10


セックス後はまったりピロートーク――と思ってたのに、シャワー浴びたら俺も紘人も爆睡してしまった。
そして、夢も見ないくらい深く眠ってたのにふと目が覚めた。
唸りながら手探りで隣を確かめると、紘人はちゃんとそこにいた。

「透?」
「んー……」
「もしかして起こしてしまったか。すまない」
「へーき。……つか、あんたずっと起きてたの?」
「ずっとじゃない。さっき目が覚めてな」

枕元に置いたスマホで時間を確認すると夜中の三時だった。紘人はベッドの中にいるものの、上半身を起こして膝の上でノートパソコンを開いてる。

「なーに、仕事?」
「いや……ただの調べ物だ」
「ふーん?」

あくびをしながらベッドにうつ伏せになる。この広いベッドで二人で寝る習慣が付いてから、紘人の匂いがずいぶんと薄れたと思う。
薄れたっていうか、ただ単に嗅ぎ慣れたのか、それとも俺の匂いが移ったのか。
こうやってだんだんと生活臭っていうの?そういうものが同じになっていくのかな。
誰かと一緒に暮らすのなんて家族以外に初めての経験だから、日々気付かされることがたくさんある。今までの彼女とは同棲とかそういうことは一切しなかったから。

「……あーあ、もっと早く紘人と会ってたらなぁ」
「どうしたんだ、急に」
「なんとなく思っただけ。まあ早く会ってても、歳がずれてるから同じ学校とか無理なのは残念だけど」

紘人がノートパソコンを閉じてナイトテーブルの上に置いた。

「僕は今で良かったと思ってるが」
「えー……そう?」
「ああ。これでもずいぶんとましになったほうだから。たぶん、昔の僕だったらきみと目も合わせられなかったと思う」
「そんなに?うっわ、余計気になるじゃん!うーん……もし同じ学校だったら先輩な紘人に『こら、秋葉!』って言われてみたかったなぁ」
「どうして僕が怒る前提なんだ――、あ」
「ん?」

ブルーの瞳が俺を見つめる。澄んだ青は、仄暗い室内でも透明感を失わない。
紘人はどうも明るい所が苦手みたいで、家では間接照明や暗めのトーンの照明で過ごしている。逆に言うと、暗い場所での視界は利くらしい。
つまり、この薄暗い場所でも俺のことは良く見えるってことだ。

「そういえば、きみは姓で呼ばれるのが苦手だって言っていたが」
「あーそれ?つか、よく覚えてたねぇ」

出会った当初に言ったちょっとしたことを、紘人は記憶していてくれたらしい。

「ごめんそれ、たいした理由ないんだよね。中学ん時にアキバ繋がりでオタクとかメイドとかいっていじられたってだけだから」
「そ、そうなのか?」
「微妙な年頃だったしそーやっていじられるの当時はすごく嫌でさ。今は全然気にならないし、いじられネタのひとつって感じだけど。でも嫌な記憶は残ってるからそんなに好きじゃないよね」

あのもやもやした重苦しい感情は未だに、俺の中の、少しの部分を占めている。その最たる理由は、俺のやや特殊な家庭事情による。

「――それでさ、隠すようなことじゃないから言うけど、俺って……秋葉家の養子なんだよね」
「え?」
「両親と血が繋がってないの。だから、こんな名字の家に引き取られたことをその当時は恨んだりしたわけ」

紘人が黙ってしまう。極力明るく話したつもりだったけどやっぱり気にしちゃったかな?
家族構成なんかは出会ったその日に世間話として打ち明けたけど、これを言うのは初めてだった。
物心つく前に秋葉家に養子として引き取られたから、俺も普段は忘れてるくらい家族として全然違和感はないんだけど。

「ていうか、紘人にあの時そう言ったのは、どっちかっていうとあんたと仲良くなりたくて名前呼びしてほしかったってのが大きいかな」
「……そうか」

あの時の紘人可愛かったよなぁ。カフェでぎこちなく「透」って呼んでくれたあの時ね。
込み上がる愛おしさに突き動かされるように、起き上がって紘人の唇に軽くキスをした。

「恨んだっつっても今も昔も家族仲は悪くないし、秋葉家が嫌いってわけじゃないよ」
「それは何よりだ」
「うん。……あっ、そうだ。今度俺の実家に行く?都会でも田舎でもない中途半端なとこだから、行ってもつまんないと思うけど」

ついさらっと言っちゃったけど恋人を連れて帰省だなんてものすごい特別感があるよな。さすがに紘人とのことを家族にいきなりカミングアウトなんてできないけど、俺の大事な人には変わりないし。
言ったあとで少し照れ臭く、そして恥ずかしくなった。紘人にもそれが伝わったみたいで彼が目を細めた。その微笑ましいものを見るような表情に、年上の余裕みたいなものが感じられた。

むずがゆい感覚を誤魔化すようにもう一度キスをする。すると紘人の唇が俺を受け入れるように緩み、体を寄せてきた。
もっと密着するよう軽く抱き寄せて、触れるだけのくすぐったいキスを何度か重ねる。
どちらともなく唇が離れると、頬を上気させた紘人が甘く囁いた。

「そのうちに、行こう」

きみの生まれ育った場所に。
そう言って、紘人は見蕩れるくらい綺麗な笑顔を浮かべた。



end.


prev / next

←back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -