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おにぎりとパンを平らげて一息ついてから、紙パックのウーロン茶を啜りながら改めて千歳に向き直った。

「そういやさー、千歳は今朝の若林の話聞いてるよな?」
「うっすら。俺が教室に来たときは何にもなかったし、本人に聞きたかったんだけどすれ違っちゃってさ。なにがあったわけ?」
「俺も気になってた。隣が騒がしくて理仁がなんかやったってことくらいしか聞いてなかった」

今朝のあらましを二人に話して聞かせると、段々表情が険しくなっていった。

「制裁とかダセーことすんなってきつく言い含めてあるから俺んとこの親衛隊じゃねーな。ていうかそんなことやった奴がいたらシメる」

千歳が言うと、周囲で聞き耳を立てていた各務様親衛隊っぽい生徒がヒッと悲鳴を上げた。絶対服従って一体何してんだよ千歳。

「風紀はもうあの組織自体が委員長、副委員長たちの親衛隊みたいなもんだからそっちの線もなさそうだしな」
「親衛隊っつっても一枚岩じゃないとこもあるだろうしねぇ。執行部の親衛隊なんて人数が多いから末端まで管理しきれないかもしんねーし」

龍哉が難しい顔をして呟く。そう言う龍哉も親衛隊っていうか仲良しファンクラブみたいな集まりを持っている。
本人がやたら優しい性格のせいか、それに追従する生徒もなんだかのんびりした奴らの集まりだ。
月に一回、大学部のボランティアサークルと一緒に交流会を兼ねて慈善活動に行くあたり、筋金入りだ。
ちなみにこの大学部は共学だから、龍哉の例の友達以上恋人未満のヤツはそっちにいるんじゃないかと睨んでる。

要するに、親衛隊持ちって大変なんだなぁというのが俺の感想だ。すごく面倒くさそう。

「……まあ証拠も少ない今は考えても堂々巡りだな。とりあえずは再発しなきゃ上々ってとこだろ」
「だな。理仁がついてりゃ若林も安心だろ」
「その俺に対する絶対の信頼なんなの?責任重大なんだけど……」

ちょっと引き気味に言うと、二人が意味深な笑みを浮かべた。

「その理仁に俺も龍哉も付いてんだろって意味」
「やべー千歳かっこいいー惚れるー」

俺が適当に返すと「各務様カッコイイ……!」「各務様〜!」という本気の合いの手が入った。
なんだかやることが次から次へと舞い込んできて俺の容量はいっぱいいっぱいだ。腹も膨れたら処理落ちよろしく眠くなってくる。

「……俺、監査室でちょっと寝てくるわ」
「おー。午後の授業は出ろよー」
「うん」

空になった紙パックをつぶして龍哉と千歳に手を振る。

監査室の鍵は職員室にあるから借りに行かなきゃならないけど、どうせ今日の放課後も行くんだし借りっぱなしにしといても問題ないだろう。

そう思って職員室に行くと、ドアの前に立った瞬間手も触れてないのに自動ドアみたいにがらりと開いた。
ドアを開けたのはA組の担任・清水で、びっくりしたように俺を見る。俺の方も同じような表情になった。

頭頂部を盛ってガッチリ固めた金髪に、ピンクのカラコン、服はストライプの入った細身の黒スーツ。清水は今日も安定のホストっぷりだ。

「お、職員室になんか用か?」
「はぁ、監査室の鍵借りたいんで。小川先生います?」
「あーあぁ、ちょうど入れ違いだわ。あと二分早かったら良かったのにな、ざーんねん!」

言いながらけらけらと笑う。何がそんなにおかしいのかこの人のツボが理解できない。ていうか人の不幸で笑うなよ。

「あ、じゃあいいです」
「っとと、ちょちょちょ、ちょい待てって。お前、監査の志賀だよな?ちょっと俺に付き合えや」
「はぁ?嫌ですよ、もーすぐ授業始まるし」
「お前授業なんてサボりそうな顔してんのに意外に真面目君だなぁ」

サボりそうな顔ってなんだよ。志賀君は普通に真面目な生徒ですけど。

「うっせ……じゃねーや。マジメ君なんでこれで戻りますさよーなら」
「アッハハハ!いいねお前!んじゃ放課後俺んとこに来い」
「放課後は委員会の用事があるんで」
「だったら今からしかねーだろ」
「……あんた教師でしょ。生徒をサボらせてどーすんですか」

そんな「いつやるの?今でしょ!」みたいなドヤ顔されても……。

「固いこと言ってんなよー。礼はするって、な?」
「……英語の評価色つけてくれんなら」
「そりゃダメだろ」
「あ、そこは公平なんだ」

サボらせるくせに理不尽すぎる。俺は溜息を吐いた。

「あーもーいいっすよ。そのかわり篠原サンに怒られたらちゃんと説明してくださいよ」
「あ、なに次体育なのかよ。そんなら志賀は生理で休みましたっつっとくわ」
「やめて俺明日から学校来れなくなっちゃう!」
「ブッ、ギャハハハハ!!」

わりと本気の訴えに清水が爆笑する。性格悪いなコイツ!思春期の男子はデリケートなんだぞコラ。





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