1月1日


針が12時を指していたのは数分前。

「あ、あけましておめでとうございます」
私がそう定型的な挨拶をすると彼はびくりとはねた。
何も私の言葉に驚いた訳ではなく視線は液晶画面に釘付けだ。
丁度仄暗い画面の端からゆらゆらと青白い顔をした女の人が現れている場面。
私の挨拶に言葉を返してこない辺り彼はきっと聞こえていなかったんだろう。
別にいいかと思って私も再び番組に集中する事にした。

「何だ、年が明けてるじゃないか」
時計の針が一番長くなる時。夜中の12時半頃だ。
夢中になっていた番組は終わりそろそろ眠ろうかとする私に彼がそう言ったのは。
そうですよと返事をすると言えよと窘められた。
挨拶はしたよと返せば彼は黙った。やっぱり気付いていなかったのか。
そんなに夢中にさせるほどあの番組は面白かったかと考える。
…面白かった。

「何はともあれ、今年もよろしくな」
これまた定型的な挨拶をする彼はまだ寝る気がないのか入れ物の中の蜜柑を一つ手にした。
こちらこそと告げて彼の隣りに座る。
本当はもう洗面所で歯を磨こうと思ったんだけど綺麗に剥かれた蜜柑が美味しそうで。
彼の大きな手から一粒だけ頂くと咀嚼した。甘酸っぱいのがやっぱり美味しい。
それから洗面所に行って寝巻を着て毛布と布団でほかほかしながら眠った。

再び目が覚めたのは日が昇ってから。
改めて起きてトイレやら何やらを済ませて玄関に行く。
郵便受けに入った数枚の年賀状を取り出してさらさらと目を通した。
きっちりとした白瑛の年賀状を見て私のはふざけすぎだとちょっと後悔する。
だけど、私も紅炎も今年は年賀状をきっちりと出した。いい年初めだ。

部屋へと戻ってテーブルに年賀状を置く。
着替えるのは後にしてうつ伏せで静かに眠る紅炎を揺さぶった。
あんまりにも静かで身動きをしないものだから死んでるように思える。
彼は唸るような声をあげてからもそもそと起き上がった。
眠いのか口数少なく目元をこすり私を眩しそうに見た。
何だ、なんて問いかけてくる。昨日言ったのに思い出せないらしい。

「起きて、初詣に行きましょう」
彼に出かける準備をするよう伝えて私も自分の用意に戻る。
おせちはもう出来ているから帰ってきてから食べよう。
後、メールも何通かきてるだろうから後で。
今は何よりも初詣が先だ。今年一年がいい年であるように祈るべきだ。

「今年こそ凶をひきません」
「三年連続だったか」
彼の言葉に今年こそはと心の中で力む。
凶を引いたからって一年が不幸という訳ではないが気持ち的な問題だ。
やっぱり幸先良いのが一番だ。

出かける準備をして上着を着て部屋を出た。
まだまだ冬だ。外は寒い。吐いた息が白い。
近所の人たちと簡単な挨拶を交わしてから初詣の為にといそいそと進んだ。
途中、人が少ない通りで隣りの紅炎の手を握ると握り返された。
暖かさに目を細めてさくさくと進む。

365日の初め。
(見て!紅炎さん、吉!)
(勝ったな、大吉だ)


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