馬鹿ばっか


 24※

「……っ、……」


誰が、好きなんか、言うか。言葉を飲む。唇をぐっと噛み締めれば、俺の意思を汲み取ったようだ。岩片は笑い、そして、腰を大きく動かした。


「ッ、……ん、ぅ……ッ!」


濡れた音ともに奥を突かれ、不本意にも声が漏れる。声を出したくなかった。聞きたくなかった。
腹の中で精子がぐちゃぐちゃと音を立て塗り込まれるような感覚はいいと言えるものではない。
つか、出したばっかなのに、なんで、もう勃起してんだよ。まじで節操なしかよこいつ。
先ほどと変わりないほど膨張したそれにピストンされれば、品のない音に、熱に、全身の筋肉が緊張する。


「っ、……ッは、ぁ、……ッ」

「……なあ、好きって言えよ、ハジメ……っ」

「だ、れが……ッ、ぁ……ッ!」

「俺のこと好きって言え」

「……ッ、ぅ、……く、ぅ……ッ!」


波打つ快感。執拗に奥をえぐられる度に思考が乱れる。滑る感覚。体を支えることもやっとだった。先程以上に激しく腰を打ち付けられれば、息をする隙もなかった。喘ぐ俺に、岩片は俺の腿を持ち上げ、更に深く腰を進ませてくるのだ。みっともない恰好を気にする余裕もなかった。


「ッ、ぁ、い、わ……ッ、や……抜け、も、むり、や、だめ、だ……ッ!」

「……っ、ハジメ……」

「いわか、……ッ、ん、ゥ……ッ!」


顎を掴まれ、唇を塞がれる。何度も角度を変え、執拗に唇を貪られた。舌と性器上下同時に岩片に犯され、なにも考えられなかった。気持ちいいとか死んでも言いたくない。けれど、唇を重ねてくる岩片が、見たことのない切羽詰まった表情をしていたのに気付いてしまった。

全部、ただの気紛れなんだろう。
暇潰しなんだろう。
俺をからかって遊んでるんだろう。
政岡を優先したのがムカついただけの、ただの独占欲だろう。
……そう言ってくれ、岩片。


「……っ、は、ぅ……んん……ッ」


抱き締められる。隙間がないくらい体を密着され、深く挿入される。お腹がポカポカと暖かくなって、気付けば限界まで勃起したそこからはとろとろと先走りが溢れていた。鼓動が加速する。舌を絡め取られ、咥内を岩片の舌でくまなく舐られれば、頭の奥がじんじんと痺れ、腰が、痙攣するみたいに揺れる。それから間もなくして、何度目かの射精をした。ぽたぽたとシーツの上に精液が掛かる。脳に広がる射精感。体が、ぐずぐずになっていく。言うことを聞かない。まるで、自分の体じゃないみたいに、岩片に触れられただけで甘い快感が広がるのだ。


「っ、ぁ、は、……ッ、ぁ、いわ、かた……ッ!」


声が、自分のものと思えないような声が溢れる。抑えようとしても、開いた口を閉じることができなかった。情けなさを感じる余裕もなかった。
受け入れることが精一杯で、イカされる度にどっかいろんなところが馬鹿になってしまってるんじゃないか、そう思うほど、何も考えられなくなる。太い性器で中を摩擦されるだけで腰が震え、射精したばかりのそこは芯を持ち始めるのだ。
抱き締め、キスされる。唾液を舐め取るように舌を這わされ、腰を持ち上げられる。


「ん、ぅ、ふ……ぁ……ッ、ん……ッ、んんむ……ッ!」


きもちいい。頭が、思考が、岩片に塗り潰される。
舌を絡められるのが心地よくて、一瞬の血の迷いだった、俺は、何も考えずに岩片に舌を絡めた。絡めてしまった。くちゅりと音を立て、岩片の舌に自らのそれをこすり合わせたとき、岩片の両手に頭部を掴まれた。そして。


「ん゛ッ、ぅ゛、ん゛んぅッ!」


ヂュルヂュルと人が発するような音ではないような音を立て、激しく喉の奥舌の根を絡み付けられ、吸われ、嬲られ、舐め回される。もう充分硬くなっていたはずのそこがまた一回り大きくなるのを感じ、血の気が引いた。口の中へと唾液を流し込まれ、先程とは比にならないほどの力で腰を叩きつけられる。壊れる。と、止める余裕もない。無茶苦茶な体位で奥まで犯され、奥まで深く何度も執拗に性器を押し付けられ、もう既に入ってるそこに指を捩じ込まれ、グリグリと中を刺激された瞬間、射精したばかりのそこに熱が一気に集まる。

そこからはもう、記憶は定かではない。
自分の意志とは関係なく射精し、気持ちよさを気持ちいいと容認する隙もなく、イカされる。声を出す間もなかった。全身が焼けるように熱くなり、中に出される度にまた射精して、声も出なくなった。覚えてるのは、ドロドロに汚れたシーツが肌に触れるたびに気持ち悪くなったというのと、長い前髪の下、岩片のゾッとするような獣染みた目だ。


「……っ、好きだ、ハジメ」


薄れゆく思考。酸素が薄くなった部屋の中、岩片のその声は酷くはっきりと耳に残っていた。もしかしたら、都合のいい俺の妄想なのかもしれない。俺は、なにか答えようとしたが、それよりも先に意識が途切れた。腹の中にいっぱいに溜まった岩片の熱を感じながら、ぶつりと音を立て記憶が途絶える。

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