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彼女はフランツィスカというらしい。
綺麗な名前だと伝えると少し困ったような顔で笑ってみんなフランツって呼ぶからあんまり好きじゃないの、と言ってた。

彼女は兵団の中でもそこそこ地位のある人で私を監視、観察、推測その他もろもろした上で報告をまとめて上の人に伝えなくてはいけないらしい。
例えば彼女が私を生かすに値しないと判断してそれを細かく記した報告書を提出すれば私は生かす価値のない人間として殺されたりする、だろう。
ちょっと飛躍しすぎたかも知れないがそういう人であることは間違っていないだろう。

彼女自身を見れば以前も思ったが良い人だと思う。
優しくて、綺麗で可愛らしい、聡明で、ああ、羨ましい、という思考になってしまう。
人を羨んだってどうしようもないけれど、彼女のような人がリヴァイさんの傍にいると思うともにゃもにゃする。

今日はいくつか形式ばった質疑応答の後、気分転換にと本部の中をうろうろ歩き回った。
色んな人と挨拶をした。主に声をかけられたのは彼女だけれど、そのついでに。
多くの人は好意的で優しげな雰囲気だったが、好奇の目は嫌疑の視線にもあてられる。
仕方ないと思いつつも不愉快であることには変わりない。

人を、羨んだって仕方ない。
頭の中で何度も繰り返した。
日が暮れてそろそろ部屋に戻ろうとなった矢先。
数人の人たちと知り合った。挨拶をして自己紹介をする。
悪い人たちではなかったけれど、その中のペトラさんが気になった。
フランツィスカさんとまた違うタイプだったけれど優しげで愛らしく気立ての良い人だった。
実力もあるみたいで良い子だとフランツィスカさんが笑ってた。
帰路につきながら羨望という感情がぐにゃぐにゃ形を変えて嫉妬になるのを自覚する。
いいな、羨ましい。私が彼女だったら。彼女みたいに可愛かったら。綺麗だったら。強かったら。
きっとこんな風に迷ったり悩んだりせずにすんだのに。
好きな人に好きだというくらい何でもなかったはずなのに。
いいな、羨ましい。

「私、早く大人になりたいです」
そういう私に隣を歩くフランツィスカさんが笑みを浮かべながら私はリアちゃんくらいの頃に戻りたいと言ってた。
そういう話ではないのに、と思いながら頭を捻ってると部屋についた。
入る手前で彼女が手を振って別れの挨拶を口にして帰っていった。

扉に手をかけながらもにゃもにゃとした気持ちが復活するのを感じる。
一人で部屋にいるの嫌だなとか何とか考えていたが既に中にはリヴァイさんがいた。
今日は早いんだとちょっと嬉しくなったがついさっきの事を思い出してはずしりと胸が重くなる。
それなのにおかえりと彼が言うから、言ってくるから、嬉しくて仕方なくなってしまう。


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