短編。 | ナノ
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「俺が日奈汰を嫌いって言ったのは本当。ごめんね、日奈汰」
森田に視線をやった後、僕に向かって開いた口は森田の発言を認めていて、僕の視界はグラリと揺れた。
「でもね、日奈汰だって俺の事、他の奴らに愚痴ってたでしょ?あれと同じだよ。本気で嫌いになったわけじゃない。ただちょっとだけ嫌だなって思って、森田に愚痴っただけ。いじめてほしいなんて言ってないし、まさか日奈汰がいじめられるなんて思いもしなかった」
一気に言う蓮の言葉は本当なのか…?
それなら止めに入ってくれれば良かったのに。
あの頃の蓮の行動は自分が原因だなんて思ってもいないような感じだったし、気弱な蓮は自分がターゲットにされないか心配しているようにも思えた。
「でも、日奈汰が初めて孤立してるのを見てね、なんかいいなって思ったんだ」
「え…」
「いじめられて落ち込んでて、そんな日奈汰見たくなかったし自分の一言で日奈汰がいじめられてるなんて耐え難かった。でも、日奈汰と仲良かった奴みーんな森田と一緒になって日奈汰をいじめるんだもん」
知ってる?と笑いながら蓮は僕に近づいてくる。
蓮の言葉を理解するのにいっぱいいっぱいで、何が『知ってる?』なのかわからない。
「俺が森田に愚痴るほど、なんで日奈汰を嫌いって思ったか」
そんなの知らない。
ゲームで蓮が負けたから?宿題の答え見せてもらってばっかだったから?マンガ借りっぱなしだったから?
わからなくて、ふるふると首を横に振る。
「日奈汰が俺以外の奴と俺以上に仲良さそうにしてるのを見たから」
僕の目尻に溜まった涙を親指で拭いながら、蓮は言った。
「最初は森田を恨んだよ。なんで日奈汰をいじめるの?って。でも結果、日奈汰は俺だけのものになったから感謝もした」
それなのに、と続けて蓮は僕の後ろにいる森田に視線を向けてそちらに歩を進める。
「なんでこのタイミングでバラすかな?それ以前になんでこの高校を受験した?」
「吉瀬が、っ」
森田が声を発した刹那、蓮は森田のはらわたに拳をめり込ませていた。
「ちょ、れんっ」
「日奈汰ぁ、俺が悪くないのわかるよね?だって俺はずっと日奈汰の事しか考えてないんだよ?」
止める僕に意識を向けてくれた蓮は腹を庇って蹲る森田から視線を外す。
16年間、一緒にいた蓮を初めて怖いと感じた僕はこくこくと首を縦に振る事しかできなくて。
「もう二度と余計な事すんなよ、森田」
いつもと同じようににっこり笑う蓮は僕の手を引いて、森田を残した屋上を後にした。
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[文/10^-24]