彼女のファーストキスは誰のもの?
はあはあっと息を荒げながら、ナルトは玄関の戸を開け放った。
急いで帰ってきたのだろう。普段なら余程のことがない限り、滅多に息を乱さないというのに。
ソファで静かに昼寝をしていた九喇嘛は大きな物音に、人よりも優れた聴覚が刺激され、目が覚めてしまう。
「(……なんじゃ、騒々しい)」
内心ブツブツと悪態をつきながら、気怠げに身体を起こしたところで、ちょうどナルトが現れる。
「九喇嘛、あのねっ! って、もしかして起こしちゃった?」
寝起き姿の九喇嘛を見て、ナルトは申し訳なさそうな顔をする。
「うむ……騒々しくてのう」
「ご、ごめん」
未だ眠そうに目を擦る九喇嘛の仕草に内心キュンとしつつも、素直に謝るナルト。
一方、九喇嘛は、どこかソワソワと落ち着かない様子のナルトを訝しむ。
「それで、そんなに息を乱してどうしたのじゃ?」
「あっ、やっ……えっと……その……」
「なんじゃ、どうかしたのか?」
ついさっきまでは当たって砕けろ!とばかりに意気込んでいたものの、いざ本人を目の前にすると途端に気持ちが萎んでしまう。
本当は私のことをどう思っているのか知りたい。けど、今はまだそんなこと到底聞けそうにない。
だって答えは聞かなくても最初から分かりきっているから。
ナルトは知っていたのだ。
自分が九喇嘛の恋人になることが出来たのは、九喇嘛が多少なりとも自分に情を抱いていたから。
だから彼は自分を拒絶できなかった。
けれども、その気持ちはナルトと同じものではなく、妹を想うような、あるいは娘を想うような家族愛に近いものなのだと。
だから彼の恋人になった今でも、この想いはナルトの一方通行だった。
「(今はそれでもいい。この想いが交わらなくても。けど、いつか……いつかきっと……)」
モゴモゴと口ごもっていたナルトだったが何とか自分を奮い立たせる。
今はただ私が本気なのだと、本気で九喇嘛が好きなのだと、何度も伝え続けることしか自分に出来ることはない。
「っ、あのね……九喇嘛に、その、キスして欲しいの……!」
「な、ナルト!?」
「あ、あの……えっとね、九喇嘛を好きになった日からずっと大事に取っておいたの。だからね! その……九喇嘛に貰って欲しいの……ナルのファーストキス」
「(きゅん)」
首まで真っ赤になって恥ずかしそうにそう告げるナルトに、不覚にもときめいてしまった九喇嘛だったが、ハッと我に帰る。
「(ま、待て。待て待て待て!落ち着くのじゃ。何うっかりときめいてるのじゃ。わ、儂は、ろりこん、ではないぞ! だ、断じて違う!お、おい、目を閉じるでない!)」
両手を胸の前で組みながらナルトは目を閉じた。
だが、何時まで経っても九喇嘛からの口付けはなく、半ば予想はしていたものの内心ガッカリする。
だが、転んでもタダでは起き上がらないのがナルトである。
「もう仕方ないなぁ」
「お、おいナルト!?」
あたふたする九喇嘛を強引にソファに座らせると、あれよあれよという間にその膝の上に乗り上げた。
そして、あたふたと動揺している九喇嘛の唇にちゅっと自分の唇を重ね合わせたのだ。
「えへっ、奪っちゃった」
「!?(ぎゃあああああ!ち、違う!わ、儂はろりこんではない!ろりこんではないぞ!ほ、本当じゃ!断じて違う!わ、儂はろりこんじゃないーーーーッ!)」
嬉しそうに頬を染め、はにかむナルトとは打って変わって、まさか本当にナルトとキスするとは思っていなかった九喇嘛の心は動揺から荒れに荒れた。
あくまでも彼女を娘のように、あるいは妹のように大事なのだと、そう思っていた。