お父さん、この人が私の大切な人です。


 穢土転生がもうすぐ切れるという最後の最後にナルトが大きな爆弾を落とす。
 のちに九尾と婚姻関係を結び人間と尾獣の架け橋となった女性である。



「うっ……ううっ……ナルちゃん」

 成長して美しくなった愛娘との別れにドバドバと滝のように涙を流す父、波風ミナト。
 その様子を傍で歴代の火影たちが微笑ましそうに(一部呆れている者もいるが)見守っていた。
 だが、涙の別れかと思われたその時、娘が放った一言にミナトは凍りついてしまう。

「待ってお父さん。ーーあのね、実は紹介したい人がいるの」

 紹介したい人がいるのーいるのーいるのーと、その場にナルトの声が木霊する。

「え、」

 まっさかー、と嫌な予感を必死に打ち消そうとするミナトだが、娘は容赦なく(ミナトにとっての)死の宣告をした。

「えっと、あのね……ナルの恋人で、未来の旦那様ーーーー九喇嘛よ!」

「「「「…………は?」」」」

 頬を染めてキャー言っちゃった!と一人盛り上がるナルトだが、落とされたその爆弾にミナトだけでなく、様子を見守っていた者たちも呆気にとられる。

 九喇嘛ってあの九喇嘛だよな、と皆は九尾をチラリと一瞥するが、当の九喇嘛は突然のナルトの宣言にパニクりそれどころではなかった。

「ちょ、ちょっと待ってナルちゃん! 百歩譲って恋人がいるのは(本当は認めたくないけど)認めるとしても、その相手が九尾ってどういうこと!?」

 父、吠える。

「そ、そうじゃナルト! どういうことじゃ!」

 孫のように思っていたナルトのあまりに突飛な発言に腰を抜かす三代目火影、猿飛ヒルゼン。

「流石に笑えんのー」

 大抵のことは笑って吹き飛ばす初代火影である柱間もさすがに困ったようで苦笑いする。

「尾獣が恋人とは前代未聞だな……」

 二代目火影、扉間は兄以上に規格外すぎるナルトにこめかみを押さえた。

「ちょっとナルトー!? こんなところでそんな意外性発揮しなくても!」

 可愛い教え子であるナルトの言葉に流石のカカシもギョッとする。

「ナルトの恋人って九尾だったの!?」

 サクラはナルトの恋の相手が九尾だった事実に目をひん剥く。
 長年ナルトの恋の相談にのっていたサクラはナルトの相手が九尾だと知り、嘘でしょーっ!?と叫んだ。

「?」

 周りが驚こうがそれがどうしたの?と自分の発言がいかに周りに衝撃を与えているのか全く気付かないナルト。

「いやいやいや、キョトンって顔されてもパパは騙されないよ!」

「九喇嘛の何がダメなの?」

「いや、何がってーーーー」

「だってお父さん、九喇嘛は私が物心つく前からずっと私を守ってくれたのよ? 初めて私自身を見てくれたのも、ここまで忍びとして育ててくれたのも全部九喇嘛だった。今の私があるのは九喇嘛のおかげなのよ?」

「うっ……でもねナルちゃん……」

 生まれたばかりのナルトに九尾を封印して死んだミナト。その負い目からあまり強く否定出来ずにいたが次の言葉に絶句する。

「そ、それに……(ポッ)初めて人を好きになったのも……私のファーストキスを捧げたのも……その、初めて身体を捧げたのだって九喇嘛なのよ?」

「ナ、ナニィ!?」

 恥ずかしそうにけれど幸せそうにはにかむナルトをよそに、大事な大事な嫁入り前の娘が身体まで汚されたとなってはミナトも黙ってはいられない。
 柔和な目を吊り上げ、髪を逆立て、憤怒した。

「お、おいナルトっ!?」

 ミナトの異変にいち早く気付いた九喇嘛は冷や汗をたらりと垂らした。

「おい! 九尾てめえーっ! 嫁入り前の大事な娘に何しとんじゃあああああ!」

「もうお父さん、嫁入り前だなんて古いわよ? それに九喇嘛はナルの将来の旦那様なんだから別にいいじゃない」

「だ、だめに決まってるでしょ! そんな簡単に男に身体を許しちゃ、め!」

「何言ってるのよ、お父さん。九喇嘛はいつだって私を大切にしてくれたし、どんな時も紳士だったわ。むしろいつまで経っても触れてくれない九喇嘛に焦れたナルが夜這いをかけたんだもん」

「ぎゃあああああ! ナルちゃん何言っちゃってんのーッ!? パパはそんな子に育てた覚えありません!」

「だって初めて心の底から欲しいと思ったんだもの。ありとあらゆる方法で全力で奪い取らなきゃ。待ってるだけじゃ何も手に入らないのよ?」

「うぅ……ナルちゃんが逞しすぎる」

 さめざめと顔を覆い泣くミナト。

「さすが儂が認めた娘よ!」

「……六道のじじい」

「先ほど娘と相対した際、儂が六道仙人だと知った途端『九喇嘛を私にください。絶対、幸せにしますから!』といきなり土下座されての。あの時は何世紀ぶりに驚いたわい。まったく良い女子に巡り合ったのう……九喇嘛?」

