※ちょっとグロい











時計の短い針が10を指し始めた頃、ブルー寮のヨハンの部屋に十代はいた。レッド寮とは段違いにふかふかとしたベッドの上で、恋人であるヨハンの膝に座っている。

「十代は本当に可愛いなぁ……」

ヨハンがふわふわとした十代のツートーンカラーの髪の毛をゆっくりと撫でる。
十代はその行為に頬を桃色に染めた。その桃色は照れているからか、部屋が暑いからなのか、ヨハンにはわからなかったがどうだって良かった。
その色が何処から来るかなんて、どうでもいいことだ。ヨハンにとっては。


「好きだよ……」

「俺も大好きだぜ、ヨハン」


眼を見つめ、優しく微笑みながらヨハンは好意を口にする。恋人からの言葉に、十代は照れながらも腕をヨハンの首へと回し、応えた。
ちゅ、と小さくリップ音が響く。

十代からのキスを贈られたヨハンはぼんやりしながら十代を見つめている。

「可愛いな、ヨハンは」

「なっ…何言ってんだよっ…!」

「あはは!照れてるヨハンも可愛いぜ?じゃあ俺、シャワー浴びてくるから」

ケラケラ笑いながら、十代は浴室へと向かう。バタン、と浴室の扉が閉まる音を聞き届けたあと、ヨハンは大きく溜め息を吐いた。

「興奮するなぁ……」

ぽつりと言った言葉通り、ヨハンは酷く興奮していた。その証拠に股間が熱くなっている。
そして十代がキスをした時に見たヨハンの大好きなアレを思い出し、更に興奮する。

「やっぱり最高だぜ……十代の眼は」

橙と翠のオッド・アイ。十代がユベルと超融合して得たその瞳が、ヨハンは愛しくて仕方なかった。

ヨハンは十代のことは好きだ。親友として。
だが親友の瞳はもっと好きだ。愛してると言ってもいい。その瞳をいつでも見ていたくてヨハンはこうして親友の恋人になったのだ。
告白をしてより近くに、少しでも長く傍にいたいことを伝えると十代は意外にもあっさりと新しい関係を受け入れた。
そのおかげで、ヨハンは頻繁に十代のオッド・アイを見ることが出来ている。夕日のような橙も、純度の低いエメラルドのような翠も、全部近い位置で覗くことが出来る。
そしてヨハン以外にはこんな風にオッド・アイを見ることは出来ないのだ。ほとんど独占していると言ってもいい。

自分だけの、綺麗な宝物。


それはヨハンに優越感を与えてくれた。

だが困ったことに、すっかり虜になったヨハンはその宝物が欲しくて堪らなくなってしまった。

キラキラ光るその瞳を自分だけのものにしたい。確かに、ヨハンは近い位置にいるが本当に、一番近いのはあの瞳を持つ十代なのだ。

そうだ、十代は茶色の瞳を持っている。だからあのオッド・アイをもらったって平気なはずだ。
十代ならきっと、笑いながら許してくれる。ユベルも十代を愛しているから、きっと俺の気持ちを理解してくれる。

自分の都合のいいように考えたヨハンは、十代が浴室から出たら直ぐに眼をもらうことに決めた。


そしてヨハンにとっての問題はそのあとのことだった。


どのようにして十代から瞳を取り出すか。
あれだけ綺麗な瞳を傷つけずにどうやって取り出せばいいのだろう、とヨハンは悩んだ。


「手で引っ張って取り出す……いや、白目の部分が潰れちゃいそうだ…」

包丁、テーブルナイフ、ハサミなど……部屋にある刃物をベッドに置き、眺めてみるがいまいちピンと来ない。

「うーん………どれも眼を傷つけちゃいそうなんだよなぁ」

ぐるぐると部屋を回って使えそうな道具を探す。
そしてヨハンはデスクの上にあったデザインカッターと、キッチンにあったスープスプーンをとった。

「これならうまくいきそうだ」


ヨハンの考えた取り出し方はこうだ。まず、刃が小さく細いデザインカッターでゆっくり、丁寧に視神経を切り、周りから離していく。そしてそれをスプーンで掬うつもりだ。
デザインカッターは慎重に扱わなければならないが、スプーンなら傷もあまりつかないだろう。

そう決めて、ヨハンは右手にデザインカッターを持ち、左手にスープスプーンを持って浴室前に待機した。


「ヨハン?そこにいるのかー?」

「ああ!」

「わりぃ、ちょっと待っててくれよな!」

扉越しにヨハンの気配を察知したのか、十代が声をかける。
ヨハンはこの上ない程に興奮していた。あと少し。あと少しであの魅力的な瞳が自分のものになるんだ。
そう思うとデザインカッターを持つ右手にも力が入る。


ガチャ、と音を立てて扉が開くと十代が出てきた。どこにあったのか真っ赤なバスローブを巻き、パタパタと水を滴らせながら立っている。


「じゅう…だ、い……?」

「遅くなってごめんな」

そう言った十代はにっこり笑ったのかもしれなかった。口角があがっている。でも目はどうだろう?


十代の眼があったそこは、ぽっかりと空洞になっていた。電灯に照されて中の肉が見えている。そして真っ赤な血液をぐしゅぐしゅ噴き出したりどろどろと垂れ流していた。

バスローブが赤い理由がヨハンはわかった。だが、眼が無い理由がさっぱりわからなかった。


「な、なぁ……眼はどうしたんだよ十代…」

「眼?ああ…………自分で引っ張ってとった」

「随分と乱暴だな……。それでその眼はどこにあるんだよ」

「胃の中だぜ」

「は?」


十代が言ったことを理解出来ず、ヨハンはぽかん、と口を半開きにさせている。


「眼はとって、噛み砕いてから飲んだよ」

「な、んで………」

「だってヨハン、俺じゃなくて俺の眼を愛してたんだろ?」

俺でも嫉妬ぐらいするんだからな!
そう言って十代は拗ねたように唇を尖らせたが、ヨハンにはそんなもの見えていなかった。


「俺、ヨハンに愛される為に眼とひとつになったんだ。これなら、愛してくれるだろ……?」

「嘘、だろ………うそだ………」

「ヨハン?」


ヨハンの持っていたスープスプーンと、デザインカッターが手から滑り落ち、カシャン、という金属音が響く。
その音を頼りにしたのか十代がベタベタと血を引き摺りながらヨハンの元へ近づいていった。

ヨハンは動けなかった。動けない程必死に思案していた。この十代とあの眼は同じものだと言う。だが自分は“これ”を愛せるのだろうか、と。

思案しているうちに十代がヨハンの腕を真っ赤な手で掴んだ。
そしてぺたぺたと身体を触り、そのまま首、頬……目元へと辿り着く。


「悪いなヨハン、目が見えないからちょっと分けてくれよ」

ずぶっ、とヨハンの目に十代の指が入り込む。
それを感じてヨハンはようやくある確信をしたのだった。
























Amor ex oculis oriens in pectus cadit.
(愛は目から生まれ、胸に落ちる)
























あとがき


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