短編。 | ナノ


◎ 4/5


しばらく講義を聞いて板書もしていたが、そういえばと、俺は机の下で隠れて優輝にメールを打つ。学校が終わったらどこか寄って帰ろう、と。
返信は割と早くきたがメール文には用事があるから先に帰ってて、と。

俺はそれに対して返事はせず、また退屈な講義を聞いて、一人で帰路についた。


ゆらゆら揺れる電車の中、俺は数ヶ月前の優輝の気持ちが少しだけ分かった気がした。



その日の夜、コンビニで買った弁当を食べて風呂も入って歯も磨いて、日付も変わったしよし寝るかという時に携帯が鳴った。
専用の着メロは優輝からという事を示していて、俺は鳴り続ける携帯を手にとった。

「もしもし?」
「あ〜、りゅーちゃぁん?」
「…酔ってんのか?」

電話口からはざわざわと騒がしい雑音と、呂律の危うい優輝の声。
用事というのはこれの事だったのだろうか。俺との時間を断ってまで優先する飲み会?

「あのねぇ〜?おれねぇ、ひっく…すきな人がれきちゃったっ!それれね、その人に好きれす!っていーたいからりゅーちゃんと別れたいのっひっく…」

いい〜?と言うハイテンションの優輝の声を俺はやけに冷静に聞いていた。
かなり酔っているのは分かった。が、言ってる意味がよく分からなかった。

「…今どこ?」
「いまぁ?今ねぇ〜ここどこらろ…あははっ」

答えはないまま、近くにいた奴と騒ぎ始めた優輝はもう電話の事など忘れているだろう。
俺は静かに通話を切って携帯を充電器にさした。
部屋の電気を消して寒い布団の中に潜りこむ。炬燵がほしい季節だ。



「ねぇ、好きな人って誰?」
「え?」

授業が終わり、優輝の待つ教室に迎えに行くとみんな帰った後でそこには優輝しかいなかった。
俺の姿を見て笑った優輝に俺も笑い返しながら、前置きもなく、そう問いかける。

「昨日の夜中、酔っ払って電話してきたじゃん。あ、日付変わってたから今日か。」

その言葉に優輝から笑顔が消えた。

「好きな人ができたから別れて〜って。なに?また一目惚れ?」
「あ、ごめ…龍ちゃん…」
「なんで謝んの?」
「だって…」

バツが悪そうに俯いた優輝に俺は笑った。

「俺、別れねーよ?」
「え…?」
「別れねーよ。だって優輝のこと大好きだもん。別れるわけねーじゃん」
「ごめん、龍ちゃん」

別れない。大好き。
そんな事ばかり言っている俺を未練がましいなんて、優輝は言えないだろう。
というか、優輝には言われたくない。

「今なら優輝の気持ちがよくわかるよ。束縛したくなる気持ち。大好きだから自分以外と関わってほしくないんだよ?」
「………」

俺と目も合わせないまま黙っている優輝の方へ、俺はゆっくりと歩み寄る。
今ならわかるよ。束縛してしまう人間の気持ち。



 
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