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「んーと……それはまあわかったから、そろそろシャワー浴びてきたら?俺、今日予定あるからそんなに時間ないんだよね、ごめん」
「あ、そ、そうですよね……ごめんなさい」

ぽっと頬を染めて天羽君が握った手を解く。着替えは必要なさそうだったからタオルだけ渡して浴室に案内する。
やがてシャワーの音が聞こえてきて、俺は汚れた食器を片付け始めた。

皿を洗っているとピンポンとインターフォンが鳴った。
こんな朝方に誰だろ。宅配便はないはずだし、まさか大家さん?
はいはいそんなに何度もピンポンピンポンしないで今出るから……と泡のついた手を洗っていると、ガチャガチャ、ガッチャン!と鍵が開いた。なんですと?
呆然と玄関の方を見ていると、寝癖髪を振り乱して息を切らした紘人が部屋に飛び込んできた。

「え、あれ、紘人!?どしたのこんな時間に」
「透!」

俺の名を叫びながら抱きついてくる紘人。ううんいい匂い……じゃなくて、なんでここに?

「あれ、俺、昨日昼にそっち行くって言ったよね?あれ?」
「そうだが……電、話……!」

電話?
紘人が言いたいことがわからなくて首を傾げる。ていうかどうしてちょっと泣きそうになってるんですか紘人さん。

「紘人、何かあった?つか、どうしてそんな顔してるの?え、俺何かやらかしちゃった?」

聞いても何も言わずに俺の肩に顔を埋めてくる紘人。本気でわけがわからない。よく見たらパジャマの上に薄手のウールコートを羽織っただけの姿だし。
俺は落ち着かせるようによしよしと寝癖のついた髪を梳いた。

「とりあえず落ち着いて。何があったか教えて?ね?」
「と、透……」

いやいやと首を振る紘人。ダメだこりゃ。でもそんな姿もマジで可愛い。やっぱ昨夜は一緒に寝たかったな。
なんて紘人を抱きしめながら幸せに浸ってるとバスルームの扉が開いた。
……あ、忘れてた。天羽君がいたんだった。
離れたほうがいいよなーと思いながら紘人を見下ろしたけど、珍しく離れる気配がなかった。
んん?本当にどうしちゃったの紘人さん?

「あれ、トオルさんその人……」
「あーなんかごめんね朝から。ほら、昨日言ってた俺の彼氏さん」
「へえ……」

天羽君の声が低くなる。その声に、紘人がおそるおそる顔を上げて天羽君を見た。そしてなんだか「絶望!」って顔をする。対して天羽君はそんな紘人を見て余裕の笑みを浮かべた。
紘人が俺の服をぎゅっと強く握ってくる。
えっ、なにこの修羅場の空気。俺、何もしてないよね?……ね!?

「あー……その、紘人?昨夜電話で話したでしょ、バイトの後輩の天羽君。彼、未成年なのに仲間の誰かが酒飲ませて気分悪くしちゃってさ、それで俺の家に泊まらせたの。で、天羽君。この人は俺の恋人のー、松浦さん」

この紹介って、なんか恥ずかしい。つーか紹介する流れだよね?俺間違ってないよね……。この場に流れる空気がおかしくて自信がなくなってきた。

「そうなんですか……初めまして、松浦さん?」
「あ、ああ、どうも……」
「てか天羽君、彼、一般の社会人さんだからあんま他で言いふらさないでね?迷惑かかっちゃうから」
「はぁい」

おいおいなにその小生意気な態度。さっきまでと全然違うんですけど!素直な天羽君はどこへ行ったの!?

「じゃあ、お邪魔みたいなんで僕これで帰りますね」
「体調は大丈夫?」
「はい、おかげでもうすっかり。昨夜はすっごく良くしてくれて、ありがとうございました」
「や、別に普通だけど……」

なんだかなー、なんとなくわざとねっとりとした甘い声を作って言ってる気がする。しかも紘人に向かって。
天羽君の挑戦的な態度に紘人が不機嫌になってる。俺の知らないところで何かあったわけ?まさか知り合いとか言わないよね?
見送ろうにも紘人がくっついてて動けなかったから、その場で天羽君に別れを告げた。


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