馬鹿ばっか


 02※

「全く……あれほど私の名前は出さないようにとお願いしたのになんたる様ですか、五条部長。なんのために私が本人に無断で作ったエロ本やコラ写真での小遣い稼ぎに目を瞑ってやったと思ってるんですか?せっかく元さんの写真を書記に仕込んで元さんの前でポロリしてそのまま好感度がた落ちさせようと思ったのに貴方のせいでパアじゃありませんかこの穀潰し」
「違いますよぉ副会長、あれはエロ本ではなく同人誌という歴としたあいたたたたた!」

 写真ポロリどころか色々ポロリしてる能義は全く反省の色を感じさせない五条の頬をつね、「そんなことはどちらでもいいんですよ」と吐き捨てる。
 というか五条もなにやってんだよこいつさっさと捕まればいいのに。
 悪い意味で口が達者な二人になんだかもう俺は転校したくなってくる。そして能義はどっから湧いてきたんだ。

「……と言うことです、元さん。もちろん協力してくれますね?」
「いやなにがどういうことなのかさっぱり」

 というか今までの会話を聞かされて俺が協力すると思っているのか。
 それ以前に俺にネタばらししたら好感度も糞もなくなるだろう。
 ……いやそこじゃない。
 第一なんで能義の彩乃に対する嫌がらせのために俺が脱ぐと思うんだ。どっからその自信が湧いてくるんだ。というか開き直るな。

「まあ、貴方はちょっと服脱いでカメラの前でポーズ決めていただくだけで良いですので」
「そのちょっとが難易度高くないか」
「おや、そうですか?会長と会計は喜んで脱いでましたけどね」

 いやあの二人はまた違うあれだろ。
 というか能義は二人になにをやらせてるんだ。

「悪いけど、俺次の授業あるからそろそろ行くわ。あんたらもさっさと自分の教室戻れよ」

 このままいても仕方ない。そう悟った俺は逃げるように教室を後にしようとする。
 そのときだった。

「部長!」

 そう声を上げる能義。
 瞬間「そうはさせるかーっ!」とどっかの雑魚キャラのような台詞を口にする五条に羽交い締めにされる。

「うわっ!」

 いきなり脇の下に潜り込んでくる五条の手に両腕を持ち上げられた。
 悪ノリにしてはちょっとあれじゃないか、やりすぎじゃないか。

「あまり手荒な真似はしたくないのですが、致し方ありません。元さんにはなんとしても協力していただきます」
「は?ここで?」
「ええ、なにか問題でも?」
「なにって、周り……」

 ちらほらと教室に残ったクラスメートに目を向ければ、能義はにこりと柔らかく微笑んだ。
「大丈夫ですよ、すぐに野次馬はいなくなりますので。ねえ」そう続ける能義に、残っていたクラスメートたちはそそくさと教室を後にする。
 どんだけ空気読めるんだ。そういうのはもっと別のところに活かしてくれ。

「俺的には野次馬に見られながらの撮影会のが好きなんだけどなー。『ああ……皆がいやらしい目で俺を見てる……ビクンビクン』みたいなさあ、全身視線で犯されてなにもされてないのにムラムラしちゃうみたいな」

 俺の真似かそれ。
 つーかこいつはなにを言ってるんだ。岩片側の人間か。

「……流石、童貞が考えることはなかなか気持ち悪いですね。私は大衆に囲まれるより個人の撮影会の方が萌えますね。プライベートハメ撮りなんて最高じゃないですか。アサガオの成長記録みたいな感じで撮るのもなかなか風情があると思いません?」

 俺からしてみれば二人とも気持ち悪いことには違いないな。
「童貞舐めんなちくしょお!」と声を荒げる五条。どうやら童貞なのは間違っていないようだ。聞いててこっちが悲しくなる。
 というか二人の会話を聞いてる限りただの撮影会に聞こえないのだがこれはあれか、もしかして俺の貞操がまた危機に晒されていたりするのか。

「部長、カメラをこちらに渡してください。そのままじゃ撮れないでしょう」

 なんとか五条の腕を振り払おうとする俺を他所に、言いながら正面に立つ能義は五条の手の中からカメラを取り上げる。
 能義にカメラを渡す五条は「新品なんだから壊すなよ」と念を押した。

「大丈夫です。こう見えて機械には弱いのですが精一杯頑張らせていただきます」

 全然大丈夫じゃなかった。

「つかさ、待てって。写真云々はわかったけど、なんで腕」
「や、だって尾張逃げるじゃん」
「逃げるとかじゃなくて、この後授業があるんだってば」
「おや、元さん。授業はサボるためにあるという言葉を知りませんか?」

