息もできない


※ただラブラブしてる二人です


俺は、ものすごく急いでいた。
――何故かって、見たいドラマがあるのにまだ学園内にいるからだよ!

普段は部活が終わるくらいの時間に委員会も終わるはずなんだが、ペンを握ったまま器用に居眠りしてたせいでこんな時間になってしまった。
田中先輩もミネ君も「今日の志賀君は熱心にやってるなー」としか思わないくらい、バリバリ監査をこなしてるっぽいスタイルで寝てたらしい俺、すげえ。すげーけど自慢にならない。
俺の居眠りの原因は、昨日、滝から借りた海外ドラマシリーズのDVDを徹夜で見てたからだ。
クッソ、なんでシーズン8まであるんだよ!続きが気になるだろーが!

そんなわけで、期限間近の書類を持って慌てて暗くなってきた校内を走る。
うまくすればこの時間でも生徒会室に誰かがいるはずだ。補佐とか、執行部の誰かが。
もうさっさと任務を終わらせて寮に帰ってDVDの続きを見たい。

生徒会室のある特別棟に着たあとは親衛隊門番の誰かに監査書類を渡すつもりでいたのに、今日に限って誰もいなかった。
ドア前に誰もいないイコール中も無人ってことじゃねえか、これ。
それでも中の灯りはついてるっぽかったから一応ノックしてみた。親衛隊門番はみんな便所に行ってて不在なのかもしれないし。

「はぁい。どーぞー入ってー」

生徒会室の中から聞こえてきた間延びした声を聞いたら一気に脱力した。
ドアを開けると、デスクに頬杖をついてニヤニヤしてる仁科がこっちを見ていた。

「いらっしゃい志賀ちゃん!」
「お前かよ……」
「えっ、ひどくない?もぉ、書類待ちでこんな時間までわざわざ残ってたのにー」
「他のヤツに任せりゃよかっただろ」
「ふふ、きっと志賀ちゃんが来ると思って」

それくらい分かってよ、と仁科が笑う。

「じゃ、書類ちょーだい」
「あ、ああ、ワリ」

仁科に近づいて、端っこにしわが寄った書類――居眠りしてるときにぐしゃっとやっちゃったのを必死で伸ばした――を差し出す。
すると、手首をがっちり掴まれた。

「……なんだよ」
「なんだよはコッチの台詞ー。なに最近俺から逃げてんの?」
「に、逃げてません」

言いながらつい目が泳ぐ。
ふーん、とか、へー、とかわざとらしい相槌が仁科から聞こえてきた。

「俺からの連絡全部ブッチしといて?そんなに俺と二人っきりになんのイヤかな〜?」
「そういうわけじゃ……」

ないんですけどね。ただ色々まずいんですよね。今もほら、変な汗かいちゃってるし。
なんていうか、仁科のこと好きだなと思うと直面できないんだよ、こういう状況。もー俺、超純情。超乙女。やることやってんのに全然慣れないんだよな。
このチャラ男には大和撫子もびっくりな俺の奥ゆかしさを理解して欲しい。
ただでさえ自分の恋愛事には臆病になるきらいがある俺ですから、あんまり好きなヤツと素直にイチャつけないというか。

「……悪い。無視してたわけじゃねーんだけど、えっと……」
「まぁ、いいけど。もぉ、それにしたってちょっとくらい反応してよー。俺、マジヘコみしたから」
「悪かったって」

たしかに悪かったとは思うが、それにしたって怒涛のラブメールにどういう顔して返せばいいんだよ。普通に恥ずかしいからな。
地味にテンパってる俺に対して、仁科は椅子から立ち上がってゆるく腰を抱いてきた。

「悪いと思ってるならちゅーして」
「……お、おお」

んー、とキス待ち顔する仁科が、お前鏡の前で練習したの?って言いたくなるほどパーフェクトだ。これ、写真撮って親衛隊員にでも流したら失神者続出だろう。

あのな、何度でも言うがこういうラブラブっぽいのダメなんだって、俺。全身かゆくてムズムズする。
しかしこんな事態を招いたのも他ならぬ俺自身であるからして――ああもうやってやるよ!
仁科のお綺麗な顔を両手で掴んで引き寄せ、かるーくキスをする。もちろん唇に。

「……なぁに、今の」
「ちゅ、ちゅーです。お気に召しませんでしたか」
「ちゅーですか。へぇ〜……。……志賀ちゃんチョーかわいい!」
「えっ!えっ!?」

ぎゅうっと仁科に抱きしめられる。
苦しい!苦しいって!あとなんか妙に硬いのが腰に当たってる!


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