暖かいデュエルアカデミアにも最近、猛暑が遅れてやってきた。毎日30℃を越える気温、そして特有の湿気に島に残っている生徒たちはぐったりとしていた。ほとんどの生徒は早々に帰省してしまった為に寮に残っているものは少ない。

十代はパタパタと団扇で扇ぎながら熱を冷まそうとするがあまり意味は無いようで、流れ出た汗を拭うとそのまま床に倒れこんだ。
ジッとしているとそこは十代の体温で温まってしまい余計に暑く感じる。

「…………水風呂でも浴びるかな」

よっこらせ、とオヤジっぽく言って立ち上がった十代が着替えとタオルを持って部屋を出ると森の方から青いものがこちらに向かってきていることに気付いた。

「おーい、じゅうだああああい!!!」
「……ヨハン」

ぶんぶんと大きく手を振ってきたヨハンはニコニコしながら駆けてきた。十代は着替えとタオルを部屋に投げ込むとカンカンとうるさく鳴る階段を勢いよく降りる。

「何の用だよ、ヨハン」
「いい場所見つけたんだ!こっち来てくれよ!」
「っ!?お、おい……!」ヨハンは着くなり十代の腕をぐいっと掴むと引っ張って走り出してしまう。転びかけるが何とか体勢を立て直し、ヨハンに引っ張られるままに着いていくと……





「ごめん、迷った」

そう、ヨハンは方向音痴だ。レッド寮に着くことさえルビーが居なければ一苦労するヨハンが良い場所とやらを見つけたところで再び同じ場所へ向かうのは難しいことだろう。

「あれー?おかしいなー……」
「ったく、良い場所ならそこに行ける目印か何かを付けておけよな…」
「なるほど!十代頭いいぜ!」
「何かあんまり嬉しくねぇ……」

その間にもヨハンは話を聞いているのかいないのか、がさがさと草を掻き分けて進んで行く。

「おいヨハン、どこ行くつもりだよ」
「へ?だからいい場所だよ!十代にどうしても見せたいんだ!」

ヨハンは右手を十代に差し出してきてニコッと笑う。十代はそれをスルーしてスタスタと歩き出した。ヨハンが怒ったのかと顔を覗きこむと十代はむすっとした顔のままぼそりと言った。

「どうしても見せたいんだろ?早く見つけちまおうぜ」
「……ああ!」






…………。



「さ、さすがに二時間も歩きっぱなしだと疲れてきたな……」
「水飲みたいぜ……」

いくら森の中で日陰になっているとはいえ、暑いことに変わりはない。だらだらとかいた汗で水分が抜けきり、喉はカラカラに渇いていた。

地図の無い宝探しは無謀だ、と十代は思う。けれど不思議なものでヨハンと一緒だと見つけられるような気がするのだ。
実際は迷っているわけで、気がするだけなのだが。

「はぁ…見つからないなー……」
「暑さで頭やられてたとかじゃないよな?」
「それは無いと思うけど……なぁ、ルビーはあの場所、覚えてるか?」
「るびびっ!」

ぴょんぴょんと跳ねたルビーはヨハンの周りをくるりと1周するとついてこいとばかりに走り出した。
二人が慌てて追いかけてくるのを確認したルビーは更にスピードをあげていく。

「待ってくれよ、ルビー!」
「本当に場所わかってんのかな……」

今まで進んできた道と反対の方向へとルビーは進んでいく。途中で左に曲がると開けた場所へ出た。

「何だ、ここ……」
「ここだ!ありがとう、ルビー!助かったよ!」
「るびっ!るびーっ!」

黄色く鮮やかに咲く向日葵畑がそこにはあった。崖の近くに咲くその花たちの向こうでは青い空と青い海が繋がっている。
驚く十代にヨハンはにかりと笑って両手でピースして見せた。

「良い場所だろ?」
「ああ、綺麗だ。…………ありがとう、ヨハン」
「へへっ、どういたしまして!」



それからというもの、ヨハンは毎日のようにその場所に通っているらしかった。もちろん、ルビーの案内付きだが。

確かに良い場所だったが頻繁に行く必要は無いんじゃないのか、と十代が問うと「何かさ、あの場所に行くと元気になれるんだよな」とヨハンが優しい顔をして言うのでそれ以上は何も言わないことにした。
代わりにトメさんからもらった造花の向日葵付きの麦わら帽子をヨハンに被せた。

「熱中症には気をつけろよ」
「おっ、サンキュー!向日葵付きだ!」

嬉しそうに麦わら帽子をかぶるとパタパタと出掛けていく。暑いのに元気なものだ。
だが浮かれすぎたのか水筒もタオルも忘れて行ったらしい。

「仕方ない、届けてやるか……」

久しぶりにあの場所に行くのも悪くないだろう、と荷物を持って部屋を出る。
最近は暑いものの秋が近くなってきたために気温は下がってきた。夕方なんかは涼しいぐらいで、夏の終わりを感じられる。
僅かに頭の隅から『課題』の文字がひょっこり顔を覗かせたが十代はそれを押し込め見ない振りをする。暑い夏ぐらい、楽しみたいものだ。

いつもの道を右に曲がり、向日葵畑に着いた時、ヨハンが見えた。

「おーい、ヨハ……ン…」

が、それ以上声をかけられなかった。ヨハンが俯いたままぐったりと倒れ込み、散った花びらを見ていたからだ。
向日葵は夏の花。夏の終わりは向日葵の終わりでもある。

「……ヨハン」
「もう、夏も終わりなんだな……」

そう言って悲しそうに笑ったヨハンが印象的で、十代は胸が痛むのを感じた。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇



あの日以来、ヨハンはどこか元気が無くなっていた。向日葵畑にもあまり行かなくなっていたし、毎日のように一緒に過ごしていた向日葵が枯れていくのを見るのが辛いのだろう。

十代はそんなヨハンを元気付けようとあることを計画していた。今夜はそれを決行する為にヨハンを向日葵畑へと呼び出してある。
学校の備品のデュエルディスク、そして購買で掻き集めたカードを持って十代は夕方から準備を進めていた。

向日葵畑の周りにずらりと並べられたデュエルディスクは中々に異様だ。
十代がその一つ一つを起動させているとガサガサと音がする。それはもちろん、呼び出しておいたヨハンが来た音だった。

「十代?呼び出したりして……何だよ、これ?」
「ま、いいから見てろって!……いくぜ?」

そう言うと十代は素早く手に持っていたカードをディスクにセットしていく。セットすると勢いよく召喚された光が飛び上がると暗い夜の空に広がった。
その形はまるで花のようで、ヨハンはその美しさに声をあげる。キラキラと目を輝かせながら笑うヨハンに十代は気持ちが温かくなる。

「すげぇ……!すごく…綺麗だ…!」
「気に入ってもらえたみたいで良かったぜ」
「ありがとう、十代!!」

そこによろよろと何かが目の前に落ちてくることに気付いたヨハンは慌てて両手でキャッチした。
その中には《原子ホタル》がいて、ヨハンの手の平の上でピカピカと光ってみせた。

それが何だか笑っているように見えて、十代も原子ホタルと共に笑い、ダブルピースをしてみせた。




































あとがき


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -