SSS
04/29(Tue):サプライズ&サプライズ(進撃 ミケ)
ミケのポッケから出てきたとあるブツに私は一週間悩まされている。
「ミケ、浮気してる?」
「してない。する時間もない。」
と言うか、俺が好きなのはお前だ。とまっすぐきっぱり言われて思わず嬉しくなった。いかん!この、手の中にある゛ブツ゛が何なのかを確かめないと。拳をぐっと握りしめて頭を振る。
「じゃあ…じ、じょ、じょしょう癖があるとか?」
しまった。噛んだ。大事なところを噛んだ!!
「…ない。あると思うか?ばか者。」
ため息を付き、若干引き気味に私の質問に答えるミケ。
「じゃあ、これはなに?」
机の上に握りしめた拳を叩きつける風に置く。
「何かやましいこととか、秘密にしてること、本当にない?」
「ない。な。」
ふん。と鼻を鳴らすミケ。
「これでも、そう言いきれるかー!」
ぽしょ。
握りしめた拳を力一杯開くと机に現れたのはくしゃくしゃに丸まった可愛らしい布。
「む…。」
「そう!て、Tバッックです!誰の?ミケの?白状…して!」
「うむ。それはお前のだ。プレゼントに俺が買ってきた。」
「う、うそ!じゃじゃあ何でジャケットの胸ポケットから出てきたの!」
「びっくりさせようと思って。」
「大成功だよ。」
「大失敗だな…きれいな包みを持って帰宅したらバレるからポケットに忍ばせたのに…。風呂からあがって無かったから落としたと思っていた。」
ぽかんとする私に、まさか、お前がもっているとはな。と変な顔だと腹を抱えて笑うミケ。
「それでもTバックって!私がTバック履くの想像できる?」
…ふっ。
「なに想像してんのよ!ばか!エロ!!」
鼻で笑いやがった!なに想像したのか分からないけど鼻で笑いやがった!思わず肩パンをお見舞いした。
「いた、叩くな。お前が想像しろと言ったんだぞ!」
「そうだけれども!何かさぁ!馬鹿にされた気がしてさぁ!もー!よく分かんない!やだ!」
浮気や女装癖では無かったこと、ミケが好き、いろんなことがいっぺんに表に出てきたから、安堵やら恥ずかしさや興奮やらで訳が分からない。
「やだ…もう。ばかだ。」
「やだ、じゃない。が、バカだとは思うな。」
恥ずかしさで顔を隠す私を抱きしめると体重を少し預けるみたいにギュッとされた。
「疑ってごめんね。叩いてごめんね。ミケ、大好き。」
「俺もお前が好きだ」
耳元で優しく揺れる静かな声に頷いて、仕方ないから今晩はあれを履いてミケに跨がってみようか。
絶対ミケの想像の上を行ってやるんだからと意気込んだのは私の胸にしまっておこう。
ミケの驚く顔が楽しみだ。
04/27(Sun):眼差しは遠い(進撃 ピクシス)
父が亡くなった。
故郷ではまだ雪が残っていた。父は冬を越せなかった。
父は内弁慶であまり喋らない人だった。見栄っ張りで頭が悪い。お酒を飲むと大きな声で怒鳴るのが嫌だった。それだけが理由ではないが家に居たくなかった私は訓練兵に志願した。
葬儀の片づけを終えて庭で父の育てた花や木を眺めた。
ちゃんと手入れされた庭、あの木に登って父を見けて手を振った、まぶしかったのか目を細めるだけだった。
そう言えば働く父を見るのは好きだったな、と少し悲しくなる。
今は死んだことが悲しいより父との思い出が胸を締め付け、涙を流させる気がした。
「…おぉ…見違えたの」
背が高いウシャンカを被った男の人が私を見ると目を丸くしてにこにこと笑った。
「あ、今日は。」
私を知らないこの人は私を知っている。ここ2、3日同じようなことが沢山あった。みんな、私の知らない小さな頃の思い出を話して懐かしがるのだ。
彼は父と同じくらいにみえるから友人だろうか?少し見覚えのある顔も、もしかしたら過去に遊んでもらったからかもしれない。
「今回は急なことで大変じゃったろぅ。」
