※死んで更に死ぬ








ぽつぽつ、ぴしゃぴしゃ、ざーざー。雨が降っておりました。雨粒はぼたぼたと真っ赤な傘へ落ちると、大きく音を響かせたあと、コンクリートに滑り落ちていきます。

「……うるさいなぁ」

その音を騒がしく感じて十代は呟きました。
十代は雨が大嫌いでした。お気に入りの洋服や靴は汚れてしまうし、湿気で髪は決まらない。更にはこうして傘まで持たないといけなくなるので十代は雨というものが嫌いでした。
それが必要なものであっても、です。

十代は走りました。この雨の中を長時間歩いて帰るより、走ってさっさと帰ってしまった方が良いと判断したからです。

それに、最近は十代の下駄箱の中に髪の毛入りのラブレターが入っていたり、十代の隠し撮り写真がロッカーに貼り付けられていたりと気味の悪いことがずぅっと続いているのです。
今この間も誰かに写真を撮られていると思うと十代は一刻も早く家に帰りたくてたまりません。

足を踏み出すと地面の雨水がピシャリと跳ねて、十代の白いズボンを濡らします。
それを鬱陶しく感じながら十代は走ります。強くなる雨足に舌打ちをした十代の目の前を、明るい光が照らしました。

それは、車のライトでした。ワイパーを動かしながらこちらへ向かってきます。
そして勢いよく十代に向かって突っ込んできたのです。
十代は咄嗟のことにただ車のライトを目を丸くしながら見つめていました。

「危ないっ……!!」

そして耳が何か音を拾いました。ぼんやりと膜が張られた状態で聞いたそれは、少し高めですが男の人の声でした。
けれど何を言っているかは聞き取れず、十代は首を傾げます。

そして衝撃が十代を襲いました。
ゆっくりとスローモーションで世界は進みます。

十代は衝撃でふわりと宙に浮いていました。浮きながら、車の前にいる人物を見ています。

まるで青空がそこに立っているようでした。
青い髪に整った顔立ち、橙色をした瞳で十代のことを必死そうな顔で見ていました。十代が思わず「綺麗だなぁ」と呟くと、すごい衝撃が十代を包みます。
全身がびっちゃりと濡れたのを感じ、痛む背中を擦りながら体を起こすと、

目の前は真っ赤でした。
ぐっちゃりとした肉のようなそれを、赤い車が押し潰して血が飛び散り十代の顔にべちゃっと付着します。

青色をしていたはずの髪の毛は真っ赤で、青空は夕焼け空に変わってしまったのだなぁと十代は思いました。
辺りは血で真っ赤に染まっていましたが、鉄の匂いは全て洗い流されていきます。

履いている白いズボンが赤く染まってきた頃、十代はようやく、自分がこの自分と同じくらいの歳の男の子に助けられたのだと理解しました。

翠色をしている瞳は、十代を優しげに見ています。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇




結局、助けてくれたその男の子――ヨハン・アンデルセンは死んでしまいました。
葬式に参列した十代は、ヨハンがたくさんの人に愛されていたことを知りました。
みんな泣きながらヨハンに祈りを捧げます。中には涙目で十代を睨み付ける人もいました。

しかしヨハンの両親たちは十代を罵ったり、睨み付けたりはしませんでした。

「ヨハンはこういう亡くなり方をするだろう、ってずっと思っていたんです」
「悲しいけれど、ヨハンはきっと悔いの無い生き方をしたに違いありません……」
「そう、なんですか……」
「十代くんと言ったかな。……ヨハンの分までしっかり生きるんだよ」

頷いた十代に、ヨハンの両親は僅かに泣きそうになりながら去っていきます。
十代は、そんな二人をただ見つめることしか出来ませんでした。きっと、泣く資格も、必要も無いのでしょうから。

それは空が青く、良く晴れた日のことでした。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ぽつぽつ、ぴしゃぴしゃ、ざーざー。雨が降っておりました。雨粒はぼたぼたと真っ赤な傘へ落ちると、大きく音を響かせたあと、コンクリートに滑り落ちていきます。

「……今日も雨かぁ」

ですが十代はその音を騒がしく感じることはありませんでした。
十代は、雨が大嫌いでした。お気に入りの洋服や靴は汚れてしまうし、湿気で髪は決まらない。更にはこうして傘まで持たないといけなくなるので十代は雨というものが嫌いでした。
でも、同時に大好きでした。

十代は走りました。早く行きたい場所があったからです。

最近は十代の下駄箱の中に髪の毛入りのラブレターが入っていたり、十代の隠し撮り写真がロッカーに貼り付けられていたりすることはありません。
誰にも見張られていない今、十代には行きたい場所があったのです。

足を踏み出すと地面の雨水がピシャリと跳ねて、十代の白いズボンを濡らします。
それを気にすることなく十代は走ります。強くなる雨足に思わず笑顔になった十代の目の前を、明るい光が照らしました。

それは、車のライトでした。ワイパーを動かしながらこちらへ向かってきます。
そして勢いよく道を走り抜けようとしたその時、十代は見ました。

ヨハン・アンデルセンが再び車に轢かれるところを。
轢かれる直前、左は橙、右は翠の瞳で十代に優しく微笑んでくるので十代も笑い返します。


ヨハンはずっと、十代に微笑んでくれていたのですから。




十代はそっと、青色の髪の毛が入っているラブレターを撫でました。























あとがき


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