実は従者だった花宮真
ーーーーピピーッ。
ああ、やっと、やっと終わった。
これで漸くバスケから解放される。
そう思ったら自然と口角が上がっていた。今の自分はきっと普段のような馬鹿にした笑みではなく清清しい笑顔なのだろう。
その証拠に誠凛の奴らは自分たちが勝ったにも関わらずこちらを見て唖然としている。
ああ、おそらく俺だけじゃなく彼奴らも笑っているのだろう。彼奴らも懐いてたもんな。
だってこれでーーーー
「真」
決して大きな声じゃないのに凜とした彼女の声がコートに響き渡る。
ああ、どれだけこの日を待ち望んでいただろう。自分の名を呼ぶ彼女の声に身体が甘く痺れた。
周囲の視線をモノともせずに堂々と俺たちがいるコートへと近付いてきた彼女は、俺の前で立ち止まると俺の頬を優しく撫でた。まるで癇癪を起こす子供を宥めるように。
「困った子……自ら手放す必要なんてなかったんじゃないかしら」
「俺がソレを望んでないことは知ってただろ?」
「……そうね。貴方がそう決めたのなら私はもう何も言わないわ」
俺ら一人一人に目を走らせた彼女は目元を和らげると、未だ困惑している誠凛の奴らに体を向けた。
「貴方たち、特に貴方にはこの子が迷惑をかけたわね。許されないことをしたと思っているわ。もちろん許して欲しいだなんて言わないけれど謝らせてちょうだい。私がこの子を追い詰めてしまったの……ごめんなさい」
「「「!?」」」
いきなり現れた見知らぬ少女の謝罪に誠凛は困惑する。花宮もまさか彼女自ら頭を下げるとは思ってもいなくて焦る。
「えっと、どういうことなの?」
相田リコは突然現れた霧崎の関係者と思われる少女の謝罪に戸惑っていた。何やら花宮と親密な関係だということにも。
「お前らには関係ねェよ」
「真」
花宮は自分を咎める彼女を一瞥するが頑な態度を崩さない。
「もうバスケともこいつらとも関係ねェ。だから説明はいらねェよ」
「はあ……分かったわ。真の好きになさい。貴方には大分我慢をさせちゃったみたいだから」
「ん」
彼女の言葉に花宮は嬉しそうに笑む。
「花宮、今の言葉はどういう意味なんだ?」
「はあ? そのままの意味だ。今後一切バスケはやらねぇ。だからお前らとも今日限りだ」
「なんで……花宮、バスケ好きだろ? 負けたからってーーーー『何言ってんだ?』
「え?」
「別に俺はバスケが好きだったわけじゃねェ。凛に言われたから仕方なくバスケやってただけだ。試合に負けたら戻っていいって約束だったから元の生活に戻る。それだけだ」
「本当は私から解放される猶予期間だったんだけど……」
「ハナからんなのいらねェよ。もともと義務とかンなの関係なく、ただお前の側にいたいだけだって言ってんだろ、バァカ」
「真には余計な御世話だったみたいね」
和やかに話す俺たちに誠凛の奴らはただ唖然とするだけだった。
この日を境に花宮真はバスケ界から姿を消した。
※補足説明※
実は財閥の令嬢である夢主。悪童は生まれた時から彼女の従者として教育を受け、顔を合わせた際に夢主に惚れ込み忠誠を誓う。いつも従者として良くしてくれている彼に感謝している一方で、生まれた時から決められてしまった従者としての生き方に申し訳なさを感じていて、せめて大人になるまでは自由に学生生活を送って欲しいという願いから夢主と悪童は別々の学校に。悪童としては一時でも夢主の側を離れるなんて納得いかなくて、でも夢主の願いを無得に出来なくて、その憂さ晴らしにラフプレーに走ったりという経緯がある。漸く夢主の従者として復帰できるということで負けたのにも関わらす清々しい悪童。
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