「父はだいぶ前から療養していましたので。」
「あやつ、儂に一言も言わん。弔い酒とは実に面白くない」
手にした上等な酒を差し出してあやつには勿体ないくらいの上等なヤツじゃ。と笑った。その拍子にできる笑いじわが深く、目尻から頬に刻まれる。
「ふふ。ありがとうございます。父はお酒が好きだったのでとても喜びます。」
お辞儀をすると、酒を飲む父を思い出して喉がぐっとなった。あんなに嫌だった父の姿なのに涙がでるのが不思議だった。
顔を上げると眩しそうに細められた目が私を見ていた。途端にボロボロ涙がこぼれる。
父の友人もウシャンカをとってお辞儀をした。
そこでやっと…ピクシス司令だと気付く。私ってバカ…
「…邪魔をしたの。すまんかった」
「ぃえっ…す、いませ…っ。あり、がとう、ございます。」
「あやつは、お前さんのことを心配しとった。これからはお主が家族を支えるんじゃぞ。」
「はい。」
ウシャンカを被り直し去っていく後ろ姿に一礼した。
もう、私を娘として心配するひとがこの世にはいない。
おてんばだった私に一言二言叱るだけで。それでもいつも父は私を見守っていてくれた。
どこにも父がいないことがとても悲しい。涙が止まらない変わりに私は声を出さずにバカみたいに泣いた。
だいぶ泣いて、ぼんやりと、ピクシス司令の姿を思い出すと頭の印象って大事だなぁと不謹慎だけど笑ってしまった。
04/23(Wed):終わりと始まり(進撃 ミケ)※ゲルガー→主→?ミケ(既婚)
お昼休み当番でミケさんと2人きりになった。
髪伸びましたね。
切る時間がない。とかそんな当たり障りない話をして私もミケさんも書類に向かう。
忙しい
こんな天気がいい日は洗濯して、布団を干したい。
眠気を誘う陽気に集中力がきれる。
ミケさんは「くあ〜っ」と伸びて大あくびをした。
クマみたいだ。
冬眠開けのクマ。
ミケさんも同じく春の陽気が仕事の邪魔をしているのかもしれない。
資料を戻しに席を立つと、コインを手にしたミケさんと鉢合わせた。
道を譲って少し後ろを歩く。元々の歩幅が違うからどんどん距離が開いていく。
ミケさんはでかいなぁ。身長もだけど、がっちりした肩とか広い背中がさらにミケさんを大きくみせてるんだろうなぁ。
シャツから浮き出た肩胛骨に格好いいなと思うのと、もしそのもりもりした筋肉だったり骨の丈夫な感じだったりがミケさんみたいに飛んで巨人を抉り切るのに必要ならばそうなりたいなと思ってしまう。
ミケさんが好きでミケさんみたいになりたいと思う。
視界の端で淡いピンクが揺れた。
それはミケさんのお尻のポッケから飛びだしたハンカチ。
奥さんからの贈り物だろうか。
限りなく白に近い淡く薄い桃色はミケさんにとてもよく似合うけど彼が選ぶには可愛すぎる。
私はミケさんのポッケから飛び出したハンカチを贈る奥さんのことを何となく好きだなと思った。
そしてそんな奥さんを選んだミケさんを好きだななんて思ったのだ。
その夜、ゲルガーに昼にあったことを話した。
「お前ちょっと気持ち悪いぞ。」
「そお?」
「なんつーか、まだ好きだと言い切ってミケさんに言い寄るほうが健全な気がする…!あ!そうだ、健全じゃない。お前のは不健全ぽい、気持ち悪い。」
「気持ち悪いはさっきも聞いたって。」
「まあ、一人完結はよくないぜ」
うんうん、と妙に納得した様子で酒を注ぐゲルガー。
「好きって。好きってだけで完結するもんだからいいんだよ。」
「ガキんちょ」
ぐいっとグラスを傾けて酒を流し込んだゲルガーが少し間をおいて低い声で言った。
え、と開いた口をゲルガーの唇に塞がれた。
「一人完結が良くないのは俺も同じだ。」
「は?」
「始まってもねぇのに自分で終わらすこともねぇよな。」
唇が苦い。酔いが冷めたのに頭がクラリとする。
