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※嘔吐、寝取られ要素有り
続き物になってます。→【前編


こんなの、おかしい。
どうして、俺が、俺が縁に。


「ッ、や、め……ッ」


腕を動かし、必死に縁を退かそうとする。
が、腕を掴まれ、そのまま腕に押し付けられれば起き上がれない。バタつく身体の上、剥き出しになっていた下腹部に伸ばされた縁の指先が奥、肛門に触れる。
ぬるりとした感触に、息を飲んだ。


「恨むなら、亮太と伊織を恨めよ」


開いた腿を掴み、そのまま、ウエストを緩め、俺の手ごとジッパーを摘み、ゆっくりとファスナーを下ろす縁。下着が覗き、嫌に膨らんだそこから性器が溢れる。


「っ、やめ、……ッ」


はち切れんばかりに膨張したそこを直視することはできなかった。目を逸せば、手のひらを抑えられ、握らされる。熱い、焼けるような肉質な感触に全身が震え、ドッドッと脈打つ鼓動が大きくなった。
「嫌だ」と、払い除ければいい。分かっていたが、阿賀松の視線に気付き、言葉に出来なかった。

抵抗すれば、志摩がどんな目に遭うかわからない。
躊躇っている内に、拡げられた肛門に性器の先端を充てがわれる。滲む先走りを塗り込むためか、わざと焦らしてるのか、中々入らないもどかしさに、堪らず縁を睨んだとき。

ズッ、と、体重を掛けられる。
瞬間、肛門を押し拡げ、みちみちと奥へと入ってくるそれに全身が強張る。声を上げる暇もなかった。
志摩の舌に解され、濡れそぼった肛門は縁を拒むことが出来ず、ゆるゆると腰を動かし、奥へと入ってくる質量に何も考えられなくなる。


「っ、あ、ぅ、ぁ゛、やっ、め」


「さい、とう……ッ!」

「チッ、おい、暴れんじゃねえ……ッ!」
 

聞こえてきた志摩の声に、血の気が引く。こんな姿を、見せたくなかった。
けれど、抵抗したら、志摩が。


「齋藤君、余計なこと考えてない?」


瞬間、大きく足を持ち上げられる。二本の足を担ぐように肩に乗せた縁は、俺の脹脛に唇を寄せ、厭らしく笑った。


「俺としてるときに他の男のことを考えるなんて、まだ全然余裕そうだね」


「なら、手加減しなくてもいいのかな」と、笑い、縁は俺の腰を掴んだ。次の瞬間、下腹部に縁の体重が掛けられる。同時に、脳天まで貫くような衝撃が走り、堪らず、仰け反る。
苦しいとか、そんなものではなかった。焼けるように熱くなる腹の奥、膨張した性器は最早凶器でしかなかった。
ゆっくりと抜けない程度に腰を引いたと思えば、一気に根本まで深く挿入される。それを繰り返し、執拗に肛門の奥、内壁を摩擦されれば焼けるような熱は痺れになり、頭の中が酷く朦朧する。ピストンの激しさに呼吸のタイミングが分からなくなり、犬のように浅く息を吐き出すことしか出来ない。


「っ、ぁ゛ッ、あ、抜いっ、い゛、ひぐ……ッ!」

「……はぁ……っ、やっばい、最高だよやっぱ俺と君の相性……ッ、すごい、チンポ食い千切られそ……っ」

「っ、ぎ、ィ、あッ、ぐッ!!」


痛みを痛みと感じることもできなかった。
裂ける痛みはなかったが、ひたすら暴力的な挿入に汗が止まらない。息が苦しくて、腹が焼けるように熱い。焼きゴテを肛門に押し当てられるような、そんな痛みと圧迫感に、ただでさえ貧弱な身体は悲鳴を上げる。
逃げ腰になる俺の背中に手を回した縁は、そのまま、腰を抱き寄せるように上半身を密着させてくる。
拍子に、ぐっと、腹の奥を突かれ、一瞬意識が飛びそうになった。


