幸福のおかわり

ナマエは自分の部屋の勉強机の上に、バイト先で貰った売れ残りのドーナツを置いて待機していた。
別に何の約束もしたわけではないが、ただ、カタクリが窓を開けてくれる時を待っている。

電気はついてるのにな。やっぱり他のことしてるのかな。

そうこうしているうちに、だんだん眠くなって、頭が下がってきた。駄目だ。がんばれ、おきていろ・・。


本能には抗えず、寝入ってしまったナマエは、窓が開いたことに気が付かなかった。


***

机の上には大好物のドーナツ、とナマエ。勇気を振り絞って来た甲斐があるとカタクリは思った。
いくら幼馴染、そして想いは通じ合ったとはいえ、思春期真っ只中の男子が女子の部屋に入るのは如何なものかと思い、窓の前でずっと躊躇していたのだ。

もしかしたらナマエも窓を開けてくれるのを待っていてくれたのかもしれない。たまらなく嬉しくなったカタクリは彼女の髪の毛を優しく撫ぜた。以前は出来なかったこういう事が、今では堂々と出来る。髪を耳にかけてやると、彼女の寝顔が目に入った。
吸い込まれそうなほど、可愛い。しまった。カメラを持ってくるべきだった。
でもまあいい。これからはいつでも側で見れるようになる。

「・・・んぅ?」
「おはよう」
「うん、おはよう・・・・って何故ここに」

ナマエは起き上がって周りを見渡した。確かに自分の部屋であるが・・。どうしてカタクリがここに。

「窓からきた」
「なるほどー」

ナマエが眠りこけている間に、カタクリはもう来ていたということか。

「このドーナツ、食べてもいいか」

さすが大好物には目がない様子。目がキラキラ輝いている。

「いいよ。はい、あーん」
「あーん」

いつものクールな彼とは打って変わって甘えるように口を開けたものだから、可愛くなってニヤニヤしてしまう。

「カタクリ、可愛い」
「やめろ、全然嬉しくねえからな」

はっと、彼が何かを思い出したような顔をした。

「何?」
「・・・・もうおれ以外の奴にするんじゃねえぞ」

あーんを。きっとルフィにしたことを思い出したのだろう。それよりも彼の口から出た"あーん"という単語に笑ってしまった。

「何笑ってんだ」
「はい、あーん」
「あーん」

カタクリは無意識にあーんを発動しているらしい。照れている。

「やっぱり可愛いじゃん!」
「テメエ・・・あんまり調子乗ってんなよ」

ちょっとイラッとしたのか、こちらを睨みつけてくるけど、痛くも痒くもない。と、思っていれば。

「わっ」

勉強机のすぐ横の、ナマエのベッドに体を押し倒された。
あー、これって。

「カ、カタクリさん?」

カタクリは熱っぽい視線でナマエを捉えたままだ。



「・・何年待たされたと思ってんだ」
「あ・・・」

我慢が嫌いなカタクリは、目の前の大好物も我慢出来ないらしかった。


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