氷帝学園× | ナノ

「ねぇ、おかしくない?」

「なにがー?」



僕が手にしたプリクラの端には、
つい幾日か前の日付が可愛らしいフォントで印字されている。



「いや、絶対ヘンだって。」

「だからなにがー?」

「いや、だってコレ!」

「ん?」



僕のベッドを我が物顔で占領してゴロゴロ転がっている男の子に、問題のプリクラを突き付けるように見せたのだけれども…



「どこがおかCの〜?」



きょとんと吊り目がちの瞳を丸められてしまった。実はちょっぴり分かってた。分かってたよ。君がこんな反応しかしてくれないって…



「ねぇ、君の身長はいくつ?」

「160センチ〜」

「僕は167センチ。」



のんびりと答える君を引っ張り起こしてベッドの上に座らせる。胡坐をかいた君を正面から真っ直ぐ見られるように、僕はフローリングに膝立ちになる。



「君の体重は」

「49キロ〜」

「そうだね。僕は」

「53キロ〜」

「なんで知ってるの…」



嗚呼、やっぱり真面目に取り合う気なんてないね、君。「不二のことなら何でも知ってるC〜。なんで今更そんなこと聞くの?」って言いながら僕のほっぺを突っつくの、やめてよね。



「僕のこと君が知ってるとか知らないとか、今はそういう話じゃないんだよ。ジロちゃん。」



言い聞かせるようにゆっくり言って、さりげなく、やんわりと。ほっぺに連打攻撃を仕掛けてくる指を阻止する。



「僕が言いたいこと、わかる?」

「んー…」



人差し指を掴んだまま訊ねれば、君はちょっと考える素振りをして、ニッっと満面の笑みでこう言った。



「わっかんねぇ!」

「・・・・。」



ですよね。分かってた、分かってたよ…。
本当、ちょっと期待してたけど分かってたよ。こうなるの。はああっと深く長く息を吐いて僕は言う。



「ねぇ、なんで君がダーリンで僕がハニーなのさ。」



思考が迷子になりやすい君が、どうせ忘れかけているであろうプリクラを、ずいっと、今一度彼の目の前へ。



「どうして君が青いペンで、僕がピンクなの?」



例のプリクラの中には、頬を寄せた君と僕。
この前デートに行ったとき、君があまりにも撮りたいってゴネるから一緒に撮ったヤツ。あぁ、もう本当、男ふたりでプリクラなんて 恥ずかしかったんだから。

でも、今はそんな文句は置いといて。

君がラクガキした内の一枚。
どうして君のところには青でダーリン、僕のところにはピンクでハニーなの?

要はそういうこと。



「えー…だってぇ」



わしわしと無造作に綿あめみたいな髪を掻き乱して思案顔。眉を垂れさせて、しばらく斜め上を見上げていた君が、やがて僕を見つめ返してくる。



「俺の靴は26センチ。」

「僕は」

「25センチ、だよね?」

「・・・・。」



なんで知ってるのコノ子。



「俺の誕生日は?」

「5月5日。」

「不二は2月29日。」



あぁ、この子。やり返してくる気だ。
幼げに見せかけて、意外とこういう事してくるんだよね。君って。



「これでお相子だね〜」



ほら、やっぱりね。
そうやって内心でぼやきながら、でもやっぱり次の言葉を待っている僕は相当焼きが回ってるのかもしれない。



「ついでに言うと、出席番号だって2番と14番で俺の勝ちだC〜」

「なんで僕の出席番号なんて知ってるのさ…」

「だから、不二のことならなんだって知ってるんだっての!」



ヒマワリみたいなキラキラした笑顔向けてくれたって怪しいものは怪しいんだからね?
咎めようと思って口を開くけど―――…



「だって俺、マジマジ不二のこと愛してんもん!」



君のそんな言葉ひとつでさえ僕を閉口させる。
ズルい、ズルいよ。

しかもしかもっ―――…



「ねぇ!君、プリクラのこと忘れてない!?」

「あ、」

「もう、やだ…」



期待してなかった。もう逆に期待を裏切らないよね、君って。



「え〜…でもさぁ」



ガクりと肩と一緒に落とした顔を、クイっと君に掬われる。



「フツーに不二のがカワEじゃん。」



なんで、なんでだろう。
さっきまで君を見つめていたのは僕だったのに、反対になるだけでどうしてこんなに心臓がバクバク煩いんだろう。
きっと真っ赤になってる顔を隠したいのに、君は離してくれないし。



「へへっ、顔真っ赤。」



わかってるって!
だから下向いちゃいたいのに、君がさせてくれないんじゃない!って、文句言ってやりたいけど、言ったら負けな気がして。



「バカ…」

「うっわ、ひでぇC〜
 お口の悪いハニーにはお仕置きが必要だと思うんだけ、どっ」



ちょっと!誰がハニーだって?いい加減イラッと来た。

なのに。

あぁ、もう。あぁ、もう。君のせいでまた言いそびれたじゃないか!



「覚悟はE〜?俺のハニー。」



いつの間にやら手首を引かれてベッドにダイブしている。
羽毛に沈み込んだ僕に、馬乗りになって影を落とす君は、本当に…
いつもの天真爛漫がウソみたいにカッコイイ―――…



「もう、良いよ。君がダーリンで。」

「まじまじ?」

「だって出席番号で1個負けたから。」

「そこ?」



本当はそこじゃないけどさ。
やっぱり、癪なんだもの。そんな男らしいトコみせられた後じゃ尚更。



「ね、ジロちゃんダイスキ。」

「まじ?」

「ん、まじ。」

「やっべぇ…うれC…。ダイスキ、不二。」



やっぱ、君にはお手上げ。

だって好きすぎて、なんかどっちでも良くなっちゃうんだ、マイダーリン―――…