1月2日


いい初夢を見ようと七福神の宝船の絵が描かれた紙を枕の下に入れて寝た。
結果、見れたのはなんだかよくわからないがゴリラに追い回されて泣きじゃくる夢だった。
寝起きでどっと嫌な汗が噴き出て随分疲れた気がした。
隣ですやすやと気持ちよさそうに眠る紅炎が妙に苛立って仕方ないから宝船の紙を丸めて寝巻の隙間に入れておいた。
本当なら宝船の絵を川に流すらしいけれどゴミを捨ててるみたいになるから止めておこう。

紅炎が起きると初夢の話題になった。
ゴリラ云々を素直に伝える義理はない!と思い縁起の良い夢を見たと伝えた。
すると彼は顔をしかめて言う。
なんかよく分からないけれど寝てると服の隙間に紙を入れられて寝づらかったという現実的で微妙に嫌な夢を見たと。
夢だと思い込んでるならば何も現実だというのを教えなくてもいいだろうと思い黙っていた。

書き初めの為にと新聞紙を用意した。
視界に心を躍らせる初売りの広告が入るがぐっとこらえた。
人ごみはあまり好きではないし、正月くらいゆっくりしたい。
彼も同じ気持ちのようで眉を寄せると一言行くのかと不機嫌そうに聞いてくる。
行きませんと伝えると表情は和らいで私の隣に腰をおろしてくる。

「1年の抱負を書きます。私は一日一善です!」
「そんなに食べるのか」
「ご飯の話じゃないです。後、別に多くない」
「めいはあれだろ、1という漢字が楽だからだろう」
「…っく、紅炎さんは?」
図星か、と呟いてから紅炎が考える素振りを見せた。
えっと、なんて言いながら筆を手に取り回す。
その間に私は半紙と墨を用意してバランスを考えようと睨めっこする。
習字なんて、中学校以来かな。懐かしい。そして忌まわしい。
何度も書き直させられた事、私は絶対に忘れない。

「おでん?」
そう、おでん。

「おでん?」
思わず聞き返すといつの間にか彼の手には字の書かれた半紙があった。
とても達筆で男らしい字だなぁ、と感心する半面書かれた言葉に呆れる。
抱負ではなくてひらがな3文字の単語だ。おでんと書かれている。
食べたいのと聞けばそうではないのか首を捻っていた。ふるふると首を横にふられた。
そして彼はおでんと書かれた半紙を丸めると再び書き初めの準備をして向き直る。

私もちゃっちゃっと一日一善と書いてしまおう。
そして居間に飾って、お節を準備して食べよう。
その後、暇だったらコンビニでおでんでも買ってこようか。

食事を終えてコンビニに行こうと誘うと断られた。
何でも今日1日は家から出ないと決めたらしい。それに私も付き合えと。
ソファに座ってぼんやりとテレビを見ていた彼がふと私を手招いた。
することもないし彼の隣に腰を下ろすと強引に体を引っ張られる。
紅炎はそのままなんてことはないように私を自分の膝の上に向かい合うよう座らせるとテレビを消した。
テレビ見てたんじゃないの、私の好きな芸人出るみたいだったのに、なんで言葉を飲み込んでじっと相手を見つめる。
彼は私を見て笑うと口づけてきてぎゅっと抱きしめてくる。
何なんですか暇なんですかと思いつつそんな事は言えない。
いつになっても、彼とこうしていちゃいちゃするのに慣れない。照れる。恥ずかしい。

「姫初めでもしようか」
そう言って彼の大きな手のひらは私の背中をなぞった。

1月2日
(嫌。暇なら洗濯物たたんで)
(…お餅食べようか)


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