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それにしてもこの倉庫あっちーな。
陰になってるところはそうでもないけど、窓辺に来たら日当たり良すぎて汗が浮くほど暑い。
袖をまくって汗の張り付いた前髪をかきあげた。

「んで、今日のいつまでなんです?銃出すの」
「まあ放課後がギリ最後だな」
「じゃあ陸上部から一丁借りて一時しのぎしといたらどうですか。そんで体育祭までにゆっくり探せばいいんじゃないすか」

俺がそう言うと清水は「それだ!」っていう顔をして俺を指差してきた。

指差しされると気分悪いからその指を跳ね除ける。しかし清水は満面の笑顔を絶やさない。

「おまっ、マジ天才!」
「どーも」
「じゃ、頼むわ!」
「はっ?俺?なんで?先生が行けよ。あんたの問題だろ!」
「だって俺より志賀の方が顔利くだろ?陸上部のヤンキーどもこえーもん」
「……ホストが良く言う」
「あ?なんか言ったか?」

低い声で凄みながらジロリと清水が睨んでくる。あんたの方がよっぽどヤンキーですけど。

脅したりそそのかしたり、本当にこの人教師?
今まで関わらなかった俺の危機回避能力すげぇ。出来れば卒業まで関わりたくなかった。

「はいはいわかりましたよ。その代わり俺も暇じゃないんでこういうのはこれっきりにしてくださいよ」
「おっけーおっけー。志賀君マジ愛してる!」
「うわっ……」
「アッハハハハ!いーねーその嫌そうな顔!」

清水が煙草を携帯灰皿に押し込みながら笑う。この人笑うと眉がハの字になるとか、器用な顔芸するなぁ。
感心しながら見てると、清水がふと笑いを引っ込めて俺に顔を近づけた。

「……なんすか?」
「お前、マジでいーわ」
「何が?」
「俺のこと嫌いだろ」
「…………」

嫌いというかぶっちゃけ苦手なタイプだなとは思う。ちょっと話しただけでも性格が合う気が全くしない。

俺の無言をどう受け取ったのか、清水はニヤニヤ笑いながらヤニ臭い吐息をふぅっと吹きかけてきた。

「そーいうの、すっげぇそそられる」
「うわぁ……うわぁ」
「ハイ引いたー。反応が素直でよろしい」

言いながら清水が俺の顎を指先で掴んだ。わりとガチで痛いんだけどどんだけ力込めてんの?

そのままキスしてこようとしたから俺は慌てて手で自分の口を塞いだ。
清水が俺の手の甲にブチュッとキスする形になって眉を顰めた。気持ちわる。

「……ん、あれ、なんでガードしてんの?」
「言ったでしょ、誰彼構わずってわけじゃねーって」
「あっれーそういう気分じゃない?」
「ねーよ。ていうかあんた生徒に手出していいと思ってんの?」
「志賀のセンセイ像は厳しいなー」

清水が肩を竦めながら苦笑する。

「だってこんな場所でよー、可愛いこと言われたらムラッとくるだろ」
「え、あんた頭おかしい」

いつどこで誰が可愛いことを言ったんですかね。
おまけにこんな薄暗くてカビ臭くてきたねー場所でサカる神経が理解できない。

「おかしくねーよ。ほれ、手どけろや」
「いやいや何言ってんすか先生」
「あーいーね、その先生っての。お前いい声してるわ。やたら甘ったるい匂いするし志賀エロすぎ」

いやいやいや、なんでいきなり発情してんのこの人。
ずい、と更に清水が俺に迫ってくる。カラコンの入った不思議な色合いの瞳が俺を検分するように細められた。

「肌キレーだし顔も可愛いし、お前ならイケそーだわ」
「ないないムリですって。正気に戻れよクソ教師……んっ」

強引に手をどけられて清水に口付けられる。
相当ヘビースモーカーらしく煙草臭く苦いキスだった。




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