「齋藤君、だめだよ、逃げないでっ?ね……ほら、ごめんって、いっぱい優しくしてあげるからさぁ……っ!」


頬を触れ合わせ、ちゅ、と優しく唇を重ねられる。閉じることも出来ず、開っぱなしになっていたそこからは唾液が溢れていたらしい。それを啜られ、我に返る。


「っ、やめろ、やめろってば!抜けって!おい……っ!」


志摩の、声が聞こえる。
腹から響く濡れた音に混ざり、聞こえてくるその声に、胸が張り裂けそうな程痛んだ。

志摩じゃない。
俺は、なんでこんなことをしてるのだろうか。


「っ、は、ぁ、ひ……っぁ……やだ……嫌だぁ……ッ」

「嘘だ、齋藤君の中すごい絡みついてくるよ……俺のこと離さないって言うみたいにさ……っ分かるだろ?君だって、こんなに我慢汁垂らして本当はすごい感じちゃって」


「亮太の前で犯されて喜んでんだろ」そう、俺にだけ聞こえる声量で囁きかけてくる縁。
違う、そんなわけない。こんなにも許せないのに、興奮なんて。そう思うのに、縁の差す指先を見れば、確かに再び勃起し始めた性器、その先端は白濁の混じった液体が滲んでいた。
そんな、わけない。
言い張りたいのに、自分の身体が自分のものではないみたいで、血の気が引く。


「っ、ち、違っ、ぁ、ちがう、そんな……ちがうっ、嘘だ、嫌……違……ぁ……ッ!」


呂律が回らない。何度も突かれ、その度に何を言ってるのか自分でも分からなくなる。
縁の腰の動きに合わせ、揺れる性器を眺めながら、ただ、否定する。なんとも滑稽なことだろうか。
志摩がどんな顔をしてるのか、確認することが怖かった。
見たくなかった。見られたくなかった。
生理的なものだとしても、他の男に、身体を弄られて勃起しているなんて姿。


「っ、やめ、ろ……やめろってば、やめろっ、やめてくれ……っ」


聞こえてきたその声に涙が滲んでいるのが分かった。
ああ、嫌だ。泣かせたくないのに。傷付けたくないのに。
今すぐ傍に言って、手を握ってやらないと。そう思うのに、俺の手を握る骨ばったその手のひらは志摩のものではない。頬を優しく撫でるその唇は、志摩のものではない。


「っ、ぁ、あッ、ぅ、ひ、ぃ」


揺れる腰を掴まれ、執拗に、体内を犯し尽くされる。志摩の痕跡を消すようなその動きはただ腹立たしくて、恋人を愛でるかのような優しい手付きはただ屈辱でしかなかった。


「続けろ、方人。しっかり中に出してやれよ、ユウキ君は中出しが大好きだからなぁ」

「っ、言われなくても……ッん、ほら、齋藤君、だめだよ逃げちゃ……ッ」


脇腹を撫でるように、下半身を抑えつけられる。
繋がった箇所に振動が走り、その刺激に堪らず息を漏らした。
中、根本奥深くまで収まった縁の性器が硬度を増すのが分かった。射精が近いのだろう。
それが分かったからこそ、早く抜いてほしかったのに縁はそれどころか俺の後頭部に手を伸ばした。


「ッ、ほら、こっち……っ」


おいで、と言うかのように頭を軽く抑え、自分へと抱き寄せた縁。すぐ目の前にその整った顔が近づき、嫌だ、と思ったときには唇を再度重ねられた。
今度は、先程の可愛らしいキスとは違うものだった。
唇の甘皮をしゃぶり尽くすような、執拗なその唇への愛撫に軽い酸欠状態に陥ったのだろう。頭の中がぼんやりしてきたときだ。