ゲルガーの肩にのっかる薄桃色の花びらが、私の髪に腕を伸ばす拍子にひらりと舞った。
04/23(Wed):一晩熟成(制服D 烏端)
久々にカレーが食べたくなって台所に立っている。
手の込んだモノではなく市販の中辛のルゥをつかった普通のカレー。後はトマトを入れたら完成だ。
ご飯の炊ける匂いを胸いっぱいに吸い込むと日常って平和だなぁなんて少しジーンとした。
一人の自由の時間の何と幸せなことか…。
「今日の夕飯はカレーっスか〜。」
「ぎゃー!」
「あ、お取り込み中サ〜セン〜。なかなか気づいてもらえなかったもんでお声掛けさせてもらいました。」
「烏端…気付いて欲しかったら気配消さないで、普通にインターホン押して…。」
「はぁ。ナルホド〜!それはそうと…」
あぁ…伝達官の彼女が目の前にいると言うことは特急伝令でこれから仕事に向かわなければならないのか…カレー…
「カレーにトマト入れないどいてください。自分アレルギーなんスよ。」
「アレルギー?聞いたことないし、何より烏端の分ないからね、あげないよ。てか伝令は?」
「あ、そうそう無期限稼働配置っス。」
「りょーかい。あ〜ぁタイミング悪いなぁ。」
「いえ、タイミング的にはグッドです。カレーは一晩置いた方がうまいっスから。」
「いいこと言うねぇ…よっし!一晩で片付けるぞ。」
「そ〜っスね。共に美味いカレーのために頑張りやしょ〜!!」
「だから、烏端に食わせるカレーはないって!」
「チッ」
04/08(Tue):小さいこと(進撃 ミケ)
「真球1.0、0.5mm」
乱暴な字ででかでかと箱に貼られた紙を指で弾く。
「これは、立体機動の部品か?」
「どれ?」
「小さい球。」
「あぁ…それ。ベアリングね。あ〜…立体機動のは往々にしてもう少し小さ…い。」
…昔からの付き合いで仲がいいとは言え、話す内容には気をつけなければならない…これは…まあ、妥当な答えだよね…それより…
「あのさぁ。ミケ、研究棟は部外者立ち入り禁止なのだけど。」
「知っている。」
「そうよね。あなた、ここに忍び込む度に私に言われてるものね」
「知人に会うのにいちいち許可を取るのはばかばかしい。」
「ああ、そう…です、か。」
警備は何をしているのだろうか…それとなく警備を強化してもらうように話しをしよう。ミケならいいけど(いや、よくないんだけど…)国の研究施設に易々と他人が入ってしまえるのは困る。
「ミケ、いつもどこからどうやって入ってくるの?」
「…いろいろなところからいろんなやり方で。」
「あ、そぅ。まあ、あんまり危ないことはしないでね。あ〜…怪我するようなこと、するんじゃないぞ。」
「くっくっくっ…。調査兵団の俺に、忍び込む心配をしてくれるのか?」
「まあ。一応…な。」
「ふっ。」
「なに?」
「お前は…いや、何でもない。気にするな」
「はぁ〜!?気持ち悪いなぁ。」
「分かり易く、素直じゃないな。」
「は?意味わかんないんだけど…。もう帰れ。じゃないと憲兵よぶぞ。」
「はっ。はっはっはっ!やはり素直じゃないな。」
何がおかしいのか…腹を抱えて爆笑するミケに引いてしまいじろりと見た。
「憲兵を…呼ばれては面倒だからな。まあ、そろそろ帰る。」
「アンタ、いったい何しにきたの?」
「別に。」
「そう。用事がないなら来るなよ。」
「…また気が向いたら来る。じゃあな。」
「だから、用がないならくるな…」
バタン。と、彼女の話が終わらないうちに退出した。
昔は照れたり言葉に詰まると手や足や頭でど突かれたものだったが、今はその代わりに口調が乱暴になるのを彼女は気づいているのだろうか。
そして、それを知る者はどのくらいいるのだろうか。
大人になっても頭が良くても、感情表現はまだ不器用な彼女が面白くて、乱暴な口調が覗く度、なぜか嬉しくなってしまうのだ。