想い募る


ジンイェンはこれまで多くの女性と褥を共にしてきた。
恋をすることもあれば行きずりの一夜ということもあった。

一方で、どんなに見目が良くてもジンイェンにとって男は性愛の対象外だったのだ。
それなのにエリオットにはその衝動が抑えられなかった。

エリオットに龍の指輪を預けたのは、自分とは関係のない見るからに身分のありそうな強力な魔法使のもとにあれば安全だと思ったからだった。
頭の回転も速そうだったので余計に好都合だった。

エリオットと出会ったあと、彼の素性を調べるのは容易いことであった。まさに箱入り息子といった生い立ちで、付け入りやすいと思った。
しかし、彼の無愛想な表情や頑なな態度が崩れるたびにジンイェンは当初の目的を忘れ知らず惹かれていった。

初めてエリオットに口付けた夜、ジンイェンは自分の行動が信じられなかった。けれど、涙を流すエリオットのことを愛おしいとはっきり思ったのは確かだ。
エリオットにキスをしてしまってから、引き返せないところまできていると自覚した。だから居心地の良かった彼の家を出たのだ。
彼と自分とは住む世界が違いすぎる。いずれ必ず彼を困らせてしまう、と。

ところが深みに嵌まる前に自ら離れることに決めた直後、浮き足立ったせいかロウロウ一味に捕まってしまうという不首尾を犯してしまった。
それなのにエリオットは助けてくれた。不甲斐ない自分のせいで拉致され家を荒らされひどい目に遭ったというのに、それでも手を差し伸べてくれたのだ。
彼は絶対に言わないが、自分を助けるために自身にかなりの犠牲を払ってまで。

狩猟者を倦厭していたようだったのに、その狩猟者と約束をしてきたというのにもかなり驚かされた。――それを聞いて、初めて焦りが生じた。

今まではエリオットの境遇を哀れんで決して強硬手段になど出ない人間に囲まれた環境だったのだろうが、事情を知らぬ狩猟者はそうはいかない。
エリオット自身はいまいち自覚がないようだが、彼の美貌は同性をも狂わせる。
おそらく幼い頃から容姿に関する賛辞は嫌と言うほど聞かされているだろうし、自分の姿に見慣れすぎているせいでそういった実感が湧かないのだろう。

出会った当初からは考えられないほどエリオットは色々な表情を見せてくれるようになった。彼の笑顔は、本当に「見惚れる」という表現がぴったりだ。
純粋な彼は、冷たい仮面が剥がれ落ちてしまえばその行動がいちいち可愛らしい。おまけにジンイェンを体を張って救い出すほどの男気もある。
彼は魅力的過ぎる。何故これまで無事でいられたのか不思議なほどだ。

だからこそ狩猟者に混じることなど言語道断だった。なかには節度を知らない粗野な輩も多いからなおさらだ。
エリオットは斡旋所でのボードンとの一件を語らなかったが、ジンイェンの耳にはすでに届いていた。さっそく目を付けられたのだと人伝に聞いて心中穏やかではなかったのだ。

今まで恋愛事はうまくこなしてきたと思っていたジンイェンだが、ことエリオットに関しては全く自信が持てなかった。
クロードという男と彼が親しげにしている場面を見て目の前が真っ赤になるほどに冷静を欠いている。

愛情なのか、それとも子供染みた独占欲なのか気持ちの在り処が判然としない。
慈しみたいと思う反面、自分のこと以外考えられないように手酷く穢してしまいたいとも思う。
どちらにせよ、エリオットを手放す気などもう欠片もなかった。
出会ってから日が浅かろうがそんなことはどうでもいい。エリオットという人を、知ってしまったのだから。



だから話す。隠したり欺いたりせずに、彼の誠実さに応えようと思う。
――たとえ己の身を危険に晒すことになろうとも。



prev / next

←back


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -