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パーティー料理はそりゃもう見事だった。
パエリア、フライドチキン、サラダ、ミートボールのトマト煮、皮つきフライドポテト……どれもめっちゃおいしそう!
デザートはゼリーだ。クリスマスカラーに生クリームとフルーツを盛りつけた、見た目もおしゃれで綺麗なやつ。

前に寒河江くんちで食べた料理よりもっとすごい!全然見習いってレベルじゃないんですけど!?
え、これほんとに会費内におさまってるの?
ちょっと心配になってお兄さんを見やると、彼は陽気な笑顔を見せた。

「予算オーバーした分はおっちゃんサンタからのプレゼントな。じゃ、俺は仕事行くから。あんまハメはずしすぎんなよーガキども」
「うっせ。いいから早く行けよ」
「あーあ、年寄りは邪魔者ってか?今時の若者ほんと怖いわぁ〜」

寒河江くんに肘で押されて泣き真似をしたお兄さんは、そんな雑な扱いもたいして気にしてないように欧米人っぽい仕草で両手を挙げた。お茶目な人だ。
みんなでお兄さんにお礼を言って彼と別れたあと、部員そろってテーブルを囲んだ。
発起人かつお祭り大好きな神林くんと須原くんが率先して会の進行をはじめた。

「はいはいはい、みんなお疲れっす〜。一人も欠けることなくよく集まってくれました!」
「そんじゃー腹も減ってることだしサクッといきますか。新部長!乾杯の挨拶よろ!」
「……おれ?」

須原くんにまっすぐ指をさされた由井くんは、これでもかってほど嫌そうに眉をひそめた。

「おーい、ンな顔すんなって。新部長の頼もしいとこをさ、スーザン先輩にビシッと見せてやれよ」

何故か急にこっちに話を振られて動揺した。別にそこまで無理しなくてもいいのに。

「あの、由井く……」
「えっと、それじゃあ一言」

軽く咳払いをした由井くんは、俺の制止も聞かずにその場で立ち上がって背筋を伸ばした。おお、やる気だ。しかし伸ばした俺の手の行き場がない!
由井くんはうっすら頬を染めつつも、冷えたジュースで満たされたコップを持ち上げた。

「今年は途中から部員も増え、うるさ……もとい賑やかながら、日々の部活動に取り組みました」

由井くんの改まったスピーチに、主にチャラ後輩たちから野次や指笛が起こる。
一年の青木くん、堤くんも小さく拍手をした。

「夏合宿、それから大舞台の文化祭と――色々なことがありました」

文化祭、と聞いて揶揄いの声が静かに止んだ。そうして全員が由井くんの言葉に耳を傾ける。
由井くんは言葉を切り少し俯いて黙ったあと、顔を上げてみんなを見回した。
俺と、そして最後に俺の隣に座る寒河江くんにピタリと視線を留める。
そうだね、本当に色々なことがあったよ。
特に文化祭は、由井くんにとって特に苦しい思いをしただろう。それらを全部、このメンバーで乗り越えたんだ。

「……それぞれ思うことはあるでしょうが、全員が存分に力を尽くしたと思います。みんな、お疲れさまでした。乾杯!」
「かんぱーい!」
「メリークリスマース!」

みんなが手当たり次第に紙コップを合わせる。俺も寒河江くんとポコンと乾いた音をたてた。
そこからはもう、普通に楽しいパーティーだった。
料理は見た目を裏切らない美味しさだった。しかも高校生男子十人の腹を満足させるボリューム。
腹がいっぱいになったらゲームがはじまった。気心知れたメンバーだからか誰かが変に仕切らずとも勝手にやりはじめる。
寒河江くんちのゲーム機でマリカーとか、誰かがもちこんだUNOとか人生ゲームとか。

最終的には全員で床に車座になってトランプで遊んだ。人数が多いから2セットを使って108枚のトランプで。
ダウトをやりながら、隣に座った由井くんに話しかける。

「あ、そういえば。先生に聞いたんだけどさ、来年の新歓で書道パフォーマンスやるんだって?」
「はい。文化祭でやったあれが好評だったおかげで」
「クラブ賞だもんね!」

先日、顧問の大沢先生から聞かされた朗報に俺は飛び上がって喜んだ。書道部が盛り上がってると聞いて嬉しくないわけがない。
ところが由井くんは誇るどころか顔つきを険しくした。

「それが、今まで文化祭以外でなんてやったことがないので、体育館でどういう形式でどんな段取りでやるかとか指示が来ないから全然話が進まないんですよ」
「新歓ってことは、えっと、生徒会だよね?」
「そうです。あいつらほんっと無能で……」
「ま、まあまあ。まだ全然日にちあるんだしそんなに焦らなくても、ね?やるのはやっぱ文化祭と同じやつ?」

訊くと、俺以外のみんなが微妙な表情で顔を見合わせた。

「やーそれはないっしょ」
「だって……なあ?」
「うん?」

池内くんと中丸くんがしたり顔で頷くので聞き返した。
すると、斜め前にいる寒河江くんから呆れたような声が上がった。

「文化祭のアレはセンパイ抜きでやる気ないっすよ、オレら」

きっぱりと言い切られた数瞬あとにようやく意味を理解して、頬が熱くなるとともにだらしなく緩んだ。
引退したし今はもうほとんど部室にも顔を出さなくなったけど、まだ書道部の一員だと言われたも同然だ。元部長冥利に尽きるというものである。

「え、あっ、そっか、そうなんだ、ええー……そっかぁ。うん!み、見れないのがめっちゃ残念だなー」

照れとか嬉しさでキョドりすぎてよく分からない返事をした俺に、須原くんがけらけらと笑う。

「スーザン先輩、別に残念がる必要なくね?」
「ん?えっ、なんで?」

笑い続ける須原くんに、神林くんが覆い被さるようにして緩いヘッドロックをかける。

「や〜、俺ら動画撮るんで、良かったらメッセかなんかで送りますーって意味です」
「あ、そっか。じゃあお願いしようかな!」

書道部のチャットグループは引退してすぐに俺だけ抜けたから、今は個別のアカウントからメッセージが届くといった具合だ。動画は寒河江くんあたりに頼もう。
ひそかにそんなことを考えているうちに俺の順番がきた。
「6」と言いながらカードを出したそのとき、小磯くんから「ダウト!」の声が上がった。

「うっ!あ、当たり……」
「よっしゃー!」

あともう少しで手札がなくなるはずだったのにカードが倍に増える。
せめて最下位にはなりたくない一心で、よりいっそう白熱した戦いに身を投じた。

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