先輩後輩









学校帰りの放課後。



今日は部活がお休みの日。





謙也と財前は、二人でふらふら商店街を歩いていた。



なんだか商店街通りの屋台から、美味しそうな匂いが漂ってきた。
小さくお腹が鳴る。










「謙也くん謙也くん」


「あぁ?」


「たこ焼き食べたい」


「…食えばええやん」


「奢ってくれへんのですか」


「誰が奢るか、アホ」











謙也は前を向いたまま答える。



だけど財前は謙也の目の前まで行き、真っ直ぐな目で繰り返した。









「奢ってくれへんのですか」


「……………」


「奢ってくれへんのでーすーかー」


「しつこいわ!俺は奢らへん!」


「…ちっ…先輩のくせに…」










小声で、聞こえるか聞こえないかってくらいの小声で財前が言う。
もちろん謙也にはしっかり聞こえてて、その言葉がどうしても悔しくなってついに折れてしまった。





「奢ったるわ!」という叫びと共に。




















「…どないしてくれんねん…」


「何がッスか」


「見てみぃ!俺の財布空っぽや!」










さっきの商店街から少し外れた住宅街を歩きながら、謙也がいきなり叫ぶ。



横を歩いていた財前はたこ焼きを一つ頬張り、謙也の財布を覗き込んで一言。










「あれまー、ドンマイ」










なんとも感情の込もっていない一言だ。










「ドンマイやあらへんわ!誰の所為や思うとるん!?ほらっ、言うてみぃ!」


「…誰やろ、総理とか?」


「お前や!お・ま・え!総理ちゃうっちゅーの!」


「あー、俺か、堪忍堪忍」


「なんっやねん!その態度!俺先輩やぞ!んでお前は後輩!分かっとるんか!」


「……………」










謙也のそんな言葉にあからさまに、それもわざとらしく驚いたように目を見開く財前。


変な演技力はあるみたい。










「ちょ!自分ほんまムカつくなぁ!なんやねん、そのわざとらしい顔!」


「そんなん言われてもしゃーないッスわ、生まれつきこの顔なんで」










いたずらっ子のようにニヤリと笑う財前は、最後のたこ焼きを口に放り込んだ。










「あぁ〜あ!感謝くらいしろやっちゅーの!」










いまだにあーだこーだ言う謙也。

そんな謙也の後ろをついて歩く財前は少し黙ってから呟いた。










「………ありがと」










それは本当に小さな声だったけど、謙也にはちゃんと聞こえていたみたいで。










「…先輩には敬語やろ…アホ」










なんて、やっぱり改めて『ありがとう』って言われると照れ臭いのかな。



振り向かずに前を見つめたままポツリと一言。










「…たこ焼きあざーす」










そんな謙也が少しおかしくて、財前は半笑いで言ったとかないとか。





夕焼け空が広がる帰り道での出来事。








―END―



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