「んっ、んん゛ッ」


ドクン、と大きく腹の中で縁のものが脈打った瞬間。
最奥へと吐き出される大量の精液の感触に全身が緊張した。


「っ、んんぅ、ぐぅッ!ぅんんッ!!」


掌を重ね合わせ、指をぎゅっと絡められる。うっとりと目を細め、息を吐いた縁はそのまま片方の手で俺を抱き締めた。


「っ、ん、っ、はぁ……いっぱい出ちゃった……ッ」

「っぁ、あ……や……嫌だ……ッ」


早く、掻き出さないと。そう思うのに、縁に止められ、儘ならない。それどころか、抜こうとしない縁に蓋をされ、腹の中に溜まった異物感に具合が悪くなる。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。縁のが体の中にあると思うだけで吐き気が止まらないのに、こうしてる間に縁の体液が俺の体の中に染み込んでしまっていると考えただけで、目の前が真っ暗になった。


「あはっ、泣いてるの?そんなに中出し気持ちよかった?……あぁもう、可愛い、可愛いなぁ、本当君って俺のタイプなんだよ……っ、そんな顔されたらさぁ……」


「また勃起しちゃうだろ」と、縁が口にした瞬間、体内、射精して萎えていたはずのそこが再度勃起を始める。
「え」と目を見開く俺に、縁はにっこりと笑った。

そして。二回目。


「っ、うそ、なんで、嫌だ……っ、抜い……っ、志摩、助けてっ、志摩ッ!」


ぐちゅぐちゅと音を立て、中に溜まった精液を内壁に塗り込むようにねっとりと腰を動かす縁に声を上げずにはいられなかった。
出し入れされる度に中の精液は溢れ、腿を濡らす。それも変わらずに執拗に腰を進める縁は、自分の性器を刺激して快感を求めることよりも、人が嫌がるのを見て愉しんでる節があった。


「……っ、齋藤……ッ!!」


志摩の声が聞こえてきた次の瞬間。
ドスリと、床に振動が走る。
その音に、振動に、眼球を動かして志摩の方を見た俺は自分の目を疑った。


「おおっと、動くなよ。手元が狂ったらうっかり頸動脈ぶち破ってしまいそうだからなぁ……」


そう床の上に押し付けた志摩の顔のすぐそば、真っ直ぐに床に突き立てられた銀色の刃に、血の気が引く。
ナイフ。ナイフだ。
自分のネクタイを外し、志摩の両腕を後ろ手に縛り上げる阿賀松は、うんざりしたように吐き捨てる。


「それにしても、物騒なもの持ち歩いてんなよ。怪我したら大変だろ」


ということは、志摩の私物ということか。
分からなかったが、動けばすぐ首に当たる位置にあるそれに、見てるこちらのが生きた心地がしなかった。


「っ、悪いなぁ、俺、力加減分かんねえから痛くても我慢しろよ」

「っ、し、ま」

「ダメだって齋藤君……亮太の方ばっか見んなよ、妬けちゃうなぁ……ッ」


すぐに顎を掴まれ、縁の方を向かされる。
何度めかのキスをされながら、中を掻き混ぜられ、大音量で響くそれに頭がどうかなりそうだった。
粘着質なその音に、身体の内側から犯すその感触に。
次第に痛覚が麻痺し、もどかしい感触すら覚え始める自分自身に嫌気が差す。

 
「っ、う゛っ、あ、ぁ……っ、ぁ……っ」


縁の熱に充てられたのか、その熱が身体に馴染み始めてる。
痛みと苦しさしかなかったはずなのに、無理矢理縁の型に嵌められてるような、自分の身体が自分のものではなくなっていくような感覚がただ怖くて、半ばヤケクソに、俺は縁の服にしがみつく。
引き剥がすこと、押し返すことも、出来なかった。


