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「と、言うわけだ。どうだ?生徒会相手の主導権を握っていれば配下にいる殆ど全員の生徒を操ることが出来る。お前の大好きなBLだかBNだかなんだかが見たい放題ってわけだ!」
高らかにそう言い切る岩片に、目を見開いた五条は「うぐぅ!!」とか言いながら後退る。
そこダメージ受けるところなのかと突っ込みそうになったが、こいつの言動行動を一々気にしていたら埒が明かない。
ようやく岩片に開放された五十嵐に同情の眼差しを向けつつ、俺は二人のやり取りに耳を向ける。
「いや、まだだ……まだ騙されないぞ……!こんなに美味しい条件、どうせあれだろ?そんな事言って俺にあんな事やこんなこと、あまつさえそんなことまでするつもりなんだろ?!えっち!」
「ははは!お前とヤルくらいなら壁に穴あけでやったほうがマシだ!」
「それもそれで悔しい!でも感じちゃう!」
そこ感じるのか。
「お前に求める条件というのは情報の占領、デマの発信源だ。お前の信用と信頼を暴落させる変わり、俺はお前に無限大の夢と希望、そして萌えを提供してやる!」
これはひどいと言いたくなるような台詞を胡散臭さの塊である岩片が口にすると、なんという事だろうか。ろくでもない想像しかできなくて。
それでも俺が口を挟む暇もないくらい二人の取引はヒートアップしていく。
「で、でもさでもさ!もし尾張使って色々写真撮っちゃうとするじゃん?それの使用法の制限は……」
「ない」
「はぁ?!」
思わず声を上げてしまった。
五条の写真活用法と言えば、主に売買だったはずだ。
もし、自分の写真が自分の知らないところで出回ってると考えたら血の気が引いていく。
岩片のやつは、もしかして俺の人権を餌に五条を釣る気じゃないだろうな。
疑いたかった。
信じたいからこそ。
しかし、俺の希望は木っ端微塵に打ち壊される。
「数刷って売るのもネットでばら撒くのも好きにしろ。録音録画ハメ撮り大歓迎だ!言っただろう。こいつを好きにしていいと。その使用法に俺は一切口を出さないし手も出さない」
目が笑ってない。本気だ。こいつ、本気で俺を売る気だ。
今までこいつと行動してきて、嫌というほど岩片の外道っぷりを見せつけられてきていたが、それでもやはり自分だけは特別に思ってくれているはずだ。他の駒とは違う。なんて、甘い期待を持っていた。
しかしそれはただの自惚れだったようだ。
わかっていた。
わかっていたはずだ。
岩片にとって自分以外の人間は自分の人生を愉しませるためのエキストラに変わりないということを。
俺は自ら望んでヤツの駒になったことを。
「そ、その保証は?」
恐る恐る尋ねる五条に、岩片は
「……そうだな」と少しだけ考え込む。
そして、
「彩乃、包丁取ってきてくれ」
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