 知らねーよ、絶対今適当に言っただろ。
「さっすが副会長!わかってるー!」と同調してくる馬鹿眼鏡もとい五条。
 会長と会計があれならと思ったらやはり副会長も相当な馬鹿のようだ。怒りを通り越して呆れてくる。

「転校初日からサボりとか有り得ねえって」
「おや、真面目ですねぇ。安心してください、写真を撮ったらすぐ解放してあげますので」
「……なら早く撮れよ」
「では、お言葉に甘えて」

 このまま渋ってもしょうがない。
 五条に捕まえられた今、能義のリクエストに答えるしか逃げる手が見つからなかった俺は能義を促すことにした。

「失礼します」

 薄く笑みながら呟く能義は、そう言って俺の制服に手を伸ばす。
 既にいくつか外したワイシャツのボタンを片手で器用に外していく能義に驚いた俺は「ちょっとタンマ」と声をあげた。

「いかがなされましたか?」
「いや、なんで脱がしてんの」
「おや、部長から聞いてませんか?私からのリクエスト」

 リクエストって、確かさっき五条が注文をつけてきたやつか。
 言いながらも手を止めない能義に冷や汗を滲ませれば、背後の五条は「事後を再現した写真」と俺の耳元で続ける。

「……あ?事後?」
「ええ、ヤった後のような写真を撮るよう部長に頼んでたんですよ。いえ、勿論フリですよ。フリ。そんなに体を硬くしないでください」
「いや、なんでそんな写真……」

 ボタンを外され、全開になったワイシャツから手を離した能義は呆然とする俺を見てにこりと微笑んだ。

「そうですねぇ。……敢えて言うなら個人利用ですかね」

 絶対嘘だ。そうしらばっくれるように呟く能義は俺の下腹部へと手を下ろし、そのままベルトのバックルを掴む。
 不意に昨日の神楽の言葉を思い出した。
 やはりまた今回も生徒会のゲームが絡んでいるのだろう。
 ルールがよくわからない現在適当なことは言えなかったが、どうせろくなことじゃないはずだ。
 ガチャガチャと留め金を外す能義に軽く身を捩らせるが、やはり背後からガッツリ捕まえられているお陰で身動きすら儘ならない。

「ほら、貴方はなにもしなくていいんですから力を抜いてください。顔が怖いですよ」

 睨む俺に、能義は笑いながらベルトを弛める。
 そのまま足元までずり落ちるスラックスに目を向けた。
 下が下着一枚だけになり、なんだこれ新手のいじめかとなんか情けなさで居たたまれなくなってくるがどうしようもない。

「やるんなら早く撮ってくんね?結構寒いんだけど」
「ああ、そうですね。ちょっと待っててください」

 肌寒い下半身に、俺がそう訴えかければ能義は手に持ったカメラに目を向けた。
 慣れない手つきでそれを弄り始める能義に大丈夫かこいつと心配しながらも俺は能義を生暖かい目で見守ることにする。
 そのときだった。後ろから羽交い締めていた五条の手が弛くなったと思った瞬間、いきなりワイシャツを開くように胸元を鷲掴みされる。

「ちょっ、えっ、なに」
「え?」
「いや、『え?』じゃなくてさ、お前どこ触って」
「どこって尾張のおっぱいに決まってんじゃん。雄っぱいって言った方がいい?」
「いや、意味が……ぁ、ちょ、まじやめ……ッ」

 円を画くよう外側から内側へと胸板を揉み扱かれ、慌てて俺は五条から逃げようとするが胸元をしっかりと抱く手が邪魔で上手く逃げられない。
 伸びてきた五条の指先が乳首に触れ、胸を揉まれながら指の腹でくにくにと柔らかく潰される。

「おや、五条部長なにやってるんですか。私に面倒なことをやらせておいて随分と楽しそうですね」
「なにって副会長が自分からやるっつったじゃん。人聞き悪いなあ」

 人の乳首弄りながらよく人聞きのことを言えるな。
「むむむ、確かにそうですね」と納得させられている能義にこいつは馬鹿なのかと呆れつつ、俺は胸を弄る五条の手を掴む。

「まじ、なんなわけ、これ。さっきフリっつったじゃん」
「いや、だって目の前で胸ばーんな美男子いたらやっぱ揉むしかねーじゃん?ほら、せっかくだし転校祝いに乳首開発してあげるよ」
「まじ、意味わかんねえから……ッ」

