イロハのクリスマス1


本編・番外編後のクリスマスSSです




「――そっち紙コップ足りてる?」
「大丈夫です。あ、でもフォーク来てないんですが……」
「あ、あ、僕、配るんで」
「うわぁ〜ひっろ!先輩んちってほんと広いっすね〜」
「広すぎて逆に不安……」
「ちょ、お前こっち寄りすぎ。暑っ苦しいわ」
「うっせ。お前が避けろや」
「おい暴れんなって。皿に埃入るじゃん」
「なぁエーちゃん、音楽とかテキトーに流していい?なぁなぁ〜エーちゃ〜ん?」
「――お前らちょっと静かにしろよ」

腕まくりした黒トップスにネイビーのエプロンを着けた寒河江くんから飛んできた苦情に、俺は咄嗟に口を閉じた。
でも黙ったのは俺だけで、他のみんなは文句なんて聞こえてないみたいに浮かれて騒いでる。

まあね、浮かれるなってほうが難しいよね。
だって書道部員集まってクリスマス会だもん!IN・寒河江くんち!


――事の起こりは数日前、二学期の期末テスト直前のことだ。
迫り来るテストとその勉強に嫌気が差したチャラ後輩の面々がこの会を計画して、どうせなら書道部全員集まるかって話になったそうだ。
が、しかし、冬休みに入るとうちの学校の文化部の大半は特に活動がないので、部室の鍵を学校に返す決まりになっている。
我らが書道部もそれで、部室でクリパという計画はあえなく頓挫。
だったら、寒河江くんちなら部員全員入れるキャパあるし駅からバスで行けるしちょうどいいんじゃないかということで、こういうことになったそうな。

そして引退したはずの俺が何故ここにいるのかというと――普通に後輩たちに誘われたからである。

もうね、そんなの喜んで参加するに決まってるじゃん!?
ちなみにクラスの友達連中は、この時期に遊ぶのはちょっと……って感じで誰も声を上げなかったし、心の友・古屋はまゆちゃんとこっそりデート。
というわけでクリスマスイブの今日、昼前に書道ボーイズ十人が寒河江くんの家に集まった。

プレゼント交換はしないかわりに一人千五百円の会費制。場所提供の寒河江くんはもちろん会費なし。
その家主の寒河江くんから注意されたもんだから、すごく申し訳なく思った。

「ご、ごめんね寒河江くん……」
「あーいや、センパイには言ってないんで」

俺が肩を落として謝ると寒河江くんは苦笑いを浮かべて、神林くんたち二年のチャラ友達を「アイツらのほうです」と親指で指した。
スタイリッシュなウェイタースタイルの彼は、何枚か重なった皿をテーブルに置いた。

「で、でもほら、ご近所さんのご迷惑になっちゃうからさ。みんな、できるだけ静かにしようね!」

みんなを見回しつつ弱腰で注意すると、「はーい」と素直な返事が返ってきた。
すると隣から、俺と一緒にテーブルセッティングをしていた由井くんから強い視線を感じた。

「あ、ごめん由井くん。俺もう部長じゃないのに仕切っちゃって」
「全然謝ることないです!むしろなんか……ちょっと懐かしい感じがして」

由井くんの向かいにいた小磯くんも笑顔でうんうんと頷いた。
たしかに。どうもこのメンツが揃うと部長だったときの癖が抜けないんだよな。
だが今はもう由井くんが部長なんだから抑えないと。

「それよりその、本当に大丈夫でしたか?受験控えてて忙しい時期なのにすみません、ぶちょ……先輩」
「大丈夫だって!一日くらい息抜き息抜き!それに今日は――」
「?」

言いかけて慌てて口を噤む。
由井くんが可愛らしく首を傾げるさまに癒されつつも、「なんでもないよ」と笑ってごまかした。

「おーおーガキども、ガキらしくはしゃいでるかぁ?」

野太いしゃがれ声がして、ハッとしてそっちに目を向けた。
ツーブロックのドレッドヘアを後ろできっちり結って、両腕にタトゥーと耳や顔にピアスがいっぱいついてるワイルドな大男がキッチンから出てきた。
怖そうな輩というよりは、どっちかっていうと陽気なラテン系って感じだ。
――そう。何を隠そうこれが例の、寒河江くんのイトコのお兄さんである。

「おらヒサ、ボーっとしてねーでキリキリ働けや」
「うっせーな。わかってるって」

顔をしかめてお兄さんにうざったそうな態度を見せた寒河江くんだけど、二人が仲良しなのはもう十分に知ってる。
今日初めて会ったときはさすがにめっちゃ驚いたけどね。ぶっちゃけ見た目にビビりました。

お兄さんは寒河江くんのバイト先であるレストランの料理人見習いで、今日は彼がパーティー料理を作ってくれる。
見習いでまだ修行中ということもあって、この金額でオッケーということらしい。ほぼ材料費。ありがたいけどほんとにいいの?

「キーさん俺らも手伝うっす!」
「おう、どんどん運べ。もう料理はあらかたできてっからな」

神林くんと須原くんが嬉しそうにお兄さんにまとわりつく。この二人もお兄さんとは前からの知り合いなんだって。
ちなみに『キーさん』っていうのはアダ名で本名はモトカズさん。『基一』という漢字を神林くんが『き〜』と読んだせいで定着したアダ名だそうだ。
エーちゃんとキーさん。うむ、並べてみるとなかなか耳通りがいいじゃないか。

内心なんとなく満足していると、お兄さんが何故か俺の顔をじっと覗き込んできた。

「……あっ、お、俺もやります!」
「いーって。受験生は座ってな」

お兄さんはそう言って白い歯を見せてニカッと気さくに笑った。
寒河江くんとは全然似てないけど、彼が懐く気持ちは分かる。目が優しいんだよね、すごく。
あと無人島でもサバイバル生活できそうな強靭さを感じる。めっちゃ頼もしそう。
お兄さんにあんまりにもじろじろ見られるから、若干の居心地悪さを感じて目を泳がせた。

「な、なにか?」
「……いんや。ヒサと仲良くしてやってな」

口角をニィィと両側にめいっぱい持ち上げたお兄さんは、俺の背中を何度か軽く叩いた。
仲良く?なんで俺にそんなことを言うんだろう?な、仲悪そうに見えたのかな……。
お兄さんに叩かれた箇所が妙にむず痒く感じて、ただ座ってるのも落ち着かないから結局みんなと一緒に手伝った。

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