スプーンでカッ、と音を立てて醤油の入った小皿に落とされたものに十代はうげ、と小さく声をあげた。
ヨハンはそんな十代にムッとした顔をするが、すぐに気にせずそこにカツオのたたきを落とし、口へと運ぶ。


今日もヨハンは放課後に十代のいるレッド寮へと遊びに来ていた。デュエルをして、レッド寮の食堂で夕食を摂り、そのまま門限ギリギリまで十代の部屋に居座る。それがヨハンの日常の一部だ。
更にその一部である夕食の時間、十代はヨハンのその食事に驚くことがある。

いつも器用に箸を持ちながら日本食を食べるヨハンだが、時々妙な食べ方をするのだ。
雑炊に粉チーズをくわえたり、うどんに海苔の佃煮を和えて食べたり……それは十代にはちょっと遠慮したくなる食べ方で、やはり外国人であるヨハンとの差を感じるのだった。

「またフリル流の食べ方かよー……」
「フリル流ってなんだよ。俺流のうまい食べ方だぜ!」
「……刺身にマヨネーズは無いぜ」

そう、今日のヨハンの食べ方は鰹のたたきにマヨネーズをつけて食べるというものだ。
お気に入りらしい白と黒のうさぎの様な動物が描かれた瓶に詰められたマヨネーズをスプーンですくい、ぽとりと醤油に落とされて十代も思わずあんな声を出すことになったわけだ。
刺身にマヨネーズというのは十代にとってはあり得ない組み合わせである。

ヨハンはへらりと笑って「十代も食べるか?」とたっぷりとマヨネーズがついた鰹を差し出してくるが、十代は首を横に振って断る。
マヨネーズ鰹はそのままヨハンの口へと運ばれた。

「何でヨハンって時々変な食べ方するかなぁ……もっと普通に食べろよ」
「えー?普通に食べるよりうまいからこの食べ方してるだけだぜ」
「他にも食べ方あるだろ……何でよりによってマヨネーズ……」

十代は鰹にしょうがをのせ、ポン酢が入った皿にしょうががポン酢に付かないようにつけると口に入れた。鰹のたたきはやはりこうでなくては、と十代が思っているとヨハンがジッとこちらを見てくる。

「……何だよ」
「なぁ、十代……やっぱり一口食べてみ」
「嫌だぜ!」
「即答かよ!」
「そのフリルで薄々感じてたけど、ヨハンって時々スゲー趣味悪いよな」
「お前は俺のフリルから何を感じとったんだ」
「電波……とか?」
「そんなもの出して無いぜ! だいたい十代だって趣味が良いとは言えないだろ!」
「俺のどんなところが悪いっていうんだよ!」

噛みつく様に言った十代にヨハンはうぅん、と一つ唸ってから答える。

「例えば……ご飯に生卵と納豆をかけるところだな!」
「あれは旨いだろ!どこも悪くないぜ!」
「生卵をご飯にかけるとかどうかしてるぜ!」
「ヨハン、お前は今日本人を敵に回したぞ」
「そういうわけで、俺の刺身にマヨネーズも悪くないわけだ。人それぞれなんだよ」
「でもヨハンの場合食わず嫌いだろ?」

その言葉にヨハンがピクリと肩を震わせた。
そう、海外では生卵を食べる習慣は無い。そのせいでヨハンは卵をかけることに嫌悪感を感じてしまうのだ。

「……ヨハン、ごーにいってはごーに従えって言うよな……」
「When in Rome, do as the Romans do.…か…確かにそうだな……」
「??……そういうわけで!これからヨハンには卵かけご飯を食べてもらうぜ」
「ああ。十代が鰹にマヨネーズを付けて食べてくれるならいいよ」
「…………へ?」

十代は表情を固める。まさかここで自分がマヨネーズ鰹を食べることになるだなんて思ってなかったのだ。
そんな十代にヨハンはにっこりと笑って「異文化交流だな」と止めを刺すように言った。


――ヨハンの前にマヨネーズがたっぷり入った醤油の小皿が置かれ、十代の前には生卵と醤油が置かれている。

ヨハンは鰹にマヨネーズと醤油をたっぷりつけ、十代は温かいご飯に生卵をカシャリと割り落とすと醤油を垂らす。黄身を箸で潰し、どろりと流れた黄身を混ぜるとヨハンはうげぇ、と声をあげた。

そしてお互いのものを箸で差し出す。これなら逃げられないだろう、とヨハンが提案したのだ。それはもちろん、ヨハンも逃げられなくなるのだが。

「ヨハン、食え!」
「十代こそ!」
「……じゃあ同時に食べるぞ?」
「ああ!……せーのっ!」


ぱくっ。と二人がお互いの食べ物を口に含んだ。
そして箸を引き抜くと神妙な顔でもごもごと口を動かす。

「………うまい…」
「…………悪くないな」


お互いの言葉に顔を見合わせる。

「………ぷっ…」
「…っ…あははははっ!」
「十代、マヨネーズついてるぜ!」
「ヨハンだってご飯粒ついてるぜ!」










「……じゃあお互いに取り合う、か…?」
「だな!」

十代の問いに元気よく頷いたヨハンは身を乗り出すと、十代の口元についたマヨネーズをれろりと舐めとった。
同じように十代もヨハンの口元についた米粒をとると、今度はお互いにニヤリと笑った。



「「 ご ち そ う さ ま 」」






















あとがき


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