「………ああ」

 今ではなくてはならない存在となった少女を見つめながら九喇嘛は照れたように小さく頷いた。

「俺らはナルトと九喇嘛の婚姻を認めるぜ」

「全尾獣の総意だ」

 彼らもまたナルトの口から直接九喇嘛との仲を聞かされていた。
 人間が尾獣を、尾獣が人間を愛する。
 そのことに大層驚かされたが、幸せそうな二人を見て彼らの中に希望を見た。
 この二人ならば尾獣と人間との間にあった確執さえも取っ払えるのではないか、と。

 六道仙人と尾獣たちから祝福を受けたナルトと九喇嘛は互いに顔を見合わせると嬉しそうに笑った。
 そんな幸せそうな二人を見せつけられて反対できる人間はいない。ーーいや、一人いた。

「ちょ、ちょっと待った! なんか一気に良い雰囲気になってるけど、僕はまだ認めたわけじゃーー」

「四代目火影、波風ミナト」

 いつの間にか人型になった九喇嘛がナルトの隣に立ち、ミナトと対面する。

「ナルトは儂である九尾を封印されたその瞬間から何度も命を狙われてきた」

「!」

「儂とナルトはいつも同一視され、世話役が作った食べ物にはいつも毒が入っていた。儂に恨みを持つ連中はナルトをその捌け口とし、殴る蹴るだけでは飽き足らず、武器や時に忍術を使ってまでナルトを傷つけた。儂の治癒でもってしてもそれは間に合わなず、幼いナルトの身体はいつもボロボロだった」

 その時を思い出したのだろう。
 胸の内から湧き上がる感情にナルトは力強く掌を握り締め、血が流れるその手を九喇嘛がそっと優しく包み込んだ。

「そんな時ナルトと儂は精神世界で出逢った。それ以来何を思ったのか、儂のところにやって来てはただいつもニコニコと話をしにやってきた。儂を恐れる人間はいても儂に笑顔を向けた人間はいなかったから初めは大いに戸惑った。だが、いつの頃からかナルトが訪れるのが当たり前になり、いつしかナルトに対し情が芽生えた。そんなある日、儂がナルトの中に封印されている九尾だとナルトが知った。きっと他の人間と同じで儂を恐れ、憎むだろうと思った。だがナルトは儂を想って泣いたのだ。自分のせいで儂がここに閉じ込められていると思ったらしい。いきなり封印を解こうとするナルトをなんとか説得したがあの時は本当に焦った。それからだ。なんとかして儂を外に出そうとし始めたのは。そして本当にそれを可能にしてしまった。そこで初めてナルトに『ずっと好きだった』と『一目惚れだった』のだと言われ言葉を失った。儂は人間ではなく、尾獣である九尾だ。互いに流れる時間も違うし、生きた年も違いすぎる。根本的に人と尾獣とでは何もかも違いすぎるのだ。そもそも尾獣と人間が共になるなど前代未聞。せっかく里の人間に少しずつ受け入れられてきたというのに、儂と結ばれることでそれが壊れる未来は見えている。何より人間として家庭を持ち、子どもを持つという普通の幸せが儂とでは築くことが出来ない。だが、その度にナルトは真っ直ぐ儂を見て言うんじゃ。『儂のいる未来以外いらない』と。『儂といられるなら地獄だろうと闇の中だろうと幸せだと。だからあの時、地獄の中でも生きていけたの』だと。だからーー」

 九喇嘛は綺麗な所作で膝をつき、ミナトの前に正座した。

「ナルトをーーそなたの娘を儂にくれ。儂には勿体無い女子だが、必ずナルトを幸せにすると誓う……!」

 そう言ってミナトに頭を深く下げた九喇嘛。最強と恐れられた尾獣が一人の人間に頭を下げた事実に周りは息を呑む。

「お父さん。私……九喇嘛となら、九喇嘛が隣にいてくれるなら、それ以上何も望まない。九喇嘛と共にあることが私の唯一の幸せなの。だから九喇嘛との結婚を認めて下さい。ーーお願いします、お父さん」

 九喇嘛に続くように膝をつき頭を下げたナルトに周りはもうここが戦場だとか忘れて祝賀モードになる。

 娘がここまで相手を想い、相手もまた同じように娘を想ってる事を知って、ぐっと言葉に詰まるミナトは色んな思いがこみ上げてきて泣きそうになる。
 また、父として娘に何もしてやれなかった後悔があと押ししてーー。

「はあ……これじゃあ、認めざるを得ないか。いい! 絶対……ぜーったい! ナルちゃんを幸せにすること! ナルちゃんを泣かせたら許さないからね!」

「ああ、誓おう」













「ーーうそ。やっぱりナルちゃんが心配だからまだここにいる! ナルちゃんの花嫁姿も見てないし!」

「「は?」」

「うん、そうと決まったら……すみませ〜ん。僕、まだあっちに行けないのでクシナによろしく伝えておいてください〜」

「「「「はぁあああ?」」」」

 こうしてミナトは歴代火影たちを見送り、自分は木の葉に堂々と居座った。
 そして九喇嘛をネチネチといびりつつ、可愛い愛娘にまとわりつくのだった。
 もちろん毎度毎度九喇嘛との仲を邪魔されブチ切れたナルトが、九喇嘛を連れて長い長いハネムーンへと旅立つのだがそれはまた別のお話。


prev back next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -