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部活後は、下校途中で寒河江くんがリア充仲間らしいイケメン数人と遭遇したことで、そのまま彼らと一緒に遊びに行ってしまった。
俺と二人きりになって途端に無口になってしまう由井くん。しかし今日の俺には由井くんが饒舌になるはずの話題があるから安心だ。

「なあ由井くん、どう?寒河江くんは」
「…………」

すぐに話題に乗ってくるかと思ったら、由井くんはキュッとしかめっ面になった。そんな顔してても可愛いんだけど。
しばらくしてから小さく息を吐いて口を開いた。

「……どうもこうも……最悪です」
「さ、最悪かぁ」
「全然、やる気とかないですし」
「ええ?真面目にやってるように見えたけど?」
「部長……どうしてあいつの入部を許可しちゃったんですか」
「きょ、拒否する理由もないよね」

来るもの拒まず去るもの追わずが我が部のモットーだ。ただ、来るものが少なすぎて閑散とした部になってしまったのは由々しき問題である。

「静かで集中できる部活だったのに……」
「な……なんかごめんね……」
「あっ!す、すみません、部長のせいじゃないですから!」

慌てて謝ってきた由井くんには悪いが、寒河江くんが書道部に来た理由からして完全に俺のせいだ。
しかしこれ以上恥はさらしたくないのでそんなことまで言えるはずもなく、笑って濁した。

「と、友達と一緒なら楽しいかと思ったんだけど、そうでもなかったみたいだね」
「うるさいだけですよ。あいつほんと、何も分かってない」

同じ二年の小磯くんは由井くんとはクラスが離れてるし、二人の関係は友達っていうより部活だけの仲間って感じ。
残りの部員は一年だから、友達同士の活動で賑やかになるだろうという俺の目論見は見事に外れたようだ。すんごい迷惑がられてる。

「そうだね、うん、由井くんも自分の練習あるし大変だよね?なんだったら寒河江くんの面倒は俺が見るよ!」
「駄目です」

即座の否定に俺の意気込みがすかっと空振りした。
そりゃあ頼りない先輩だけど一応部長だし、新入部員を導く役目が俺に課せられていると言っても過言ではない!――と、格好良く言うはずが、どうしようもなく及び腰の俺は弱気に返すことしか出来なかった。

「え、えー……でも、俺でもそれくらいできると思うよ……はず、たぶん……」
「そんなこと、あいつにはもったいないです」
「も、もったいぶるようなことじゃないような……」
「とにかくそれは駄目です」

きっぱりと言い切られて俺の口が閉じた。
由井くん、友達の面倒は自分で見たいタイプなのかな。なんてったってクラス委員長だしな。それならこれ以上しゃしゃり出るのはお門違いってもんだ。

「わ、わかった、うん。でもなるべく仲良くやろうよ、ね?」
「……すみませんでした、変なこと言って」

とりあえず由井くんがなかなか頑固な性格をしているということはわかった。今まで彼は温和な子だと思っていたけれど、譲れない確固たる何かがあるようだ。
由井くんと別れてバス待ちしてる間、メアドを交換したばかりの寒河江くんから早速メールが届いた。
――『来週の日曜に予約入れておきました』。その一文の下には詳しい日時と、件の美容院のホームページアドレスが添付されている隙のなさ。
寒河江くん、仕事早すぎ!!





翌日の金曜日、またまた一番乗りで寒河江くんが部室の外で待っていた。
俺が来たことに気づいたようで、彼はそれまでいじっていたスマホをポケットにしまいこんだ。

「やあ寒河江くん!昨日はありがとう!逃げ場のない仕事の早さに感服した!」
「あの美容院すぐ予約埋まっちゃうんで、早めに押さえておきたかったんすよ」

喋りながら、ふわ、と大きな欠伸をする寒河江くん。やたらとダルそうにしている。

「お、寒河江くん寝不足?」
「……きのー夜中まで動画とか見てたんで」
「へー、どういうの?」
「ネタ動画とか実況とか色々。見始めたら止まらなくなっちゃって……」

そう言ってまたでかい欠伸。だけど部室に入ったら部長の椅子に座るのは忘れない寒河江くん。
ふふふ、まだ気付いてないか寒河江くん?俺が、昨日までの俺とは違うことに!
寒河江くんの近くに座り、思いきり顔を近づけてみた。

「……なんですかニヤニヤして……」
「これですよこれ!どうかな!?」

我慢できなくなった俺は自ら前髪を上げ、額をあらわにした。
実は昨夜、コンビニで毛抜きを買ってきて眉毛を自分なりに整えてみたのだ。鏡を見ながらプチプチと。痛かったけど人にやってもらうより痛みは少なかった気がする。
俺の額あたりを見て寒河江くんの眠そうだった目がパチッと開いた。どうだ驚いたか!

「……まさか自分でやったんですか?」
「うん、そう!どーかな!?やってもらうだけじゃなくて、俺もできることからって思って――」
「アホ」

シンプルな罵倒がグサリと俺を突き刺した。
変だな。予想では寒河江くんが俺をベタ誉めするはずだったのに、聞こえてきたのは間逆の言葉。

「け、結構良く出来たと思うんだけど……」
「このアホセンパイ。慣れてないのに自分でやると左右バラバラでいびつになっちゃうんですよ。つーか毛ぇ抜きすぎ」
「なんと!?」
「あーぁもう、最初の整え方が肝心なのに……バーカ。超ウルトラアホ」

呆れと蔑みが入り混じった寒河江くんの表情に更に打ちのめされる。
そうか、左右のバランスなんて考えてなかった。片目ずつ鏡を近づけてやったから全然気にもしてなかったよ。

「眉細くしすぎるとヤンキーかホストになりますよ」
「そ、そんな、ある意味俺から最もかけ離れた人種に……」
「例えですよ例え。……ホント、しょーがねえな」

畳み掛けるような罵りを覚悟していたが、寒河江くんはそれ以上何も言わず、カバンから銀色の棒状のものを取り出した。大きさはシャーペンと同じくらいだけど、太筆くらいの太さがある。
そして一昨日みたいに俺の前髪をピンで留めたあと、彼は棒のキャップ?をはずした。

「さ、寒河江くん、その……それは何かな?」
「眉シェーバー」
「ちょっと待て!そんなものがあるなら、わざわざ毛抜きで痛い思いしなくて済んだんじゃないの!?」

何故目を逸らす寒河江くんこの野郎!
シェーバーってことは電動眉毛剃りってことじゃないか。あと刃物っぽくないからはさみより断然怖くない。
釈然としないものはありつつも、俺のために色々考えてくれる寒河江くんにそれ以上文句も言えなくて軽く呻くだけに止めた。


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