馬鹿ばっか


 13

別にあいつが居ようが居なかろうが別に構わない。どうでもいい。寧ろ、静かでゆっくり休める。
そう思ってはみるけれど、正直、こうしてる間にもあいつのことを考えてる自分が嫌になった。

……あいつ、五十嵐たちとなんか企んでんのかな。
俺のこといらねーならいらねーって言ってくれりゃいいのに、こうやって放し飼いみたいな真似して何様だあいつ。
頭の中ぐるぐるとネガティブな感情が巡る。
寝ようにも寝れず、俺はベッドから起き上がった。

時計を見れば針は午後七時を回っていた。
腹も減ったし、飯食ってくるか。
別に一人で行動することが寂しいというわけではないが、普段岩片がいたせいか、自分一人だけになると何をしていいのか分からなくなってしまう。……情けない話だけども。

こうなったら肉食うか、肉。スタミナつくようものガッツリ食って、それから久し振りに外へ行くか。
普段学園内でしか行動しなかったが、転校時に外出許可さえもらえば外へ行くことも出来ると宮藤は行っていた。
カラオケか、ゲーセンか、街へ出ればストレス解消の術も時間を潰す手段も山ほどある。
たまには息抜きでもするか、なんて思いながら、一先ず腹ごしらえと食堂へと向かおうとしたときだ。

自室の扉を開いた瞬間、「うおぅ!!」っと驚いた男の声が聞こえてくる。

なんだ?と思い扉から覗けば、そこには見覚えのある赤茶髪の男がいた。


「……政岡?」

「よ、よぉ……奇遇だな……」


奇遇もなにも、お前俺の部屋の前で何言ってんだ。
普段の制服とは違い、派手な柄のシャツにサルエルパンツを履いた政岡はどこかへ出掛けようとしていたのだろうか。


「……どうしたんだ?何か岩片に用か?」

「あんなチン毛クソ野郎はいいんだよ!……そ、そうじゃなくて……あの、お前に……」

「……俺?」

「あ、ああ……お前さ、今夜暇か?」


そう、前髪をいじりながら政岡はどことなく落ち着きのない様子で尋ねてくる。


「……別に予定はないけど、どうかしたか?」

「これから遊びに行かねえ?……この辺だったら俺、どこでも案内できる自信あるし」

「……俺と?お前が?」

「な、なんだよ……嫌なのかよ……?」


正直言えば、ゲームの手前、あまり自分にフリな状況で二人きりになるのはよくないだろう。
けれど、この間政岡に助けてもらったのも事実だ。……それに、俺自身丁度遊びたいところだった。
一人で遊ぶより、誰かがいてくれたほうが楽しいのは分かっている。その相手が政岡だとしても、嫌な感じはしない。そう思うようになった自分に驚いた。


「いんや、丁度俺も遊びたいところだったから驚いたんだよ。……俺全然わかんねーし、案内してくれよ。お前の好きなところ」

「……っ!い、いいのか?!」

「いいのかって……お前が誘ったんだろ?」

「っ、そ、そうか……ッ!ま、任せろ!!」


先程まで不安げだった政岡の表情にパァッと光が差す。
表情がコロコロと変わるやつだ。
岩片とは、違う。


「それじゃあ、あの、……行くか?今から……行けるならだけど……」

「ああ、そうだな。飯まだだから食堂で食おうかなって思ったんだけど、上手い飯屋ってこの辺あんの?」

「おう!山ほどあるぞ!ラーメン屋から三ツ星レストランまで全部網羅してっからな!」

「そうなのか。じゃあお前が一番好きな店に連れて行ってくれよ」

「……俺の好きなところでいいのか?……尾張、お前好きなものとかねえの?」

「別に、俺はなんでも食うしな基本。……あっ、肉が食べたいかも……」

「肉か!任せろ。一キロのステーキがドーン!って出るところ連れて行ってやるよ!」

「い、一キロ……」


想像しただけで腹が減ってきた。
涎が垂れそうになる口元を抑える俺を見て、政岡は安心したように笑った。「じゃあ、行こうぜ」と、いつもの調子に戻った政岡は歩き出す。

岩片に見つかったらまた何か言われるのだろうが、知ったこっちゃない。それに、ゲームに勝てば問題はないのだ。たまには息抜きくらいしても許されるだろう。
そう言い訳を並べてみるが、岩片の顔がチラついて消えないのは事実だ。俺はそれを振り払い、政岡とともに学生寮ロビーへと降りることにした。

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