俺とあの人と少年・紘人side


僕の恋人である透は、とても格好良いと思う。惚気ではなく本気でそう思っている。
ただ見目がいいだけじゃない、中身もそれに伴っていて、人に好まれる要素を併せ持っているという実によく出来た青年だ。

僕以外の人間から大いに好かれることは自然なことだろう。だからといってそれを許容できるかというと、僕のような狭量な性格ではなかなか難しい。
けれど恋人付き合いをしはじめて指折り数えられるほどに月日が経つにつれ、僕もだんだんと余裕のようなものが生まれてきていた。

余裕がある――結局は、そう思い込んでいただけだったのだが。





『打ち上げに行ってくる』とメール連絡が入ったのは仕事中のことだった。
透は撮影のある日はだいたい飲み会に行くので、連絡が来ることに対し僕もあらかじめ心構えが出来ていた。
そのうえで『了解』とひとこと返信しておく、それはいつものやりとりだった。

夕飯を外食で済ませ帰宅した僕は、寝る支度を整えたあとに先日発売されたばかりの雑誌を本棚から取り出した。
透が読者モデルとして載っているのはSOnnEという雑誌だ。透はただのバイトだと言っているが、こうして見ると他のモデルと引けを取らないほどに堂に入っている。

つるりとした透の小さなカラー写真を撫でる。
ここに写っている彼と恋人同士だなんて、未だに不思議な思いに駆られる。

「……おやすみ」

写真の透に軽く口付けてベッドに潜り込んだ。
透には秘密だが、これは僕の習慣のようなものだった。彼がいないときはこうしてつい写真に語りかけてしまう。キスをするのは――稀なことだが。



寝入ってしばらくしたあと不意に目が覚めた。着信があったからだ。
それは透からで、モデル業の後輩が酔いつぶれてしまったという話をされ、ぼうっとしながら頷いた。今日はこっちに来ないのかと、それだけ理解してまた眠りに就く。

次に覚醒したときはすでに朝だった。
目が覚めても隣に透がいなかったので少し混乱したが、昨夜の電話を思い出して起き上がった。

たしか昨夜、透は自宅で寝るから僕の家に来ないと言っていた。そして……それから?

会話内容をほとんど覚えていないという失態に落胆する。
慌ててスマホの通話記録を確認すると、やはり夜中に透から着信がありしっかりと応答していた。
まだ時間は早かったがいつもの彼ならもう起きて活動しているだろうと思い、何も考えずに電話をかけた。

――僕はすっかりと失念していたのだ。
何故、透が自宅に戻ったのかというその理由。そして透の家にいる『もう一人』の存在を。

「おはよう、透。僕だ。昨夜の電話は寝惚けていたせいで、会話にならなくてすまなかったな」

コール音が切れたので僕はいつものように朝の挨拶をして話し始めた。
通話口の向こうは透が当たり前にいて、あの明るく涼しげな声で返答があるものだと思っていた。
けれどそれは裏切られ、聞いたことのない男性の――いや、少年のような若々しい声が返ってきたのだった。

『おはようございます』
「あっ……!す、すみません、掛け間違えを」
『間違ってませんよ。トオルさんの電話で合ってます』

透さん、と少年の声が甘やかな声音で呼ぶ。その瞬間、耳の奥がざわめいたような気がして耳に付けていた受話口を少し離した。

「……彼は……秋葉君に、何かあったんでしょうか」
『トオルさんですか?今シャワー浴びてますよ』
「そう……ですか」

朝、透が出かける前にシャワーを浴びるのはよくあることだ。なのに、それだけのことで少年が透の代わりに電話に出るというのは、どういうことなのだろう。
僕がそう思ったのが伝わったのかどうか、少年はくすりと軽く笑った。

『昨夜、僕、トオルさんにお世話になっちゃったんです』
「は、はぁ……」
『すっごく丁寧に、優しくしてくれて……トオルさんって、見た目よりいいカラダしてますよね?』
「…………」
『抱きしめられると着痩せしてるのがよくわかるっていうか』

ぷつん、と通話が切れた。
……そうじゃない。切ったんだ、僕が自分の手で。

無意識の行動というのは恐ろしい。気が付くと僕は車のハンドルを握っており、アクセルを踏んでいた。


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