかの訪問者にぎょっとして首を動かし背後の扉を振り返る俺。
同様、風紀委員たちの視線もその扉に向けられた。

そして、小さな沈黙。


「どうぞ」


と思いきや普通に扉を開く野辺。
どうぞじゃねーよ状況見やがれこの節穴野郎がと罵る隙も俺ケツ丸出しじゃんと恥ずかしがる隙も与えられない内に呆気なく招き入れられる訪問者。
そして、開いた扉の向こう側に立つ訪問者の姿を目にした俺は凍りついた。

ワックスで弄った茶髪に着崩したカラースーツ。
全身からホストですみたいなオーラを滲ませた担任がそこにいた。


「……!!」

「ああ、なんだ大体揃って……」


現れた顔見知りのホスト教師もとい宮藤雅己に青ざめた俺は咄嗟に顔を隠そうとしたが、遅かった。
風紀室を見渡しそこにいる数人の風紀委員と委員長の姿を確認した宮藤と目が合い、宮藤の動きが停止する。
そりゃあもう、まるで時間が止まったかのように。
それは俺も同じで、やばいと思ったときにはなにもかもが遅かった。

ああ、終わった。
俺の華やかな学生生活終わった。

なんだかもう顔が熱くなって、恐らくタコのようになっているであろうときだった。
不意に、宮藤の視線が逸らされる。

そして、


「揃ってるな」


なにもなかったかのように続ける宮藤。
そう、なにもなかったかのようにだ。
まるでこの風紀室にはズボン脱がされて半ケツのままテーブルに押し付けられ肛門に指捩じ込まれて弄られてる生徒なんて最初からいなかった。そんな宮藤の態度に少なからず俺はショックを受けていた。
いや別に『うおっ!こんなところに我がクラス2ーAの生徒尾張元が風紀委員に押さえつけられてアナルいじられてる!』とかそこまで食いついてもらいたいわけではないがこう、止めるとかもっと他にも教師としてあるだろ。
そう言いたかったが、いつの日か五十嵐彩乃から聞いた話で教師たちは不良生徒に無関心というか関わらないをモットーにしているというのを思い出し、なにも言えなくなる。取り敢えず穴があったら入りたい。


「どうかしましたか、宮藤先生」

「ああ、この間頼んでいた調査の書類を取りに来たんだよ」


そんな俺の気も知らず、ごく普通に宮藤に対応する野辺に対し声を掛けられた宮藤は「出来てるか?」と聞き返す。


「これですか?」

「おー、それそれ」


そして風紀室の資料棚の側まで行き、なにやら普通に委員長らしいことしている野辺は宮藤になにか手渡した。
宮藤もなかなかの不良教師だが野辺の対応を見る限り教師という役職の人間には一応敬意を払って接しているようだ。いやそんなこと今はどうでもいい。


「まさみちゃ、……っ、ん……ッ」


複数の手に押し潰されそうになる俺はあまりの圧迫感に堪えれず、もうこうなったら誰でもいい。助けてくれ、と宮藤を呼ぶが、聞こえていない。
それどころか、宮藤への対応は委員長の野辺に任せることにしたらしい寒椿は手にしたクスコを握り直し、そのまま人の肛門に宛がった。

肛門に突き立てられるひんやりとした金属独特の感触に息を飲んだときだ。
その硬く尖った先端はぷにっと肛門をつつき、そしてそのまま体内へと侵入を始める。


「駄目じゃないか、いま君の体に触れてるのは僕だよ。この僕、寒椿深雪だ」

「待っ、や、痛ぅ……っ」

「さあ、その桃色に染まった愛らしい唇で僕の名前を呼んでくれ。そして聞かせてくれ。君の甘く淫靡な声を」

「っぁ、や、め……ッ、糞っ、離せ、離せよ……っ」


先ほど乱暴ながらもほぐされたお陰であまりの痛みに痺れた肛門には今痛覚という痛覚はなく、ただ身の凍るような嫌な異物感が体内を這い擦るようにゆっくりと入り込んでくる。
元々挿入するための医療器具なのであまり負担のかからない作りをしていたが、だからこそ余計に恥ずかしくて堪らない。

風紀委員に囲まれたままもがく俺の声なんか聞こえていないのか、野辺となにかを話し終えそのまま風紀室を出ていこうとする宮藤になんだかもう俺はすがるようにその背中を眺める。


「くどうせんせ……ッ!」

「…………」


そして、そう圧迫された喉奥から声を振り絞ったときだった。
ドアノブを掴み、そのまま扉を開けようとしていた宮藤の動きがピタリと止まる。
そして、思い出したようにこちらを振り返った。


「ああ、そうだった。そういえばさっき生徒会室前で役員たちが揉めてたな。お前ら全員そっち止めてきてくんねえかな」


「至急な」そう、にこりと営業スマイルを浮かべる宮藤の口から出た『生徒会』という単語に風紀室の空気が一瞬にして変わるのがわかった。
そして、一番最初にその宮藤の台詞に食い付いたのはやっぱり野辺だった。


「なに?また生徒会の連中か!おい寒椿、さっさと行くぞ!」

「生徒会役員の一人や二人くらい委員長一人でもいいんじゃないかな」

「煩いぞ寒椿!副委員長の分際で俺に口答えするんじゃない!」


言いながらズカズカと歩み寄ってきた野辺はそのまま俺のケツに挿入されていたクスコを掴み……え?ちょっと待った。
まさか、まさか。


「っ、ひ、ぁッ!」


ずぼっと音を立てる勢いで引き抜かれる金属のそれに思いっきり内壁を擦り上げられ、痺れたそこに走った刺激に我慢出来ず声を洩らしてしまう。
なんでこうこいつはこんなに手荒いんだ。抜いてくれるのはありがたいがせめてこうもっと優しくしてくれ。
変な声を出してしまい一人なんかもう顔から火を吹きそうになる俺に構わず、引き抜いたクスコをテーブルの上に投げ捨てる野辺は悶絶する俺を一瞥し「そこのやつは縛ってそこら辺に置いとけばいいだろう」と吐き捨てた。


「寒椿」

「わかってるよ、彼の自由を封じればいいんだろう」


野辺に呼ばれ、そうやれやれと肩を竦めた寒椿は言いながら縄を取り出し、そのまま束ねるように拘束していた俺の腕をぐるぐるに縄で縛り上げる。
キツく縛られたせいで僅かに胸が反るような形になった。かなり恥ずかしい。というかなんでこいつ縄なんてもの常備してんだ。


「ああ、ごめんね。こんな奴隷のような姿をしてしまって。本当は一時足りとも君と離れたくないんだけど、どうやら運命はどうしても僕たちを引き裂きたいらしい。君を傷付けるようなこんな世界、滅べばいいのに」


お前がしたんだろうが。


「寒椿深雪、さっさとしろ!委員長命令だ!」

「わかってるよ、委員長。それじゃあまた、囚われの姫君。今度君の縄をほどく時、それはきっと「とろいぞ寒椿!」……ああ、委員長、止めてくれ。服にシワが出来てしまう」

「知るか、さっさと来い!」


そしてあまりにもこう前口上が長い寒椿に痺れを切らしたようだ。
壁に立て掛けていた竹刀を手に取り、空いた手で寒椿の首根っこを掴んだ野辺は風紀室にいた委員を連れずるずると寒椿を引き摺りながら風紀室を退散する。
というか寒椿、副委員だったのか。

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