 慌てて五条の手を離そうとするが、両胸の突起を指で揉まれ指先から力が抜けていった。
 性感帯ではない場所をいじられ、全身にもどかしい感覚が込み上げてくる。
 背筋が薄ら寒くなるようなことを耳元で囁かれ、なんかもう生きた心地がしない。

「おい、離せって。今なら許すからっ」
「まじ?許してくれんの?んじゃ、揉みたい放題じゃん」

 離したらって言ってんだろうが。
 見事に都合のいい部分しか聞いてない五条に腸が煮え繰り返りそうになりながら、俺は「違う」と顔をしかめる。

「可愛いなあ、やだやだ言っちゃって。こうやって乳首ぐりぐりしてるとその内おっぱいじんじん熱くなって気持ちよくなってくるよ。一緒に試して見よっか。ほーらぐりぐりーぐりぐりー」
「ッや……っちょまじ、キモいから……っは、やめろ、指やめろッ」

 五条の荒い息が耳に吹き掛かり、まるで小馬鹿にでもしているような言葉に耐えきれなくなった俺は顔をしかめながらそう振り払おうとする。
 どうやら咄嗟に俺の口から出た言葉がショックだったようだ。
「き、キモ……?!」と絶句する五条の動きが一瞬止まり、その隙を見て五条の腕から離れようとするが「もっと罵って!」とか言いながら背後から抱き締めてくる五条に再び捕らえられる。

「……ッぁ、や、ちょ……っ」

 背後から抱きすくめられ、肩に顎を乗せてくる五条から逃げようとするがかなりしつこい。ゴキブリ並みだ。もう今度から五条のことゴキ条って呼ぼう。

「あはっ、見て見てー尾張。ほら、わかる?尾張のかわいー乳首もうこんなに固くなっちゃった」

 突起から手を離し、それに触れず周りの乳輪をなぞるように指先で擦る五条はそう下品に笑う。
 つられて視線を下ろした俺は、ぷっくりと尖った自分のそれになんだかもう恥ずかしさやら通り越していたたまれなくなってきた。
 寒いからに決まってんだろ。まじこいつぶん殴りたい。
 馬鹿にするように耳元で囁かれ、羞恥やら怒りやらで顔に熱が集まるのが分かった。
 五条の腕を掴み離そうとしたとき、乳輪をなぞっていた五条の指先に思い切り乳首をつねられ、胸部に走る痛みに俺は小さく唸る。

「っ、ふ、ぅ……んんッ」

 いきなり訪れた痛みによりじんじんと痺れる両胸の突起を指の腹でやわやわと潰すように捏ねる五条は「ごめんな、痛くしちゃって」と笑う。
 血液が集まるそこは先程の痛みで過敏になったらしく、ねちっこく執拗に突起を重点的に弄ってくる五条の指に押し潰され、体の芯がぼうっと熱くなってきた。
 やばい。やばい。早くなんとかしないと。
 先走る思考、それとは裏腹に段々五条の手が心地好く感じている自分がいた。

「では、元さんと言葉責めのチョイスがキモい部長こちらを向いて下さい。シャッター切りますよー」
「なんで、カメラ……」
「ええ、ついノリで。もう少ししてからの方がいいですか?」
「なにいって……っぁ、や、くそくが違……んんッ……おい、人が喋ってるときに乳首弄るのやめろよ」
「うわいきなり標準語に戻るなよごめんなさい」

 まさかこのタイミングでカメラを持ってきた能義に俺は目を見張った。

「どうせだったらさーハメ撮りアへ顔ダブルピースじゃね?普通に考えてさ」
「貴方は思考がベタ過ぎるんですよ。エロアニメの見すぎです」
「図星だからなにも言い返せない」
「でもまあ、ハメ撮りですか。なかなか良い案ですね。それなら元さんが私に股……いいえ、心を開いたと分からせるには手っ取り早いですし是非採用させていただきましょうか」

 次から次へと出てくる耳を塞ぎたくなるような単語の数々になんだかもう生きた心地がしない。
 五条の執拗な乳首への愛撫で逆上せかけていた俺の思考は、能義の言葉で急激に冷静を取り戻す。

「は、ハメ撮り……?」
「おや、お坊っちゃまな元さんには馴染みないですか?貴方のお尻の穴に私のをハメハメしている様子をカメラに収めるんですよ。楽しそうでしょう」
「副会長の言葉責めも大概キモいっすね!」
「おや、心外ですね。分かりやすく説明してさしあげただけというのに」

