飛雄は日向を後ろから抱きしめ、甘えるように日向の肩に自分の頭をグリグリとさせる。
普段はツンドラな飛雄だが、日向に限り、ハニートーストに砂糖と蜂蜜をドロドロにかけたように甘い。
幼少期、日向が飛雄を彼が抱えた闇から救いだしたその日から、飛雄にとって日向は世界そのものとなった。
「ひーな」
「ん、どーしたの、とび」
「すき」
「ん」
「すき。すき。だいすき。あいしてる。ひな、ひな、ひーな……ひな。ひな。ひな。ひな。ひな。ひな。ひな。ひな。ひな。
ひな。ひな。ひな。ひな。ひな。ひな。ひな。ひなーーーー」
時々、こうして壊れたラジオのように日向に愛を囁く。
度々訪れる『いつか日向が自分から離れてしまうのではないか』という恐怖故の発作。
クルリと身体を回転させた日向は、目の前で怯える飛雄を優しく包み込むように抱きしめる。
するとピタリと飛雄の声が止んだ。
「だいじょうぶ。ひなは、とびの側をぜったい、離れないから」
「ほんと?」
「うん。ぜったい」
「もし嘘吐いたらひなを殺して、オレも死ぬからね」
「ん、わかった」
未だ甘えるようにグリグリと日向の肩に頭を擦り付ける飛雄の背中を宥めるように摩った。
飛雄は本気だった。
日向が自分から離れた瞬間、自分以外のモノになるぐらいならいっそ日向を殺して、自分も死んでやる、と。
そして、日向もまた、飛雄が本気でそうするだろうことを知っていた。
分かっていて逃げないのは、日向もまた飛雄と同じ想いを抱いていたから。
二人は知っていた。
これが異常だと。
世間からは決して受け入れられないと。
それでも二人はすでに互いから離れられなくなっていたのだ。