きみと僕が〜 | ナノ
◎ これからのこと
「そういえば水上先輩はどこの大学に行くの?」
「え?」
授業が終わって、休み時間。
縁は思い出したように後ろを振り向き、そんな事を尋ねてきた。
そういえば、そうか。
陽が暮れるのも早くなり、少し肌寒くなってきたという事は、受験シーズンという事を示していて、3年生である先輩は受験生という事だ。
今まで先輩からそんな雰囲気を全然感じなかったから気付かなかった。
いつも通りセックスして、病院での検査とかベッドの購入とか、いろいろあったけど受験というフレーズはたった今、縁の発したそれが初めてだった。
大学か…
「伊山?」
「…会長は?」
怪訝そうに顔を覗き込む縁に、質問に質問で返してしまう。
「俺なんかは絶対受からないとこだった。一緒の大学行きたかったけど、やっぱり無理みたい」
苦笑い気味に言う縁の姿が、ちょっと先の自分を見ているようだった。
僕は先輩の志望大学さえ知らないけど、優秀な先輩が行く大学を自分が目指すなんてあり得ない話だと思う。
いつかはこの関係が終わるのは分かっていたが、もうすぐなのだと、急に先輩の居ない日常が現実味を帯びた。
「あの、先輩、大学はどこ受けるんですか?」
放課後、ちょうど先輩からメールが入ったので、マンションに向かう道の途中、控えめに尋ねてみる。
「どうしたの?急に」
「いや、あの、そういえば受験だなって思って」
「どうせあのお友達でしょ?今まで全然聞いてこなかったのに」
本当にその通りだから何も言えない。
聞いたところでどうにもならない事は分かっているけど、先輩の受ける大学は知っておきたかった。
「…どこ受けるんですか?」
同じ質問を繰り返す僕に、先輩は静かに答えてくれた。
「颯太はどこ、受けるのっ?」
「んっ、あ、わかんな、」
「僕と同じとこ…は、きついかな」
奥を抉りながら呟く先輩の表情がひどく切なくて、でも先輩と同じ大学を目指すなんて、そんな無責任な事は言えなかった。
「せんぱ、すき」
「知ってるよ」
「あっ、あ、…ん、」
気持ちいいと思いながら、大好きだと思いながら、僕もなんとなく切ない気持ちになった。
「大学ね、推薦でもう決まったんだ」
「え!?」
「一般で受けるつもりだったんだけど推薦取れたから一応って、担任に言われて」
「そうなんですか…」
全く何も知らなかった事に少なからず衝撃を受ける僕に先輩は何も言わなかった。
ベッドの上で毛布にくるまる僕を置いて先輩は部屋を出て行った。
僕のために大学のレベルを下げてほしいなんて思っていないし、そもそも「僕」は先輩がそこまでするほどの存在ではない。
先輩にとって僕はどれくらいの価値があるのだろうか。
「ココア飲む?」
戻ってきた先輩の手にはマグカップが2つ。
「あ、はい」
ありがとうごさいますと、身体を起こして暖かいマグカップを1つ受け取る。
セックスの後はいつもシャワーに直行の先輩がこんな事をしてくれたのは初めてで、戸惑う。
気にかけてもらえた事が嬉しくないはずがないのだが、何かあるのではないのかと、勘ぐってしまう。
「僕が卒業しても颯太は僕と寝てくれる?」
ベッドの端に腰かけた先輩は僕をまっすぐ見て、そんな事を聞いた。
先輩が卒業してからの事は自分も考えていただけに、ドクンと心臓が鳴る。
「それは…僕は大丈夫ですけど…」
「ほんと?よかった」
僕の言葉を聞いた先輩は綺麗に笑って自分のココアを啜った。
「ベッド買ったばっかだもんね」
まだ新しいベッドの上に座る僕はそうですね、としか返す事ができなかった。
「颯太には僕以外と寝てほしくないなぁ」
「はい」
独り言のように呟かれた先輩の言葉に、僕は無意識に返事をしていた。
これから先、先輩との関係が続く限り僕が先輩以外の人と寝る予定はない。
…関係がなくなった後は分からないけれど。先輩は卒業してからも続けてくれる気でいるらしいから、それはまだ先の話だと思う。
どうかこの関係が続いてくれますように。
((未来は変化する。))
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