 俺の背後にいる五条に手を伸ばし、そのまま耳朶についたピアスを引っ張りながら能義はそう微笑む。すぐ耳元で「ギャアアア」と悲痛な悲鳴が聞こえ、不意に体を抱き竦める五条の腕が離れた。
 確かに写真は撮ってもいいと言ったが、そんな決定的なものを記録に残されてみろ。
 というかまず俺が突っ込まれる時点で色々おかしい。いや、俺が挿入する側ならいいというわけではないがとにかく色々おかしい。
 ついでに五条の顔面に肘鉄を喰らわせた俺は、「オギャア」と悲痛な声を上げる五条の腕から逃げ出す。

「あっこら!お待ちなさい!」

「ああっ!眼鏡割れた!」と嘆く五条を他所に、逃げ出す俺に目を丸くした能義は声を荒げた。
 あまり逃げるような真似はしたくなかったが、この場合仕方がない。
 スラックスを持ち上げながらそのまま教室から出ようとする俺に、背後から能義の舌打ちが聞こえてきた。
 そして次の瞬間。

「この私から逃げようだなんて一ヶ月早いですよ」

 なんでそこだけ控えめなんだよ。と思わず突っ込みそうになったとき、背後から伸びてきた能義の手に脱ぎかけの制服を引っ張られる。
 ボタンをつけず全開になっているワイシャツを能義に引っ張られ、もうこれ脱いだ方が早くないかと悟った俺はガバッとワイシャツを脱ぎ、能義の制止をすり抜けた。
 そんな俺を見て「全開おっぱいキタコレ」「尾張の公開勃起乳首」と騒ぎ出す五条に床に置いてあった雑巾を投げ付け、胸を隠したくなる衝動に駈られたが絵面的に色々問題があるのでそのまま構わず俺は教室の扉へ向かう。

「この……ッ」

 そして、俺が扉を開こうとしたときだ。
 どこぞの悪役のように吐き捨てる能義は、今度こそ俺の腕を掴む。
「っ」思ったよりも足が早いようだ。
 掴んだ腕を無理矢理捻り上げてくる能義に、俺は身動ぎをさせる。

「いけませんねえ、元さん。まだ撮影会の途中ですよ?約束はきっちりと守っていただけないと困ります」
「……ッつーか、最初に破ったのは能義たちだろ。写真撮るだけっつったの誰だよ」
「おや、私は貴方に一度も手を出してませんし貴方が約束をしたのも私でしょう。部長が貴方の乳首を勃たせいようが私には全くもって関係ありません。敢えて言うなら、部長も貴方の挑発的な乳首に「わかった。俺が悪かったからもう乳首には触れないで」
 大体なんだよ挑発的な乳首って。俺の本体は乳首かよ。

「なるほど、元さんは乳首も弱いと」

 いや今のは単なる精神攻撃じゃないのか。
 段々突っ込むのもバカらしくなってくるが、突っ込まれるのを黙って見過ごすわけにはいかない。

「部長、今度は貴方がカメラマンの番ですよ」

「よっしゃ輪姦するときも複数プレイをするときもいつも撮影・拘束係を任されて一切触らせてもらえない俺に任せといてくださいよ」

 サラリと切ない発言きた。
 能義からカメラを受け取った五条。
 なにを思ったのか、能義は「記念に一枚撮りましょうか」と俺に笑いかけてくる。

「おっ和姦って証明するやつだろ。りょーかい、はい二人とももっとくっついてー。ちょっと尾張表情固いよ!副会長相変わらずいい笑顔っすね!あっ、尾張青筋立ってる。あとちくいってぇ!脛蹴らないで!」

 肩を抱き、無理矢理くっついてくる能義から離れようとするが思ったよりも力が強い。
 肩に食い込む能義の指に顔をしかめた俺が、なんとかして能義を離そうとしたときだ。

「んじゃ、いきますよー。21−18は?」

「2ー」と自信満々に馬鹿回答をする能義と五条が声を合わせたとほぼ同時に背後の教室の扉が勢いよく開いた。
 カシャリとカメラのフラッシュが瞬くのと同時に背後を振り返る俺と能義。
 そして、そこには……。

「……あやちゃん……」

 あやちゃんもとい生徒会書記、彩乃ちゃんが立っていた。
 というかまだ昨日のを引き摺っているのかこいつ。

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