感光する記憶

(ジェルマがアイドルという設定です。主人公がイチジ推し設定です。)

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とある平日の、深夜の時間帯。
高校生にもなれば、この時間でも起きている人は多いだろう。
この少女、ナマエ ミョウジも起きているひとりだった。

「あっ、当たった・・・」

ナマエは自分のスマホを壊れんばかりに握りしめた。

「当たったあああああ!!!!」

近所迷惑ともとれるほどの大声でナマエは奇声を発した。


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「・・・おはよ、プリン」
「おはよう、ってアンタどうしたのその目のクマ。化粧してるけど誤魔化せてないわ」

朝。家がお隣さんの私とプリンは毎朝一緒に登校するのが小学校から今までずっと続いている。

「昨日興奮で眠れなくて。叫びが止まらなかった」
「・・・もしかして昨日の夜中変な声出してたのアンタ?」

プリンがくるくると自分の髪をいじりながら顔を顰めた。

「うそ、聞こえた?」

ナマエは目を見開いた。まさか聞こえてたなんて。

「変質者かと思ったわよ。警察に通報しようとも思った。でもよくよく聞いてみたら声がナマエでさ。でっかい寝言かと思って放置したわ」

ナマエが手で顔を覆う。きっとカタクリにも聞こえていたに違いない。

「あっ見て、町内会のパトロールが朝からあるわ。ほんとに変質者かと思われたんじゃないナマエ・・・」

見れば背中に大きく町内会パトロール中と書かれた蛍光イエローのおじさんが旗を持って見回りをしていた。
どうやら無駄に仕事を増やしてしまったらしい。

「・・・で?何があったの?」
「あのね!」

ナマエはプリンにスマホの画面を突きつける。

「ジェルマの!ライブが!当たったの!」
「へえ、そう」
「もっと驚いて!?」

プリンは興ざめ顔で相槌を打つ。

「正直なところ、ジェルマの魅力が1mmもわからないわね」

ジェルマとは、今まさに人気急上昇中の66事務所に所属する男女のアイドルグループである。その活動はドラマや映画、バラエティと幅広い。

「イチジに会えるんだよ?」

ナマエはイチジを推している。

「まあ、楽しんできなさいよ。ところで誰と行くの?」
「ネットで知り合った人ー」
「・・・」

プリンは嫌な予感を感じた。

「その人とはすっごい話が合ってね、今回初めて会うの。まあ男なんだけどね」
「気をつけてね・・・」

プリンは溜息をついた。カタクリに知られたらまた騒動が起こるに違いない。
ナマエはそんなプリンの心配など露知らず、ジェルマと会える日を心待ちにするのであった。

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そして、来る日曜日。
バイトもシフトをずらし、全身赤のイチジカラーに身を包んだナマエは駅で相手を待っていた。
駅には他のジェルマファンが沢山いて、その色とりどりな光景に目が疲れる。

「・・・ナマエちゃん?」

名前を呼ばれ、ぱっと顔を上げると、そこには全身レイジュカラーのサングラスをした男が立っていた。

「もしかして、ヴィトさんですか?」
「そうレロ!」

直感的に、いい人だと感じた。

「わああ会えましたね!記念に写真撮りましょ!」

ヴィトとツーショットを撮る。撮った画像はプリンにも送った。

「ライブが始まるまで少し時間があるレロ。ちょっとそこらでジェルマについて語らないレロ?」
「是非」

ナマエとヴィトは手頃な喫茶店に入った。



その様子を、影からじっと見る人物が一人。
全身黒い服にマスクをしてサングラスをかけた、見るからに不審者か芸能人の格好をした女。
プリンである。
別にカタクリに偵察を頼まれたわけではないが、なんとなく、ただなんとなくでナマエを尾行していた。
カタクリもまたナマエセコムだが、プリンだって立派なセコムである。

「(あの男、誰なのよ・・・!)」

兄妹に連絡し、すぐに誰だか調べてもらった。

「(うちの傘下の会社に勤務しているわね・・・)」

男は株式会社トットランドの傘下、株式会社ファイアタンクの相談役だった。

「(ナマエに手出したら、ただじゃおかないわよ・・!!)」

プリンは二人が入った喫茶店をひとしきり睨みつけたあと、また偵察を再開した。

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右手には赤いペンライトが四本。左手にも四本。両手合わせて八本のペンライトを装備したナマエはライブが始まるのを今か今かと待っていた。
そして、遂に待ち望んでいたライブが始まる。

