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転校生の存在はともかく、話の続きが気になって先輩の顔をじっと見つめた。

「でもね、そう言ったけど先輩はいつも通り監査業務を進めてたよ。ほら、今の時期っていったら学園祭のこともあったから大変でね。転校生の彼、実行委員に入って全体企画で無茶な案を進めようとしたり、学園祭を一般公開にして校外の仲間を呼ぼうとしてたらしくて」
「一般公開……マジすか」
「生徒会長筆頭に役員そろってそんな感じだったから風紀と毎日派手にぶつかり合ってたなぁ。――だけどね、夏休みが明けたら転校生の彼、いなかったんだよ」
「はっ?」

急転すぎて変な声が出た。

「いなかったってどういうことですか?」
「それがね、別の学校にまた転校しちゃってた」

そうして転校生がいなくなってめでたしと思いきや、学園祭関連での波乱は続く。
転校生がさんざん引っ掻き回して放りっぱなしのグダグダになってた学園祭計画。
それを立て直すのに、当時、生徒会庶務だった一年生の青柳先輩と万理小路先輩が大活躍したそうだ。
中等部でも会長、副会長だったから生徒会業務に慣れてるし、すでに親衛隊もいて人望もあったとか。
彼らは転校生に惑わされることはなかった。
ナルシスト万理小路先輩は自分が一番で他人に興味がなく、青柳先輩は隠れヘタレだから暴力転校生が単純に怖かったんだと思われる。

色々ありつつも無事に開催された学園祭。しかしなんと、転校したはずの転校生が不良のお仲間を連れて乗り込んできたという。
ところが縄張りを荒らされて黙っちゃいないのがヤンキー陸上部。
長浜パイセン(当時一年)がそれはもう鬼のような強さを発揮して撃退し、その功績でヘッドの地位を獲得したそうだ。超どうでもいい情報をありがとう、田中先輩。

そんなわけで、学園祭直後に職務怠慢を理由に風紀が執行部を解散に追いやり、当時の生徒会長以下役員は失墜。彼らの親衛隊も解体。
新役員選挙では会計や書記は二年生からの選出だったが、青柳先輩と万理小路先輩が一年生ながら会長、副会長の座に就きました。めでたしめでたし、と。

……いやめっちゃ長いじゃねーか、話。

「そのあと、ツバメ君は成績不振に加えて制裁の件が素行不良にあたるってことでA組から降格。僕も共謀の疑いで同じく。僕は周りからツバメ君の仲間って括りにされてたからね」
「えっ、それってすげえ理不尽じゃないっすか」
「いいんだ。あのときのA組の雰囲気ってギスギスしててストレス大きかったし、体育の成績落としてもいいぶんD組になって学園生活はすごく楽になったよ」

だけど、二年から寮部屋は別にしてもらったそうだ。村岡先輩に関わるとロクなことにならないと、その一年で十分学んだから。
クラスのほうは他に空きがなくてまた同じになったが、それはしょうがないと田中先輩が苦笑した。

「そんなことがあったから、志賀君の学年に転校生が来るって聞いたときちょっと不安になったんだけど、杞憂だったね」
「いや、つーか三春もだいぶ学園内掻き回したじゃないですか」
「たしかに困ったけど、僕らのときに比べたら全然だよ。それに三春君も今は落ち着いてるでしょ?志賀君とも仲良しみたいだし」
「まあ……。んで、それどこに深……伊吹先輩が関わってるんすか?」
「あ、そうだった。あのね、ツバメ君と寮部屋を変えてもらえるように先輩が寮長に頼んでくれたんだよ。あと、転校生の彼を別の学校に転校させるようにしたのが伊吹先輩みたい。どうやったかは知らないけど……」

なんだそれ。理事長の親戚権限を使ってとか?こわっ。
俺が内心戦々恐々としていたら、先輩は右、左と見回したあと、前のめりに俺に顔を寄せてさらに小声になった。

「もう卒業してだいぶ経つから言っちゃうけどね――伊吹先輩って、実は影の組織を操ってたんだって」
「はい?」

学園の話をしてたはずがいきなり特撮番組っぽくなった。

「なんていったっけなぁ……ナントカっていう、えーと……情報屋さん?」
「!?」

その単語を聞いて無意識に息を呑んだ。
情報屋組織・シラタマ。組織を、操ってた?それってつまりリーダーって意味?

「風紀がね、その情報ナントカっていうのを使って執行部を解散に追い込んだんだって。親衛隊同士の小競り合いとか先回りして回避したりね」
「…………」
「最初冗談かなぁって思ってたんだけど、実際、伊吹先輩が『どうにかしよう』って言ったあとすぐに事態が収束していったからね」

あれは鮮やかだったなぁ、とつぶやきながら田中先輩が頷く。だけど直後にハッとして、恥ずかしそうに口元を覆った。

「って、ごめんね。伊吹先輩と知り合いなら志賀君はもう知ってる話だった?」
「いや……初めて、知りました」

シラタマの元締め。深鶴さんが。
現・元締めの椎名が言ってた。元締めの顔はメンバーですら知らない。知る権利があるのは生徒会長、風紀委員長。
それなのにその権利がないはずの天佑は椎名のことを知っていた。あいつは、どうやって知った?
天佑は前・元締めの深鶴さんから次代のリーダーをあらかじめ教えられてたんじゃないか――そう考えれば腑に落ちる。

「あの、その生徒会長って執行部解散後どうなったんですか?」
「一連の騒動のあとすっかり大人しくなっちゃってね、冬休み明けにはいなくなってたんだよ。噂では、転校生の彼を追って学園を辞めたって言われてたよ」
「…………」
「人を好きになるのってなんだか怖いね。そんな風に夢中になれる人がいるのは、ちょっと羨ましい気がするけど」

どう返せばいいかわからなくて黙ってたら、そういえば、と田中先輩が何かを思い出したように手を叩いた。

「恋愛といえば――たしか学園祭のときだったかな?一度ね、伊吹先輩が言ってたんだよ」
「……何を?」
「先輩も恋人がいたみたい。出会いは前の年の学園祭だったらしくてね、すごく可愛がってて、その子が卒業したら一緒に暮らすみたいなこと言ってたよ。生徒の名前は教えてもらえなかったけど下級生っぽかったなぁ。志賀君、知ってる?」

一気に全身が冷えた。血管に氷が流し込まれたみたいにつま先まで体温が下がる。
――学園祭中?そのときはもう、俺と深鶴さんは別れてたはずだ。なのに『卒業したら一緒に暮らす』?

「……や、知らないです。すいません先輩。話途中ですけど、そろそろ俺も見回り行ってくるんで」
「あっ、そうだった!ずいぶん足止めしちゃってたね」
「話、色々ありがとうございました」
「ううん、たいしたこと話せなくてごめんね」

癒し系の笑みで軽く手を振る田中先輩に背を向けて、逸る気持ちを抑えつつ監査室を出た。


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