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(尾張元視点)
というわけで、岩片奪還のために言われた通り四階ラウンジへ来たのはいいんだけれども。
元は生徒たちの憩いと交流の場としての役割として作られたであろうラウンジはいかにもな連中の巣窟と化していて。
「よー、ハジメちゃんー。マジで来たんだ?」
「すげー、マジやべー」
「俺生ハジメ初めて見たわ」
全く知らないやつしかも男に呼び捨てにされるとムカつくものがあるが、ここまでくると誰の類友なのかわかりやすいのでまあよしとする。
まあ、最初から想像はついてたが。
「なあ、VIPルームってどこにあんの?」
面倒なので一番近くにいた連中に聞いてみる。
こういう連中はノリでしか動かないのでフランクな感じのがウケがいいのだ。俺豆知識。
「てめえ二年のくせに誰にタメ使ってんだコラ!」
ブチ切れたチャラ男に胸ぐら掴まれる。
俺豆知識の役立たずめ。
「ちょっとちょっとちょっと〜、俺のハジメ君に何してくれてんのー?」
うわやべえ面倒くせえとか思った矢先だ。
背後から聞こえてくるその緊張感のない声に、一瞬にして周囲が静まり返る。
俺の胸倉を掴んでいたそいつは青くなり、「マドカさん」と慌てて俺から手を離す。
神楽が自ら出てきてくれたのはよかった。
よかったけれども。
「俺、いつお前のものになったんだよ」
「え〜?ハジメ君俺のこと嫌いなのー?」
「それとこれは関係ねえよ。……って、お前、なんかまた頭すげーことになってんな」
「黒飽きちゃったからさぁ〜、今度は色抜いてみたんだー」
「どーかなぁ?」なんて、自分の毛先を指で弄ぶ神楽の髪は白に近い金髪で。
色が白いのでよく馴染んでいるが、ここ最近金髪とも良い思い出がない俺は構えずにはいられなくて。
「なんか、ガイコクジンみてぇ」
「ん?そう?頭良さそう?」
もしかして神楽の中では英語できる=天才みたいな形式でも成り立ってんのだろうか。
嬉しそうに笑う神楽はいつもと変わらない。
そう、人に脅迫状を叩きつけておいて、だ。
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