「嫌……ッだ、抜……っ、志摩ぁっ、志摩っ、志摩……ッ」


「亮太、助けてくれって言ってんぞ、ユウキ君が。いいのかぁ?あのままにしてて。……って、ああ、そうか、お前動けねえのか」

「……ッ、殺す……ッ!」

「聞こえねえなぁ」


「方人」と縁を呼ぶ阿賀松。自分の首元をトントンと叩けば、縁はそのまま自分のネクタイを引き抜き、阿賀松に投げて渡す。
それを受け取り、阿賀松は志摩の足首を掴んだ。


「離せ、離せって、おい!」


身を捩り、阿賀松の下から退こうとしていた志摩の背中を踏み付け、阿賀松はその両足首を強引に束ね、縁のネクタイで縛った。
床の上、転がされる志摩を蹴り上げた阿賀松は、えずく志摩を無視して、こちらへと向かってくる。
「やめろ」と声を上げる志摩。それとほぼ同時に、仰向けになった視界の中、頭上から覗き込んでくる阿賀松に、血の気が引く。


「ユウキ君、口空いてんならしゃぶれよ」


阿賀松が何を言ってるのか分からなかった。
頬を掴まれ、開っぱなしになっていた口の中に、阿賀松の指が入ってきて無理矢理開かされる。
引っ込めていた舌を掴まれ、引き摺り出されれば、目の前視界には阿賀松の性器がいっぱいに写り込む。


「ァっ、ひ、あ、へ」


顎を掴まれ、視界が揺れる。鼻、唇と、顔に擦り付けられる性器に、その熱に、独特の匂いに、ただでさえ頭に血が昇りそうになっていた頭は麻痺し始める。
引き摺り出された舌に先端、亀頭を擦り付けられれば、嫌な汗が滲む。こんな体勢、無理だ。冗談だろう、と死にものぐるいで阿賀松のものから顔を逸らそうとするが、下半身と頭を掴まれて逃げられるわけがなかった。


「何やってんだお前、寝惚けてんのか」

「んぶっ、ぅ、ふぐッ!!」


問答無用、とはまさにこのことだろう。
俺の抵抗も虚しく、歯の隙間をこじ開け、一気に喉奥まで挿入してくる阿賀松。
口いっぱいに広がる阿賀松の味、とか感じる余裕もなかった。
頭を掴まれ、開かされた喉の奥まで突かれれば、顎が、外れそうになる。息が出来ない。苦しくて、縁の服をぎゅっと掴めば、こちらを見ていた縁は顔を引き攣らせた。


「っうわ、えげつねー……っ、」

「知らねえのかよ、こいつはこういうのが堪らなく好きなんだよ。……なっ!」

「っ、おぶッ、ぐッぅ゛ふ、ぐッえ……!!」


言いながら、浅く息を吐く阿賀松は腰を動かす。その度に口蓋垂が擦れて、その刺激に器官は縮小する。それが、締め付けられて気持ちいいのだろう。
頬を緩め、笑う阿賀松は唾液が逆流して口から溢れ出す俺を見て、更に目を細めた。
縁はやれやれと言った感じで、それでもやめてくれるわけではなく二人に同時に別の部位を性処理に遣われ、平気でいられるわけではなかった。


「う゛ぅぶ、ぐ、ぉぐッ!!」

「はぁ……ッ、おー締まる締まる……ヒデェ顔だなぁ、ユウキ君……ッもっと嬉しそうに頬張れよ」

「ッ、やめろ、やめろ、そんなことしたら、齋藤の、喉が」

「良いだろ?どうせこういうことにしか使えねえんだからよ……!」


頭と下半身、別々の衝撃に身体が壊れそうになる。いっそ切り離された方がましだったかもしれない。
口を閉じることすら許されない。上顎、頬の裏、喉の奥、いたる所に阿賀松のものが擦れ、その感触に目を見開く。


「んぐっ、ん、ごぶッ」


無理な体勢と圧迫感に耐えられず、込み上げてきた胃液が喉奥から溢れ出す。阿賀松の性器を汚し、唇から自分の顔へと掛かるそれに阿賀松は不愉快そうに顔を歪めた。


「あーあ、吐くなよ、汚えなぁ……おいちゃんと舐めて綺麗にしろよ」

「っ、や゛、だ、嫌……ッ」


食事をしてなくてよかった。胃酸が混ざったその苦味に耐えられず、また吐きそうになったとき。阿賀松に頬を張られた。それは子供を叱りつけるようなものだったが、痛みは別だ。張られた頬はジンジンと焼けるように痛んだ。
呆然とする俺に阿賀松は俺の下半身、いつの間にかに萎えきっていたその性器に指をさした。


