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▼岩片side
「まあ、せっかく来たんだからゆっくりしていけよ」
言いながらコーラを注いだグラスを五十嵐彩乃に差し出せば、不服そうにしながらも彩乃はそれを受け取った。
自室、ソファーにて。
ソファーに座り腰を寛がせる彩乃の隣に座ろうとしたら無言で避けられたので紳士的且つ物分かりのいい俺はおとなしく向かい側の席に腰を下ろす。
せっかく来たもなにも、まあ、俺が呼び出したんだけどな。
向かい側の彩乃にアイコンタクトを送れば、小さく顎を引いた彩乃は普段五条祭を軟禁するのに使ってる空き部屋に目を向ける。
彩乃には予め説明していた。
俺が連絡したらハジメを目的に部屋を訪れたフリをしろということと、ハジメを出汁に使うことを。
流石に俺が鼻血出してるのを見たときは驚いていたがなにもかも察したのだろう。
彩乃は深く追求してこない。
頭に被っていた黄髪のウィッグを外し、いつもの黒髪の鬘に付け替える。
やはり、視界は遮られたくらいが丁度いい。
赤のカラーコンタクトを外し、スペアの瓶底眼鏡をかけ直す。
その様子を彩乃は目を逸らさずに眺めていた。
「お前、どんだけそういうの持ってるんだ」
「ん?ああ、眼鏡?俺コスプレ好きだから結構揃えてるよ。彩乃も使うか?」
ソファーの下に隠していた女装用の長髪のウィッグを彩乃に差し出せば、「冗談じゃない」と彩乃は眉をしかめた。
うん、冗談じゃない。
わりとまじ。
「絶対似合うと思うんだけどなぁ。ギャグ的な意味で」
「喧嘩売ってるのか?」
「違う。口説いてんの」
彩乃の目が益々険しくなった。
冗談が通じないやつ。
会話が途切れ、室内に静寂が走る。
そのときだった。
ガタリと空き部屋の扉からなにかがぶつかるような音が聞こえてくる。
俺と彩乃は目を合わせた。
ハジメか、五条祭。どちらかになにかがあったのだろう。
ここまでは想定内。
俺たちは予め打ち合わせしていた通り作戦を実行する。
と、いってもまあこのまま様子を見るだけなんだけど。
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