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一人でいたら余計なことばっか考えてしまい埒があかないので、気を紛らわすためにも俺は五条の篭る空き部屋の扉を開いた。
「五条」
「はわわぁっ!」
「びっ、びっくりした……ノックぐらいしろよ!」あまりにも気持ち悪い驚き方をするので俺の方がびっくりしたわ。
「ああ、悪い……ってか、お前自分の立場わかってんのかよ」
ノックもなにもここ俺の自室であって五条のプライベートルームではない。
まるで自分の部屋かなにかのように寛いでいやがる五条はベルトを締め直しながら、乾いた笑いを漏らす。
「尾張がそれ言っちゃうわけ?」
「うぐ……」
くそ、五条のくせに痛いところ突きやがって。
確かに、先ほどのやり取りで一番大痛手を食らったのは俺だろう。つーか俺だ。俺しか居ない。
だけど、五条とはあくまでも同じ立ち位置でいなければならない。
だからといって舐められてしまえば食い物にされるだけだ。
なので、調子に乗っている五条に少しだけ強気で出て見ることにする。
「取り敢えず、約束を守ってもらうために一応これから監視させてもらうからな」
「俺を?24時間?!あんなところやこんなところまで隅々監視するわけ?!リアルタイム中継で?!?!」
いきり立つ五条に、うわこいつそういやこういうやつだったと今更ながら気付く俺だが五条の鼻息は止まらない。と言うかリアルタイム中継ってなんだ、ヤツの中でなにが起こってんだ。
「お……俺から逃げようとしてもぜってえ捕まえるからな、馬鹿なことは考えんなよ」
このままでは格好つかない。
掴みが肝心だ、とあまりにも手に負えないに五条に早速挫けそうになる自分を励ましつつ、そう脅してみるが怯えるどころか五条はおかしそうに笑う。
「はははは!馬鹿なのは尾張だろ!」
「あ?」
「こんな美味しい餌から俺が逃げるわけねえだろ」
真っ直ぐに見据えられ、真正面から視線がぶつかる。
口元は笑ってるのに、その目は笑ってなくて。
本気だ、と直感した。
そしてすぐに、俺は小さく口の中で舌打ちする。
「……っ」
やっぱり、こいつ苦手だ。
喋り方とか性格とかそんなんじゃなくて、本能的に警戒してしまう。
「ああ、でもわざと逃げ出して怒った尾張にボロ雑巾みたいに甚振られるのも気持ち良さそうだな……!」
黙り込む俺を他所に、一人盛り上がる五条はどこまでも楽しそうで。
「とにかく、妙な気だけは起こすなよ」と横目でやつに視線を向ければ、五条は戯けるように肩を竦めてみせた。
「わかったわかった、そんな熱い視線で見詰めんなよ。……勃ちそう」
ぼそりととんでもないこと呟く五条。
おいなんでお前微妙に腰引いてんだよ、冗談だよな、なあ。おい。五条。
…………。
見なかったことにしよう。
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