「今度はここをぶん殴る。……もう一度言うぞ、『舐めて綺麗にしろ』」


お前に拒否権はない。そう言うかのような冷ややかな阿賀松の目に、俺は、言葉を飲んだ。


「……ッ、ん、は……ぅ……ッ 」


涙が滲む。
何故自分の吐瀉物塗れのそれを自分が舐めなければならないのか。惨めで堪らないが、それでも、逆らうことも出来なかった。
挿入に合わせて腰が揺れる。それでも、阿賀松のものから唇が離れてしまわないよう必死にしがみつきながら、俺は、根本から先端へと、舌を這わせた。


「怖かったねぇ、齋藤君、可哀想に。こんなに縮み込んじゃってさぁ、怖かったよね。でも伊織の言うことは聞いとかないと、後で怖い目に遭うからねぇ」

「お前が言うなよ。……っ、おい、舌、止なんな。全部ちゃんと舐めろよ、裏も」

「っ、ん、ぅ……ッ」


口の中が、痛い。舌を動かす度にぴりっとした痛みが走る。
阿賀松に口の中を抉じ開けられたときに、どこか傷ついたのかもしれない。
それとも、叩かれたときだろうか。分からなかったが、志摩の痛みに比べれば、と思うと、まだ正気でいられた。
……志摩。志摩。
志摩は、こんな俺を見てどう思うのだろうか。考えたくなかったが、失望されても言い訳は出来ない。


「上手だ。やればできんじゃねえか。そうだよ……っ、もっと、根本まで舐めろよ。……本当、小せえ舌」

「っ、あぁ……齋藤君、俺、またイキそう、ね、いい?もっかい中に出すよ……っ、まあ、いいよね」


言葉を理解するよりも先に、縁に腰を軽く抱き上げられ、ハッとする。身体の中に残った精液の感覚が、先程の中出しの感触を思い出させる。
嫌だ。
そう言いたいのに、阿賀松のものを頬ばっている今、歯を立てることも出来ず、俺は手を振って止めようとする。


「んーっ、んっ、ぅうッ!」

「何、奥に出してって?……っ、了解、しっかり飲み干してね……ッ」


全然違う。そもそも最初から中に出す以外のやる気がないのではないだろうかと疑いたくなるレベルだ。
俺の腿を掴み、ぐっと奥まで挿入した縁はそのまま、動きを止める。瞬間、先程同様腹部を焼くような粘着質な熱が腹の奥に放出される。


「ッ、んんぅ゛ッ!!」


せっかく薄らいでいたのに、腹の中で蠢くようなその嫌な感覚に全身から汗が滲む。
拍子に力んでしまい、阿賀松のものを刺激してしまったようだ。
顔を歪めた阿賀松は、苛ついたように舌打ちをした。


「……チッ、おい、歯ぁ立てんなって言っただろ……ッ」

「っ、ぅ、ぐ、ぅひ」


俺の鼻を摘み上げた阿賀松は、開いた口からそのまま喉奥へと勃起したそれをねじ込んだ。先程、いや、それ以上に膨張した性器に口いっぱいを押し拡げられ、呻く俺に阿賀松は浅く息を吐いた。


「……ッ、一滴でも溢したらお仕置きだ」


そう、熱っぽい溜息を吐いた阿賀松は、俺の顎をぎりぎりと掴む。瞬間だった。開かされた喉の奥。ドクンと性器が脈打ち、微かに痙攣したと同時に喉の奥へと射精した。


「ぉぐッ、ぐぶ、ぅぐッ!」


口蓋垂に絡まり、器官にへばりつきながらも流れていく精液に堪らず噎せそうになる。苦しい。呼吸しようとすれば粘着質な精液が邪魔をして、ごぼ、と変な音が口いっぱいに響く。
熱い、熱くて、爛れてしまいそうだ。独特の匂いに頭がクラクラして、生理的な涙が滲む。
出来ることなら今すぐ吐き出して、口の中を濯ぎたかった。
でも、溢したりでもしたら。