「キャアアアアアアア!!!」
「ウオオオオオオオオ!!!」

男女のファンの声が重なる。男性ファンの多くはレイジュ推しだ。

「スパーキングレッド!!!!」

ナマエも負けじと声を張る。

「ポイズンピンク!!!レロ!!」

ヴィトも発狂したようにペンライトを振り回す。

「皆のもの・・死にてェやつから付いてこい!!!」
「イエッサアアアアアア!!!」

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頭の中でまだぐわんぐわん、とジェルマの曲が流れている。
未だ興奮冷めやらぬ会場で、ヴィトは手に持ったピンク色のボールを涙を流しながら握りしめていた。

「まさか・・レイジュの・・サインボール!?」

ヴィトが頷く。これはヴィトの家の家宝になったことであろう。



「・・・今回、ジャッジさんもサプライズで来てくれたよね!アンコールも何回も応えてくれたし」
「今回はデビュー記念ライブだったから豪華だったレロ。それにしてもあの時のレイジュの美しさ・・眼福レロ」

またヴィトは涙を流す。今日はみんな涙腺がおかしいようだ。

「絶対イチジと目があった気がするの。向こうはサングラスかけてて目が見えなかったけどさ」
「それを目があったとは言わないレロ」



二人で余韻に浸りながら歩いていれば、いつの間にか駅についた。

「今日はありがとうレロ。またライブが当たったら行こうレロ!」
「うん!こちらこそありがとう!楽しかったね」

ばいばーい、と二人は反対方向に歩き出した。



自宅の最寄駅で降りると、気付けばもうあたりは暗くなっていた。高校生が出歩く時間帯ではない。お母さんに迎えに来てもらおうと思ったが、遅い時間まで仕事で疲れていると思い、やめた。

(変な人とかいませんように・・)

ナマエがこう思うのは、実は今日一日中視線を感じたからだ。(プリンである。)
自然と歩くスピードが早くなる。早く家に帰りたい。

「あ、雨」

ぽつ、ぽつ、と雨粒が地面にしみを作る。
そのしみの面積は徐々に大きくなっていき、ついには雨足が強くなる。
濡れたくないので、屋根のあるところに一旦避難する。

そこには、先客がいた。

「・・カタクリ?なんでここに」

私の、好きな人。雨にあたってしまったが、今日はイチジに会えるといい、帰りにカタクリにも会えるといい、なんてツイてるんだろう。

「学校の帰りだ」
「嘘でしょ。鞄持ってないもん」
「・・・」

どうやら図星らしい。

「喧嘩の帰り?」

と言ってからナマエは違うと思った。カタクリはいつも放課後に喧嘩する。わざわざ家に帰ってから喧嘩しに行くなんてしない。

「もしかして、私を迎えに来てくれたとか?」
「・・・プリンに頼まれて仕方無く、だ。」

その声は、少し気恥ずかしそうで。ああ、今が夜じゃなかったら。カタクリの顔が赤いのを見れたかもしれないのに。
プリンに頼まれて仕方無く、でもいい。カタクリが私のために来てくれたということが嬉しかった。ナマエの心は嬉しさでいっぱいになった。

「傘、無いの?」

ザーザーと雨は激しくなる一方だ。

「私、持ってる。ちっちゃいけど」

ナマエはリュックから折りたたみ傘を取り出した。
カタクリは無言でナマエから傘を取ると、傘を開いて中にナマエを入れた。
こういう、何も言わないけど傘を持ってくれるような紳士的なところが好き。でもね、これって・・

(相合い傘じゃん・・)

これは嬉しいを通り越して恥ずかしかった。小さい傘は、二人分も雨から守ることは到底できないようだ。つまり必然的に距離が近くなる。

「帰るぞ」
「うん」

二人は無言で雨の中を歩く。肩幅の広いカタクリは体の半分ほどが雨に濡れていた。
会話こそなかったけれど。ナマエはジェルマに会った時とは違う喜びに包まれていた。

(まるで、恋人同士みたい)

ナマエは終始喜色満面だった。





    相合い傘 濡れてるほうが 惚れている



感光する記憶

カタクリさんはEX〇LEにいそう



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