「……ッ!!」


呼吸を止め、粘着く精液を無理矢理唾液と絡め、喉の奥へと流し込む。吐きそう。吐きたい。そんな気持ちを押し殺して、俺は、無心で阿賀松のものを自分の体の奥へと落とし込んだ。腹の中に阿賀松と縁のものが溜まっていく、それだけでも耐え難いが、耐えられなければ。
元はと言えば、俺が阿賀松の挑発に乗ったからだ。志摩のためだと思えば、乗り切れる。
そう、思ったけど。


「ッ、ごぼッ、ぐっ、ぅえ゛ぇ!」


「おおっ、偉いねぇ齋藤君、つかよく飲めたね、あんなの。あんな飲まされ方したら他の子は皆即効で吐くのに」

「逆流しねえよう喉締めさせたからなぁ……良い子だ、頭撫でてやろうか」


「ゴボッ!う゛ッ、ぉえ……ッ!……っ、はぁ……はぁ……ッ!」


口の中が空になったのを確認し、思いっきり空気を吸い、吐き出す。水、水があればもっと良かったのに。
けれど、こうして深呼吸をするだけで阿賀松のものが奥へ奥へと俺の体の中を冒していくのだと考えると、気が気でなかった。
感触を消すため、喉を掻き毟る気力すらなかった。
引き抜かれた二本の性器に、ようやく終わったのかと思うと全身から力が抜け、俺はそのまま床の上、倒れる。
顎、腰を主に、上手く力が入らない。
霞む視界の中、青褪めた志摩と目が合った。


「っ、齋藤……ッ」


志摩は、まだ、俺のことを心配してくれるというのか。
それがただ嬉しくて、同時に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
志摩、と答えようと思うが、口が動かない。口だけではない、一度力が抜けた四肢は筋肉の使い方すら忘れる程自分の身体ではないみたいに動かなくて。


「心配すんな、生きてるからよ」


そう、阿賀松は床の上で鉛と化していた俺の身体を抱き寄せた。そして、そのまま下腹部へと伸ばされた阿賀松の太い指は、先程まで縁のものを挿入された肛門に触れた。


「ちゃんと、お前のも挿れることができるぞ。良かったな」

不自然に開いたそこからどろりと溢れる白濁にも構わず、阿賀松は大きく広げた。
その言葉に、仕草に、俺は、鈍器で頭を殴られたような衝撃を受ける。


「っ、や、め」

「……ッ、ふざけるな、この外道……ッ!」

「そう言うなよ亮太。せっかく俺が温めてやってんだからさぁ」


そう、ベルトを締め直した縁は笑いながら、阿賀松の広げるそこに指を捩じ込んでくる。
遠慮なく挿入される二本の指にぐちゅぐちゅと中を掻き混ぜられ、執拗な挿入で腫れ上がったそこを引っ掻かれればもう動かないと思っていた身体が、大きく痙攣した。


「っ、あ、ぁ……ッ、や、め……っ!」

「ほら、齋藤君のアナルも亮太に挿れてほしいよーってこんなにヒクヒクしてんじゃん。可哀想だろ、無下にしたら」

「ぁ、あッ、や、ひ……ぅ……ッ」


円を描くように内側を指の腹で優しく撫でられ、こそばゆさに身体が震える。見られたくないのに、志摩の目が、縁に掻き混ぜられるそこに向けられてるのを見て、余計居た堪れなくなる。
見ないで、という言葉も出ない。息を吐くことしか出来なくて、阿賀松と縁の腕を掴むが、引き離せない。


「っ、可愛いなぁ齋藤君……亮太がやんねぇなら、俺、まだヤりたいんだけど」

「お前、またかよ。本当猿並みだな」

「お前に言われたくねーって」


そう、言いながら、縁が締め直した自分のベルトを再び緩めようとしたときだった。


「ッ、触るな……」


「……」

「……」


「それ以上、齋藤に、触るなって言ってるんだよ……ッ」


志摩。
その言葉に、胸の奥がじんわりと暖かくなる。

しかし、顔を見合わせて厭らしく笑う阿賀松と縁を見て、ハッとする。
ああ、そうだ、それは、これは、志摩のプライドを酷く貶めるための挑発か。
ダメだ、乗ってはいけない。
これ以上、志摩を傷付けてはいけない。俺の知ってる志摩はいつだって自信に満ち溢れていて、それでいて、堂々としていて……。
そんな志摩を、俺自身で汚したくない。

なのに。
笑う阿賀松に拘束を解いて貰った志摩は、俺の傍に這って、やってくる。


「っ、し……ま……っ」

「大丈夫だよ……、齋藤、少しの間だけ……我慢して」

「違……そ、じゃなくて……っ」


痛いのに、怪我してるのに、これ以上無理な動きは、やめてほしかった。
駄目だよ、と言い掛けて、唇を重ねられる。精液と吐瀉物で汚れてるにも関わらず、躊躇いなく俺の口の中に舌を入れる志摩に、いつも以上に身体が強張った。
汚いから、志摩まで汚れてしまう。そう思い、慌てて離れようとすれば、肩を掴まれ、再びキスをされた。
感触を上書きして掻き消すかのようなその優しいキスに、自然と涙が溢れてきて、俺は、それを拭うこともできなかった。


「大丈夫、大丈夫だから、泣かないで」


齋藤、と涙を舐め取られ、頬から耳朶へと唇を這わされた。

どれだけ齋藤が汚れていようが、俺は、齋藤から離れるつもりはないよ。
そう、二人には聞こえないくらいの声量で、志摩は口にした。
だから、大丈夫と。笑う。
嫌われるのではないか、嫌がられるのではないか。そんな些細な心配をしていた自分が恥ずかしくなる。俺だって、志摩がいくら手を汚したところで嫌いになるわけがなかった。志摩も同じだと分かって、それが嬉しくて、悲しくて、そんなことを言わせてしまった自分が歯がゆくて、俺は、志摩に抱き付いた。

志摩の袖の下、隠し持っていたナイフを一瞥し、俺はそれに気付かないフリをしながら、志摩に唇を寄せる。

一人では難しいことも、二人なら、乗り越えられる。
無謀だと思うが、志摩といるとそんな気にすらなるのだ。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「アイタタタ……」

「だ……大丈夫?やっぱり、まだ無理して動かない方がいいんじゃない?」

「そんなこと言われたって、もう何日目だよ。いい加減この景色も見飽きたんだって……」

「……まあ、そうだけど……」


白い天井に白い壁。
カーテンで仕切られた一室、そこに置かれたベッドの上、志摩は不満そうに寝返りを打った。
あのときは普通に動いていたが、やはり、縁から負わされた怪我は中々酷いものだったようだ。
寧ろ、ああやって動いていた方がすごいと医者が唸っていたらしい。
お陰でその反動でこの有様だが、傷だらけの肉体とは対象的に気分はすっかり良くなってるらしい。毎日見舞いに来てみれば、「早く退院したい」と文句ばかり言ってくるのだ。


「とにかく、今は安静にしとかないとって先生にも言われただろ」

「そんなこと言っちゃってさ、入院費稼ぎたいだけだって」

「し、志摩……!そう言う言い方良くないよ!」

「大丈夫、隣のやつはいつもヘッドフォンでテレビ見てるから聞いてないって」

「そういう問題じゃ……」


ないだろ、と言い掛けたときだった。
シャッと音を立て、いきなりカーテンが開かれる。
まさか、聞いていた看護師に注意されるのだろうかと怯えたが、そこには看護師よりも恐ろしいものがいた。


「なーんだ、まだ生きてたのか。しぶといなぁ」

「あ、阿賀松……ッ!……先輩……」

「ちょっと、ちょっと。俺もいるってば、酷いなぁ齋藤君」

「縁先輩……っ!!」


ズカズカと入ってくる阿賀松と縁。
というか縁も入院してベッドに括り付けられてなかったか?と思ったが普通に歩いてる姿を見て察した。


「ほら、見舞いだ。……高級メロンだぞ。あ、包丁ねーから自分で剥いて食えよ」

「要りませんから。持って帰ってください」

「あぁ?可愛くねえなぁ。食えよ。食わなかったらユウキ君のケツに突っ込むぞ」

「え……っ?!」


なんかサラッと恐ろしいことが聞こえたのだけれど。
不満そうな志摩に「後で俺、ナイフ借りてくるから」と言えば一先ずは納得してくれたみたいだけど……なんなんだこの二人は。せっかく志摩が落ち着いてるというときに限って神経逆なでするような真似をしてくるのだから頭が痛くなる。

あの日、隙を見て阿賀松を刺そうとした志摩だったが縁に返り討ちに遭い、それは敵わなかった。
しかし縁もそれなりに深手の傷を負って志摩と同じ病院に入院していたはずだった。
結論から言えば、俺と志摩は阿賀松達公認の関係になり、阿賀松が血だらけの志摩と縁に青褪めた俺に「ま、そこまで出来るんならいいんじゃね?良かったな、お前みたいなクソ童貞に恋人が出来て」とあっけらかんとして言い放ったときは正直、頭をぶん殴られた衝撃が酷かった。
試したのか、というか、遊んでいただけではないのか。
阿賀松という人を理解しようとするだけ無駄だと分かっていたが、それでも、なんのために死を覚悟をしていたのかと馬鹿馬鹿しくなってくるわけで。


「それにしても、入院してからまともにヤッてねぇんだろ、どうせ。……溜まってんじゃねえの?ユウキ君」


隣にやってくる阿賀松に股の隙間に指を捩じ込まれたかと思えば衣類越しにすりすりと撫でられ、目の前が真っ暗になる。撤回する、俺達の関係は何一つ変わっちゃいない。


「や、やめて下さ……っ」

「齋藤に触るなよこのオッサン!」


と、言った傍から阿賀松から貰ったメロンを阿賀松目掛けて投げる志摩!それは駄目だろ、と青褪めたが本調子ではない志摩のコントロールは壊滅的で、飛んでいったメロンは縁の顔面にめり込んでいた。


「っ、テメェ……やっぱ一から躾直さねえといけねえみたいだな……ッ!!」


やばい、先程まで穏やかな微笑みを浮かべていた縁の顔面が般若みたいなことになっている。
「せ、先輩、落ち着いてください」と慌てて宥めようとその腕にしがみつけば、縁はうぐぐと顔を顰めた。


「だって、だって亮太が俺の顔にメロン投げてきたんだよ?酷くない?!」

「あ……そ、そうですね。志摩も、人にものを投げたらダメだって……っ、ぁ、えと、あの、阿賀松、先輩……」

「ほら、続けろよ。亮太にはよく言い聞かせなきゃいけねえからなぁ、ユウキ君が誰の犬だって」

「…………」

「ええと、その……だから、っぁ、とにかく今は安静にして……これは、志摩のためだから……っ」

「そうそう、お前のためだって。皆心配してたぞ、お前のあのクソ生意気な顔見れなくて清々するーって。……あ、齋藤君、亮太に殴られたところすげー痛くなってきたらから舐めて?」

「っ、ちょ、何言って……ん、んんッ」

「……………」


キスをされそうになり、顔を逸らせばそのまま頬を舐められる。というか、ホント、なんだこれ。前より悪化してる。というか二人共志摩の反応を愉しんでるのが分かりやすすぎてまじでこれ後に響くと面倒だからやめてほしい。と、ふいに志摩の顔が目に入り、ハッとする。
無だ。完全なる無表情になった志摩は、死んだ目のままナースコールを連打した。

それから、阿賀松と縁が看護師たちに説教受けながら無理矢理病室から閉め出されたことは言うまでもないし、とばっちりで俺まで病院出禁になったことはまた別の話である。


END
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